分裂する会内世論状況が伝えられる意味

     以前にも書いた通り、弁護士会の中には、いろいろな考え方をもった人々がいます。司法問題についても、必ずしも統一した見解を持っているわけではありません。(「弁護士会は一枚岩ではない」)。

     実は、意外と知られていませんが、弁護士会はずっとそういう団体だったようにも思います。ただ、政策によって、一応の合意が得られた形にできるものがあり、それを提案や批判の形で表明してきたということになります。また、そこに強制加入団体としての限界もありますし、逆にその限界を踏み外すようなことがあれば、当然、強制加入団体としての在り方が問われます。

     それでも、マスコミなどを通して、少ない情報からしか弁護士会を見聞きしない大衆からすれば、およそ弁護士会が一色のようなとらえ方をしてしまうことも、ある意味、これまではしようがなかった面もあるとは思います。

     ただ、ずっと一枚岩ではなかったとはいえ、現在のように弁護士会世論が大きく分裂したきっかけは、なんといっても「司法改革」です。2年に1回行われる日弁連の会長選挙では、1998年以来、2008年の改革の路線に反対する選挙まで側が候補者を立て、「主流派」といわれる「改革」推進派の候補者と対決し、破れたとはいえ、毎回、票を伸ばし、同年には当選者9404票に対し、反「改革」派候補が7043票までに迫る勢いでした。

     そこで迎えた昨年の選挙は、これまで連続出馬していた反「改革」派の候補が懲戒問題に巻き込まれ出馬できないハプニングがあり、これまでの対立構造とは違う形で、いわば「改革」修正派の現・宇都宮健児会長が、「主流派」と対決し、史上初の再投票にまでもつれ込み、当選したわけですが、もちろん、これも分裂的世論状況が反映したとみることはできます。

     あくまで会長を選ぶ選挙ですから、別の要素も反映しているとは思いますが、会員間の分裂的な世論状況が、ここまで長く、ある意味、「改革」関連という同一のテーマで尾を引くことは、会長選挙にもなかったことを考えてみても、この会内の状況そのものが、これまでに日弁連・弁護士会が経験したことがないものであることがうかがえます。

     この分裂が始まったころ、「主流派」とされる推進派の方々からは、よくこんな言い方を聞きました。

     「だれでも初めてのことには、戸惑いがあるものだ。やがて、彼ら(反対派)も合流するはずだ」

     今から考えれば、すごい楽観論に聞こえる言葉ですが、これが本心だとすれば、あるいは彼らのなかに、問題の根深さ、あるいは反対派の主張の重みを軽くみた、見立て違いがあったようにも思えます。案の定というべきか、こうした言葉は、前記したような対決の継続、戦線の拡大とともに、やがて聞かれなくなり、推進派の口からは、もはや議論しても無駄といっているような諦めの言葉に聞こえる「哲学の違い」という言い方が聞かれるようになりました。

     身近で頼りがいがある司法、質量ともに豊かな法曹の確保、国民の司法参加という目標は、弁護士の大量増員路線や裁判員制度の是非という戦線を作り、前者の影響が、弁護士の経済状況や質を脅かす実害として現れて、より対立・分裂の様相を深めることになったのです。

     ただ、このこと自体、つまり弁護士会が分裂までして議論してきた本質的な問題点を、果たして国民が理解しているのかが、甚だ疑問です。これまで書いてきたことですが、大マスコミが、「改革」に異を唱える側の主張を、すぐさま自己保身に結びつけるバイアスがかかった描き方をすることで、いわば10年の分裂が、あたかも「コップの中の争い」のように矮小化されて伝えられているからです。

    問題は、あたかも「国民のため」と結び付けた「裁定」があらかじめ提示されている、ということです。弁護士増員が現実的にもたらす状況や、裁判員制度に潜む反民主的な裏の顔を隠した、「裁定」を、堂々と大新聞は掲げ続けています。それは、ある種の、社会にとって分かりやすい、共感しやすいストーリーの描き方による隠ぺいのようにすら見えます。

     一般の市民にとって、専門家同士の見解の対立は重要な意味を持ちます。それは、今回の原発事故でも明らかになっています。同事故をめぐる報道、あるいはネットでのマスコミが報じない情報の流出などの現状で、そのことを国民自身が、これまでよりも強く自覚し出しているようにも思います。

     10年越しの弁護士会の対立の本当の意味が、いまこそきちっと国民に伝えられることにも、やはり意味があるはずなのです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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