弁護士「淘汰」が無視する実害

     弁護士を増員するということは、いつのまにか「淘汰」ということとともに、当たり前に語られるようになりました。もちろん、弁護士会内の増員論議でも、当初、この「淘汰」という言い方は、あまり耳にしませんでしたし、「競争」という言葉も、増員反対派があくまでネガティブな意味で使うのが、ほとんどで、「淘汰」「競争」という言葉を、およそ弁護士が肯定的に使う場面は、一部ビジネス派の方々を除き、あまりなかったように思います。

     それがいまや、弁護士のなかに、「淘汰」や「競争」を肯定的に使う方々が沢山いらっしゃいます。この背景として、一つには、他のサービス業との同一化ということがあると思います。弁護士の仕事が、ニーズという側面から語られたとき、他のサービス業と同様に利用者利便の重視が要請され、必然的にその良質化への競争も起きる、という見方です。増員はそれを当然に回避できないのだろうと。これを心得として受け止めた方も沢山いただろうと思います。

     ただ、見方を変えると、背景としては、もう一つあるのではないか、と思います。それは、実は、弁護士増員による実害がはっきりしてきた、つまり、それを認めざるを得ないという状況があるからではないか、いうことです。

     弁護士の増員は、新たな法曹養成過程をもってしても、「質」は担保できず、既存の弁護士についても、いわれてきたようなニーズがその数を支えきれないことで経済環境が激変し、不祥事も増える。そうした、いわば「不良品」の社会放逐が、増員とともに現実問題として避けられないことが、濃厚になるにつれて、「淘汰」と「競争」は、強調されてきました。

     つまり、それでもいいじゃないか、と。増員の実害をいう慎重論に対し、「淘汰」「競争」が最終的にもたらす「良質」が強調されてきたのです。

     実は、ここに問題があります。サービス業の心得として、あるいは大衆に受け止められやすいものをはらむこの考え方は、一方で、後者の実害ということに関して、極めて危ういものをはらんでいるということです。

     薬品に例えてみれば、実害をもたらす可能性があるものは、いったん社会に放逐する、という考え方には立てません。実害や副作用が想定されるのならば、とりあえず効能の競争による「淘汰」を期待するということはありません。これには選択の保証ということがあります。つまり、成分を見ただけで、消費者は副作用や実害を判断して回避することができないのです。これは結果として、人体実験になってしまいます。

     つまり、とりあえず社会に放逐し、「淘汰」にゆだねてもいい商品と、悪い商品、この考えが許されるものと、許されないものが存在するということです。その判断要素は、一つには、前記したように、利用者側が公正に判断できる対象がどうか、もう一つは利用者の選択の失敗が、もたらす重大度、とりかえしがつく度合いということだと思います。

     大衆にとっての弁護士は、一生に一度のお付き合いになるかもしれない、次はないことも考えられる一回性の仕事、それがもたらす重大性はもはや説明するまでもありません。薬についていえば、効能による競争はあり、必ずしも一回性ではなく、次がありますが、それは、それでも前記した実害が想定されるものを事前に排除し、社会に放逐しない前提があっての話で、薬品が取り返しがつかなくなるのは、薬害をみれば明らかなことです。

     以前にも書きましたが、弁護士についても、企業との関係では、このリスクが少なく抑えられる現実があります(「弁護士を『商品』にできる関係」)。使う側の企業主導で、弁護士を選択し、サービスの質を判断して、適切な交換が可能です。それでも、この判断には、ベテラン法務マンの能力が必要との見方もあるくらいで、大衆の弁護士依頼とは、根本的に条件が違います。つまり、「淘汰」が成立する環境を比較的満たしているということなのです。

     どうもその方面から、その尺度で、弁護士増員と「淘汰」が強調されているのが、気になります。

     「淘汰」による実害の先に、大衆に待っているのは、「自己責任」という言葉です。つまり、自らの選択だと。だから、「淘汰」をいう方は、ことさらに国民の「自由な選択」を強調されるのですが、それは言うまでもなく、選択できるフェアな関係が、前提として成り立っている場合にいえることです。

     「淘汰」「競争」の成果の美化されたイメージだけが流され、大衆にもたらされる現実が伝えられていないように思えてなりません。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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