「訴訟社会」を支える弁護士の本当の姿

     米国で長く仕事をしてきた日本人の友人と、話をしていて、たまたま日本の弁護士の激増、そしてそれを「競争」や「淘汰」によって、肯定する意見があることに話が及ぶと、彼は驚いて、こう言いました。

     「いや、弁護士に競争させるなんて絶対やめた方がいい」

     彼がそう言ったのは、もちろん米国の弁護士の姿を見てきたからでした。同国で民事裁判の当事者としてかかわった経験を持つ彼は、その相手方弁護士を含め、米国弁護士のすさまじいカネ取り主義の主張とその姿勢を見てきたからでした。そして、自らの依頼者をもはや「カネが取れる」ということで、訴訟に焚きつけているその姿は、数が多く、余裕がない米国の弁護士が生み出した激しい「競争」の結果と、見ているのでした。

     彼はこう付け加えました。

     「弁護士という仕事にはある程度の余裕が必要だよ。余裕があればこそ、カネ取り主義にならず、また、カネにならない仕事にも目を向けられるのさ」

     日本でも、さかんに「訴訟社会」という言葉が使われるようになりました。弁護士の増員で日本が、米国のような訴訟社会になるのでないか、ということがいわれる半面、米国にはある懲罰的賠償など制度や、訴訟沙汰に対する国民性などでの両国の違いを挙げて、直ちに日本は米国のような訴訟社会にはならない、ということも言われています。

     ただ、一つ見落とせないことがあります。前記友人の指摘でも分かるように、米国の「訴訟社会」を生み出し、それを支えているものとして、前記したような「競争」にさらされている弁護士の存在があることです。

     以前に、米国では弁護士がアメリカンジョークの格好のターゲットになっており、そこから見えてくる「カネに汚い」ととられている同国の弁護士像について書きましたが(「アメリカンジョークの中の弁護士」)、そうした現実について、米国特許弁護士の服部健一氏は、著書「くたばれアメリカ弁護士」の中で書いています。

     服部氏は、米国で弁護士をこきおろすジョークが広がる背景には、一つには富や権力の象徴としての彼らに対する妬み、もう一つは増員による質の低下への批判があるとしています。訴訟の高度化・複雑化によって、弁護士たちは法廷戦術でテクニックに走り、その度を越した姿に大衆は眉をしかめ、弁護士の増加によって質が悪く、あこぎな輩も増え、こうした弁護士にはカネのためには何でもするという「ハイエナ」のイメージがダブるのだと。

     そして、彼は「ロイヤー・ビジネス」という章で、こういう表現をしています。

     「優秀な弁護士は重大な事件のみを引き受けるのではなくて、事件をいかに重大にできるかどうかで受けるのだ」

     「訴訟社会」は、何かにつけ訴訟に持ち込まれる社会をイメージしますが、実態的には、紛争が焚きつけられる社会。そこに生き残りをかけた弁護士が深くかかわる社会のように思えます。

     前記友人が見てきたものは、訴訟でのモンスターのような相手側の主張が、とりもなおさず、モンスター弁護士によって焚きつけられたものととれたということです。

     わが国の弁護士増員については、既に書いてきたように、推進派の経済界、マスコミ、法曹関係者らは、依然として、「競争」と「淘汰」によって、この国に良質な弁護士が残る図を描いています。この予想図のなかでは、その間に犠牲になる大衆のことは全く描き込まれていませんが、そもそも「良質な弁護士」が残るという想定そのものに疑問があります。

     「競争」のなかで、必要だといわれるニーズの掘り起こしが、前記したような焚きつけにならないという保証もなければ、それが当たり前に行われる社会では、もはやその区別もつかないかもしれません。経済的に余裕のない弁護士は、より経済的に効率のいい仕事を選び、というか、選ばざるを得なくなり、その果てにこの国に残る弁護士が、大衆にとって「良質な弁護士」であるという見立ては、どう考えても楽観的に過ぎるように思います。

     もっとも、今、日本の大衆が、弁護士の増員によって、いわれるような健全な競争と、その結果としての「良質な」サービスの提供が待っていると、本当に信じているかといえば、それもまた疑問です。むしろ、生き残りをかけた「競争」は、米国同様のカネのためなら何でもする弁護士の跋扈を生むことを当然のように懸念しているようにも思えます。

     この国に米国のような「訴訟社会」は生まれなかったとしても、少なくとも弁護士については、推進派の描くきれいな絵ではなく、むしろ大衆の悪い予感の方が、的中することになるように思えてなりません。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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