「反権力」が時代遅れ扱いされる先

     今から10年くらい前、ベテランの弁護士と話をしていて、彼がさらっと、「反権力はもう古いですよ」と言ったのを聞いて、一瞬、耳を疑ったことがありました。もちろん、もともと「反権力」という切り口になじめない弁護士はこの世界に沢山いますし、その時、既にかつてよりもこの言葉自体、聞かなくなりつつあったのですが、それが人権問題にも取り組む彼の口から出たことが、やはり意外だったのと、「もはやあなたのような人まで」というような、驚きだったと思います。

     「オールジャパン」ということがいわれた司法改革は、対決よりも協力の弁護士・会の姿勢が引き出されたと同時に、権力との位置取りで、それまでの激しい法改正反対運動などでみせた顔とは、明らかに違うものが引き出されることになっていきました。

     前記弁護士が、そのセリフをどんな文脈で語ったのか、もはや忘れてしまいましたが、おそらく「改革」に絡む話だったと思います。彼もまた、司法改革推進派の一人でした。

     ただ、その時も不思議な気持ちになりました。「反権力は古い」といっても、肝心の「権力」は変わったのか、ということです。弁護士が「反権力」の旗を下げるという選択は、「権力」が対抗する必要がなくなった、そういう存在でなくなった、というのでもなければ、説明がつきません。もし、「権力」が対抗していた当時と変わらないというのであれば、いうまでもなく、弁護士・会の変質・弱体化を意味しかねません。

     この「反権力」が、いまや内部からも不要論が出始めている弁護士自治の存在意義として、弁護士自身が自覚していた時代がありました。「反権力」の旗は、弁護士自治という城にたなびいていたのです。

     「現在でも裁判所が基本的に、国民の権利より国策の遂行を重視しているということは、福島をはじめ、日本の原発の状況を見ても明らかなことです」

     意見投稿サイト「司法ウオッチ」の「司法ご意見板」に宮崎県弁護士会の吉田孝夫弁護士のこんな書き込みがあります。原発の危険性を理由に地元住民が建設・運転差し止めを求めて全国各地で起こされた実に30件以上の訴えは、ことごとく裁判所で退けられてきたという現実があります。裁判所は、国策としての原発を推進に加担してきたという評価になるのです。

     そして、吉田弁護士はこう続けます。

     「司法制度『改革』は、国策の遂行に邪魔な弁護士を淘汰することになると思います。弁護士自治も消滅の危機に瀕しています。この危機は弁護士にとっての危機ではなく、国民にとっての危機です」

     実は、「改革」の隠された目的は、ここにあるのではないか、という指摘に読めます。内からは、「改革」の協力者として、「反権力」的な意識を変え、外からは増員が生む競争と淘汰が、現実的に弁護士に余裕のない状況を作り、弁護士自治そのものへの不要論を増幅させる。

     政府の研究会に参加している有識者の口から、「法曹人口問題は、見方を変えれば、政府と敵対できる法律家はどれぐらいに抑えるべきかという議論でもある」という見解が普通に示されているのを見ても、前記したような目的の現実性は決して低いものではないと思います(「『有識者』という人たちの弁護士評価」)。

     吉田弁護士の警鐘は、弁護士の意識が、かつてとは違う時代であればこそ、より深刻な響きをもって伝わってきます。それは、彼もいうように、「国民の危機」であるということも、また、「反権力」の盾や城壁を失い、むき身をさらしている状況に大衆が気がつかないのであるほどに深刻な問題であるように思います。

     「反権力」が決して国民にとって「古い」テーマではないことも、弁護士自治の今日的意味も、弁護士こそが伝えなければなりませんが、それもまた、増員時代の弁護士・会とそれを取り巻く社会の受け止め方を見る時、どんどん厳しくなっている印象を持ちます。
     

    ただいま、「今、必要とされる弁護士」についてもご意見募集中!
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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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