成り立つ前提から目を背けた論法

     5月25日に行われた政府の「法曹の養成に関するフォーラム」の第1回の会合で、消費生活専門相談員の岡田ヒロミ委員が、弁護士の増員に関連して、こんな発言をしています。
     
     「弁護士のニーズに関しましても、確かに東京や大阪などは弁護士の数が増えているのですが、東北や九州の奥のほうに行きますと、まだまだ消費者が弁護士にたどり着かないという実態は変わっていません。だからこそ法テラスとか弁護士会がやっているひまわり公設事務所が活用されているのではないかと思いますので、弁護士が3000人で多過ぎるということは、私どもとしては実感がありません。地域性によるのではないかと思っています」

     この発言に対し、猪野亨弁護士が憤っています(「弁護士 猪野亨のブログ」) 。詳しくは、彼のブログをご覧頂ければと思いますが、要するに、どうして弁護士を激増させると、「東北や九州の奥」の人が弁護士に出会えることになるのか、という話です。岡田委員はお立場上、「消費者」という観点でお話しされているわけですが、現実にはどのような消費者問題があって、それに対する弁護士の関与の是非も含めてとらえるべきではないか、と。つまり、感覚的な話ではないか、というわけです。

     実は、岡田委員に限らず、増員と地方ニーズの話で、必ずといってもいいくらい登場する、この感覚的な論法には、それこそ弁護士会のかなりの方が首をかしげる、ということを通り越して、もはやうんざりしているのではないかと思います。

     弁護士を激増させることで、地方への弁護士流出が起こるという発想。例えれば、コップに注がれた水がいっぱいになり、あふれだして、その外に流れ出す。ただし、外に必ずしも受け皿があるわけではない。

     より仕事として成立しそうなところに集まる結果、弁護士が都市部に集中していて、基本的にそれは変わらない。いわば、あぶれた人が、コップからもれて地方にしようがなくいくだろうと。ただ、そこに受け皿が本当にあるのならば、蛇口は初めからコップの外にも向くのです。つまり、これからもえんえんとコップの上に水は注がれる。そもそも、あぶれた先がどうなるか分からなくても、水はコップに注がれ続けるのかどうか。コップのなかにおさまれば、外にはまた水はいかなくなるだけです。

     つまり、その程度や必然性になんの裏付けもない、「あぶれりゃ地方にいく奴もいるだろう」という大雑把な話です。百歩譲れば、増えれば、食うや食わずでもやる「有志」も混じるだろ、というのであれば、これまたなんとも先の見えない話で、統計的にどのくらい増やせば、どのくらい「奇特」な方が混じるのか、教えて頂きたいところです。

     そもそもこうした食えない弁護士の増産を前提に、地方流出を構想すること自体、「地方の人達を愚弄する発想を含む」として、その不適切さを指摘する声が弁護士の中にもあるのです(武本夕香子「法曹人口問題は、ここ数年が正念場です――東弁意見書を読む」)。

     ただ、弁護士のなかからも、「うちは、増員政策のおかげで、こんなにアクセス改善された」という増員メリットをいう声も、聞かれないわけではありません。しかし、いみじくも岡田委員自身がおっしゃっているように「地域性による」のであって、それと全体の数を激増させることの影響・効果を直ちに結び付けられるとも思いません。もちろん、その改善自体、増員ではなく、「有志的努力」の成果かもしれませんが。

     それにしても、企業ニーズにしても、地方ニーズにしても、弁護士の大量増員を肯定するために描かれるストーリーは、「実はそれほどない」とか「実は成立しない」とか、どうして一歩踏み込めば、即破たんするような話ばかりなのでしょうか。

     猪野弁護士も言及していますが、カネにならないニーズを引き受けられるのには、現実的に弁護士の経営状態がどういう前提である必要があるのか、どういう前提があったから、これまで成り立ってきたのか、という発想に、どうしてもこの議論がいかないのが、不思議でなりません。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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