期待された「受け皿」側の本音

    企業ニーズの観点からいわれる弁護士増員の必要性も、現実にどのくらいの規模が必要なのか、あるいは企業内弁護士も含めて、「受け皿」としての責任あるご意見となると、なんとなく歯切れが悪く、「使える能力のある方ならば、企業は企業の論理でとるはずです」と聞こえる声が返ってくる風があるのが現状です。

     そうしたなか、6月15日に開かれた「法曹の養成に関するフォーラム」の第2回会議で、委員からこんな発言が出されています。

     「企業のほうから見ていると、やはり今の司法試験の合格者の数は多過ぎるのではないのかなと。それから、その数が多過ぎるというようなことになれば,法科大学院の数もそれに関連して、やはり多過ぎるのではないのか」

     小松製作所相談役の萩原敏孝さんのご発言です。彼は、日本の企業が企業内弁護士として、これからも沢山の弁護士を取り込んでいくニーズがあるのかについて疑問視しています。彼は、弁護士会などから出されている期待感にこうクギを指します。

     「企業内で弁護士を使うことは、私は増えてくると思いますけれども、ここに過剰な期待をしていただいても、限度がある」

     企業系の弁護士を増やす必要性をいう話では、国際競争力という観点も強調されますが、そうしたことに対応できる弁護士の数が少ないといっても、それを企業が抱えるという描き方はできない、と明言していることになります。それは、とりもなおさず、現在、進められている増員規模の描き方についても、少なくとも、この分野からは、とても責任の負える話ではないことが分かります。

     これに対して、興味深いやりとりもありました。萩原さんの発言に、委員の鎌田薫・早稲田大学総長が、やや忠告する格好で、こういう意見を述べています。

     「日本の企業の法務部の中に弁護士資格を持っている人を雇用しているところは、それほど多くない。雇用していても1人とか2人というところが多いんですけれども、1人も日本人弁護士がいない企業法務部であっても、ニューヨーク州弁護士資格は随分持っているんですね。10人でも20人でも持っている。このニューヨーク州弁護士資格と日本の弁護士資格というものとの関係をどう見るかということも、やはり一つの今後の弁護士像ということを考えていく上では、重要なポイントになるのではないか」

     彼は、一体、何が言いたかったのでしょうか。要するに、企業内弁護士を採用する云々というよりも、考え方として、日本の弁護士資格もニューヨーク州弁護士資格のように、企業の法務部員が取りやすい資格になっていれば、話は違うんじゃないのか、そういう弁護士増の描き方もあるんじゃないのか、といっているようにとれます。

     企業から見て、合格者が多すぎる、という萩原さんの結論には、基本的に合格者の枠を広げてもらいたい大学関係者からすると、一言いっておかなければところだったかもしれません。

     しかし、萩原さんは、この意見に反論しています。

     「我々はアメリカのロースクールに随分と人を送って、その半分ぐらいの人たちはニューヨークの弁護士資格を取って帰ってくるんですけれども、それはある意味で言うと、アメリカで勉強してきたあかしとして、そのぐらい取ってこなければ会社はコストを出せないではないかという、ある意味のプレッシャーもあってそうしております。それから、試験の程度が日本の司法試験に比べると、私の目から見てもかなり易しいというようなことから,資格は取ってくるんですね。ところが,資格を取って法務部に戻っても,ニューヨークの弁護士なんだから、この問題を扱えというほど実力があるのかというと,決してそんなことはありません。したがって、そのことと日本の弁護士資格との間には余り相関関係がないというか、そんな感じもしています」

     実にはっきりしたご意見です。つまり、ニューヨーク州弁護士資格をとっているからといって、それが日本の弁護士資格と比較して、企業側の利便からみた日本の資格の欠陥のようにはいえないということです。そもそも両国の資格レベルが違い、同州のそれをとっていても、日本の企業の中で、必ずしも即戦力になることすらも想定していないとなれば、日本の資格と比べること自体、過剰評価を前提にしているようにもとれます。

     これは、本当に不思議な話です。ある意味、この「改革」の特徴かもしれませんが、ある方面から聞こえてくるようにとれる「必要論」が、その方面によく耳をかせば、そうでもない、という話になってくる。いろいろな人が、「うちは必要」ということを、あたかも全体の必要論として成り立つかを無視しておっしゃる結果でしょうか。

     やはり、さまざまな期待感が重なったまま、それぞれの解釈で推進してきた同床異夢の「改革」の当然の結果かもしれません。まずは、そこから考え直してみる、という手もありそうです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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