「無関心のツケ」という切り口の狙い

     6月22日の朝日新聞のオピニオン面に、同新聞の記者で、初めて裁判員制度の補充裁判員なった方の記事が掲載されました(「記者有論」ジーナリスト学校 服部桂氏)。

     「人が人を裁く胸の痛み」という見出しの、この記事では、窃盗と強盗強姦に問われた被告人を裁くにあたり、被告人の更生機会から被害者感情まで、様々なことが頭をめぐり、人が人を裁き、他人の人生にかかわる難しさに胸が痛んだことが、吐露されています。

     「朝日」掲載の記事だけに、まさかそんなことはあるまいと思いつつ、前記見出しに、あるいは「人が人を裁く」ことを強制するこの制度と、「裁きたくない」という市民の信条との関係に、なんらかの踏み込んだご意見を拝見できるのかと、一瞬期待したのですが、やはり、そういう趣旨の記事ではありませんでした。

     彼のこの記事で言いたいのは、実は、この見出しに掲げられたようなことではないように読めました。

     「市民に負担を強いる裁判員制度に批判もあるが、参加して無意味とは思わなかった」

     「強制」に触れた言葉はこれだけで、彼はやはり参加した9割以上の方が言っているとされている「やってよかった」コメントを出されています。

     彼は、結局、その「痛み」よりも、やはり参加の意義を強調されているのですが、一番引っかかるのは、それを東日本大震災や原発事故での助け合いと結び付けて、「各社の調査で裁判員経験者の大半が『有意義』と答えているのも、こうした動きと無縁ではない」としていることです。

     他者を思い、社会を再興したいという機運が高まる今は、「自分に関係ないと思えること」も広く論議すべきとき、つまり、この裁判員制度と向き合うのにも好機なのだとおっしゃっているようです。

     そして、こう締めくくります。

     「無関心のツケは結局、自分にかえってくるのだから」

     これは、大衆が受け入れざるを得なくなるような響きを持つ言い方です。被災者のことを思う気持ちを巧みに裁判員制度にかぶせています。裁判員制度の最大の問題点といってもいい強制については、さらっとながして、この制度への無関心のツケが回ってくる、という、なにやら脅しのような言葉でくくっています。

     被災者を思い、復興に協力する気持ちが、いかに他者を思うということで共通しているとしても、前記「強制」という現実がある以上、これは裁判員制度とは本質的に異なる次元の問題といわなければなりません。

     裁判員制度への非協力は、被災者を他人事とする気持ちあるいは無関心と同じといわれれば、同制度を受け入れざるを得なくなる、もっといえば、「強制」ということにも目をつぶらさざるを得ない、あるいは目をそらすだろうという、一つの読みをこの記事からは感じてしまうのです。

     なぜ、この記事の主題ともとれる、その点を見出しにとらず、あえて「痛み」をとったのか、その辺りにも、この記事のしたたかさのようなものを見てしまいます。

     この「ツケ」というのは、全く違うだろう、と思います。ここで大衆が見なければならないのは、彼がたった3行で流してしまった「市民に負担を強いる」=「強制」をはらむこの制度の性格の方だろうと思います。

     この国に降ってわいたような、憲法にも規定がなく、推進側が「民主的」と規定したような制度に強制的に市民が駆り出される現実。それは、公共的なテーマについての「強制」させる制度への国民の耐性を試すための、一つの実験とさえいわれています。その向こうに、この国にどういう制度がつくられることが想定されてくるのか、そうした動き、流れこそ、「自分に関係ないと思えること」とせずに、広く論議しなければならないのではないのでしょうか。

     そして、その点こそ、大衆にいわなければならないはずの、「朝日」をはじめとする大マスコミ、多くの弁護士が、そこをいわないことに、この国の今の、最も危い現実があるようにも思うのです。

     「ツケ」ということをいうのであれば、そのことへの無関心の方が、大きなツケが、国民に返ってくることになるはずです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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