「弁護士」という仕事への正当な対価と評価

     日弁連が今月公表した、「弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査報告書2010」によれば、全国の弁護士の平均所得は1471万円、中間値で959万円とされています。

     以前ご紹介した、厚生労働省の統計に基づく数値に比べると、高い数値になっていますが(「『経済難』か『儲けている』か」)、 この手の調査は、そもそも調査対象の抽出の仕方によって、違いが出てきてしまいますので、単純に比べることができませんし、どちらが正確であるという即断もでません。

     そもそも抽出母数によっては、実態とそぐわない結果が出ている可能性もあります。

     今回の結果についても、そのことを指摘している弁護士のブログがありました(「弁護士のため息」)。

     調査は、無作為抽出の1万人に調査票を郵送して得た1795人の回答に基づいています。回答率17.95、つまり82.05%の弁護士が回答をしなかったアンケートの結果の信用性について疑問を投げかけています。

     ものすごい分量の調査票を送りつけられて、とても時間的に余裕のある人でなければ回答できないことや、「日弁連に自分の収入を把握されるのもイヤ」という本音もあるようです。そう考えると、やはりこの結果から、相当差し引かなければならない事情もあるようです。

     それでも同一主体、同一条件で比べるという意味では、日弁連が前回2000年に行った調査に比べて、平均所得で230万円減少したそうです。

     ただ、これを報じた6月16日の毎日新聞朝刊は、案の定、この減少の方ではなく、平均所得1471万円の方に注目し、「不況下でも依然として高所得の職業と印象づける結果」とくくっています。

     この調査で出てきている中間値は959万円ですから、もちろん極端に儲けて、平均値を上げるのに貢献されている方がいることを念頭に置かなければなりませんが、1471万円と聞いて、一般的なサラリーマンなどの感覚から、これを高所得ととらない人はいないでしょう。

     前記エントリーでも書きましたが、「これだけの仕事をしているのだから、これだけ報われていい」という、報酬レベルの社会的な評価という意味では、どうも弁護士は、「もともと高すぎる給料が、たとえ一般並みになってもなんなんだ」「そこまで高給をもらわなくていいんじゃないか」といった批判にさらされます。

     そこには、資格業の行き過ぎた特権視への批判もあり、資格は、別に生涯の高給保証でも、地位保証でもなく、あくまで本人の努力次第であるのは、他の世界と同じだという言葉も浴びせられます。つまり、弁護士の待遇問題をいう主張は、そうした保証を前提にして、資格にあぐらをかいているのだというものです。

     ある意味、弁護士の主張から、この部分は、ちゃんと差し引かれてもいいとは思います。

     ただ、一方で気になるのは、必ず「一般的な」とくくられる、その比べる対象についてです。弁護士という仕事の内容、価値が、本当にそういう比べ方をすることが妥当なものなのか、という点です。つまり、前記した「これだけの仕事をしているのだから、これだけ報われてもいい」という評価そのものも、それによっては変わってくるのではないか、ということです。

     弁護士が楽して儲けている、というのが、どの部分の評価なのか、を考えなければなりません。ものすごい労力をかけ、依頼者と事案に向き合っている弁護士は沢山います。やはり、それなりの訓練と知識をもって、判断しなければならないのは当然であると同時に、労働としてみた場合に決して楽な条件ではないとみられるものもあります。

     定型的な処理で楽して儲けている、ということを当てはめている方もいるようですが、それは一部であることは事実です。「ぼっている」ということはよくいわれます。心得違いの弁護士がいることも事実ですが、弁護士全体をそのイメージでくくるのは乱暴のように思います。

     彼らが地位ではなく、能力として特殊であるならば、それはそれなりの社会的な評価で報われるべきで、単純に「一般のサラリーマンに比べて」というのも、おかしな話ではあります。

     このことは、実は、弁護士の本音としては、強く主張したい方がこの世界には沢山いるようです。ただ、前記社会的な目線の中で、そこを最上段に振りかぶって言えない現実があります。また、この世界を目指す人たちが、その能力の取得のために、それだけの労力を払ってきたとすれば、それを向かい入れる世界が、いまのような状態でいいのか、あるいは前記のような社会的評価では来なくなっても当然、という先輩としての思いを聞くこともあります。

     結論からいえば、なじみがないだけ、本当の大変さも伝わっていないのが弁護士の仕事です。それだけに、一部の人のイメージが全体に反映しやすかったり、そこにはやっかみに近いものまでも介入しがちだということになります。

     弁護士の仕事の性格は、ニーズが沢山あっても、数をこなせば単価が下げられるという仕事では、必ずしもないということも、理解されていないよう思えます。手を抜かないという前提である以上、安い単価のものを数こなすということ自体に限界がある仕事だと思います。専門家の方ですら、理解してないととれる方がいらっしゃいます。

     弁護士の責任を考えるとすれば、なぜ、弁護士の仕事について、そこまで不当に儲けているというイメージを形成してしまったのか、です。弁護士の仕事の大変さよりも、そのことが上回って伝わっている現実は、何によるのでしょうか。

     「社会的地位」といわれるものが、実はそのイメージとともに、徐々に弁護士の労力を社会に伝わりにくくさせてきたような、そんな印象を持っています。


    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。
    http://www.shihouwatch.com/

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信開始!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR