「低額化」という弁護士増員の意図

    意見投稿サイト「司法ウオッチ」の「司法ご意見板」に設定した「弁護士会費」に関する回答欄には、「高い」という文字が並んでいます。そのなかに、こんな書き込みがありました。

     「現状の弁護士会費は、参入規制と取られても不思議のないほど高額です」

     弁護士会の会費について、会員の不満が高まっていることは以前にも書きましたが(「弁護士会『会費』の無理」「『会費』と弁護士会の事業仕分け」)、「東弁」というネームの、弁護士によるとみられるこの書き込みも、弁護士業務の足をひっぱっている高い会費について述べています。

     新人弁護士の会費の減額措置程度ではとても凌げず、過疎地域で弁護士会費を払って経営を維持することは不可能。中小企業等、社会の隅々にまで弁護士を入れようとするならば、現状の弁護士会費は明らかな阻害要因――。見合う収入があった依然はともかく、いまや「会費」は参入規制なのだと。

     実は、この書き込みの注目できる指摘は、この前にあります。

     「弁護士増員が、競争による弁護士費用の低価格化という経済界の意向が強く反映されているにも拘わらず、弁護士会執行部がそれを無視し、法の支配を社会の隅々に行き渡らせるために増員したと未だに偽善ぶっているから、弁護士(経済的基盤のない若手や新人)の生活が困窮しているにも拘わらず、弁護士会費を下げるどころか値上げするなどと言うことができるのです」

     これも以前にも書きましたが、実はこの弁護士増員の効果への期待の中身が、「使い勝手」としての弁護士費用低額化にあったとの見方ができます(「弁護士の「使い勝手」)。低額化が進まない現実を大マスコミなかには、「『改革』の効果に疑問」とするところもありますが、弁護士会が「身近な司法」というテーマのなかで、低額化を一番の課題として取り上げてきたわけではありませんでした。

    つまり「増員」の目的に対する同床異夢、あるいはある種の独自解釈の結果、いまの状況に陥っているのが、「東弁」氏の見方になります。

    「過疎対策等にしては、増員の幅が大きすぎます。司法予算の増加や執行法等各種制度改革も見合ったものがありません。つまり、明らかに経済界の意向に基づくものです。そうでないならば、弁護士会は、これらを交換条件に弁護士増員を容認すべきでした」

    既に、日弁連は3月に出した「法曹人口政策に関する緊急提言」で弁護士過疎・偏在問題や被疑者国選・裁判員制度については、現在の増員ペースによらなくても対応が可能な状況との認識を示しています。

     つまり、競争による低額化という「増員」の意図を見ず、別の目的設定のもとに、その路線に乗っかった結果、本来ならば、前提として考えられていい環境整備が行われておらず、そのことが現状につながっているのではないか、ということです。

     「東弁」氏の結論は、このまま増員路線を継続するならば、弁護士会の強制加入を廃止せよ、というものです。「改革」の目的を考えるのならば、弁護士の仕事の足を引っ張る会費徴収そのものの前提をなくしてもいいのではないか、という話です。

     ただ、一つ考えておかなければならないことがあります。つまり、ここまでが「改革」のシナリオなのではないか、ということです。同床異夢の「改革」に弁護士会が乗り出す結果、大量の弁護士を経済的に支えることは困難になり、弁護士が「競争」に陥らざる負えなくなる過程で、強制加入は個々の弁護士の重荷となり、自治とともに内部から崩壊するだろう、と。

     見方を変えれば、ある意味、皮肉にも弁護士の現状に対する「覚悟」の先に、強制加入の否定があるようにもとることができます。

     弁護士の増員による「競争」「淘汰」が、大衆にもたらすものとともに、このシナリオの結果が、本当にこの社会にとって望ましいのかも考える必要があります。
     

    ただいま、「弁護士の競争による『淘汰』」についてもご意見募集中!
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    http://www.shihouwatch.com/

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    テーマ : 弁護士の仕事
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    ありがとうございました

    にがくりたけさん、ありがとうございます。

    その通りですね。
    これはどう考えるべきでしょうか。結局、ニーズといわれているものの描き方と、増員そのものがどこからの要請を強く反映したものなのか、にかかわってくることになりますか。あえて法科大学院側の立場からすれば、そうしたものから逆算できる、つまり形として「社会が求めている」形から「理想の弁護士」を想定するということになるのかとも思います。

    しかし、ニーズの描き方もどこからの要請かも、受け入れ側のいうことはまちまち、いや本当は分かっているのに、理念なのか意地なのか、本当のことをいわない、つきつめないような現実からすれば、想定しようがないということでしょうか。そもそも、経済界の要請、企業にニーズありで、志望者も法科大学院も、そこにあてはまるのが「理想の弁護士」ということになっていくのが果たしていいのかどうか。

    結局、こういうことをざっくり考えて立ち上げちゃったのが、この制度ということのようにも思います。

    今後ともよろしくお願いします。

    No title

    こちらこそ、いつも楽しく拝見させていただいております。

    私見ですが、鎌田委員の発言は、法科大学院で教えている過程で素朴に湧いてきた疑問なのだと思います。法科大学院に対するいろいろな価値観をもった層からの互いに矛盾した種々の批判、他方で、法科大学院に対する制約。この中で、どのような教育をすべきなのかと考えたとき、ふと、では、どのような弁護士が現実的具体的に求められているのか疑問に思ったのではないかと思うのです。

    酷い話だと思います。どのような弁護士を作るべきか明確でないのに、「理想の弁護士」を育てろといわれているのですから。やりようがないのではなかったのではないでしょうか。
    私は、法科大学院制度には批判的ですし、それは変わりませんが、そこに現実に携わっている方々には多少の同情があります。

    今、法曹養成とそれに関わる司法改革に対する種々の議論を見ていて、話が噛み合っていないという場面を多々みましたし、なぜそうなのかずっと疑問でした。

    当たり前ですよね、どういう弁護士を作ろうかという具体像が共有されていないのですから。
    本当に酷い話です。

    ありがとうございました

    にがくりたけさん、いつもありがとうございます。

    ご指摘のような状況を見るにつけ、改めて何でこういうことになっているのか、という気持ちになってしまいます。弁護士会側からすると、「改革」をどうしてもチャンスとして、善意解釈的な見方をした結果でしょうか。それとも、重々この結果を分かったうえでの楽観主義が生んだのでしょうか。もちろん、もっと悪い、無責任が支配したという見方もできるかもしれませんが。

    今後とも、よろしくお願いします。

    No title

    同床異夢についていえば、経済界、弁護士会、マスコミ、その他各層もろもろが、「作り出したい弁護士」像について、好き勝手のビジョンを持って好き勝手に主張し、具体的合理的な弁護士像が共有されていないように思います。
    さらに非常に問題なのは、そのことを誰も正面から議論をしようとしていないということです。

    ただ、現状の流れは経済界の意向に近いのかという気がしています。日弁連は、既にそのレールに自ら乗っている、いわば茹で蛙なのかもしれません。

    法曹の養成に関するフォーラムで、
    「新制度のもとでの在るべき法曹像というものについての明確なイメージがないままに、この制度が動き始めているところに一定の問題があると思います。」
    と述べられた鎌田委員の言葉は、まさに、法曹養成に関して現に起きている問題の根源的原因を表していると思います。

    明確なイメージもなく、ここまでの人間の人生を左右するような制度が作られたことに驚愕を覚えます。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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