内なる弁護士業務妨害者

     弁護士が受けるさまざまな嫌がらせ、果ては昨年横浜と秋田で発生した刺殺事件のような命を奪われるケースまでを、弁護士会では「業務妨害」として問題にしています。

     この言葉の使い方には、時々、ぴんとこない一般の方もいらっしゃるようです。嫌がらせを受けた行為はともかく、恨みから殺害に及んだケースに至っては、業務妨害という言葉がイメージさせる仕事や商売の邪魔をする行為というものを超越しているからかもしれません。邪魔をするどころか、もはや消し去ってしまうのですから。

     しかし、実はこれらをあえて「業務妨害」として表現することこそに意味があります。つまり、弁護士への攻撃は、司法の否定だからです。以前も書きましたが、仮に犯行者は、そこまでのことを考えず、ただ恨んで行ったことであったとしても司法関係者への襲撃は、司法によって紛争が解決されるという基盤が否定されたことになります。その向こうに待っているのは、暴力の前に正義が委縮しかねない社会です(「弁護士の自己防衛は不吉な兆候」)。

     そういう意味では、ここで使われている「業務」とは、弁護士個人の「商売」というよりは、司法と正義を支えている弁護士の社会的役割を意味しているととらえるべきです。弁護士の業務を妨害することの重大性を、この表現を通して社会にアピールする意味もあるように思います。

     では、逆に大衆が普通に連想をしてしまう、商売としての日常業務の足を引っ張るという意味での弁護士の「業務妨害」とは何なのでしょうか。

     成年後見人を引き受けた男性の預貯金計約1510万円を着服したとして、業務上横領と無印私文書変造・同行使の疑いで、愛知県弁護士会所属の弁護士が名古屋地検特捜部に逮捕された事件の波紋が広がっています。弁護士会が成年後見人として家庭裁判所に推薦していたことや、年配・ベテランに比較的多いとされるカネ絡み事案で同弁護士が35歳の若手だったこともあります。

     「彼のやったことはマチベンにとっては、業務妨害に等しい」

     同じ弁護士会に所属する弁護士がブログで、こう憤っているのを見つけました(「街の弁護士日記」)。

     弁護士が成年後見人になれるのは、いうまでもなく、お金の管理を託せる信頼という前提のうえに成り立っています。それに手をつけることがあり得るというだけで、アウト。「預けた弁護士が老若問わず、着服するかも知れないとなったら、当事者は一体、どうしたらいいのか。仮に今回の事件が事実なら、マチベンとしては、あまりにもいい迷惑」と嘆くのは当然です。

     つまり、弁護士の信頼を崩す弁護士の非行こそ、前記したような意味での「業務妨害」にほかならないのです。もちろん、これは成年後見に限りません。日弁連機関誌「自由と正義」の巻末に掲載されている懲戒事案で伝えられる弁護士のカネ絡みの不祥事は、弁護士の信用失墜、とりわけカネに汚いという方向でのイメージダウンにどれだけ貢献してきたのかは分かりません。

     弁護士の経済的な環境悪化からの「余裕」のなさは、より拝金的な傾向を強めさせているとの見方もあり、それがベテラン層にもはっきりと広がってきていることがうかがえる深刻な状況があります。増員という要素を考えれば、当然、その深刻さは今後、さらに増していくことを想定しなければなりません。

     もし、これも「淘汰」の論理で、彼らが逮捕や懲戒によってこの世界を追放されることで、あたかも弁護士が「良質化」されていくように見ようとするならば、それはこの間の取り返しのつかない市民の被害と、こうした弁護士の信用失墜を引き換えに進行することを考えただけでも、同論理の無理ははっきりしてくるようにも思えます。

     弁護士は、皮肉にも、身内にこそ「業務妨害者」がいることを深刻に考えなければならない時代に突入しているのです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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