「改革」の反省と「市民目線」という描き方

     3年前に法曹人口増員のペースダウンを打ち上げた日弁連に対して、当時の町村信孝官房長官が「見識を疑う」と批判したことは、ご記憶の方も多いと思います。

     「司法制度改革に携わってきた立場をかなぐり捨てて」

     まさに、心得違いも甚だしいといわんばかりの言いように、さすがに当時の宮誠・日弁連会長も黙ってはいられなかったのでしょう。記者会見で、官房長官の方が「やや不見識ではないか」と反論したと伝えられています。

     町村長官のこの時の切り口は、もちろんおなじみのものです。増員反対は弁護士の自己保身であり、「改革」の修正は挫折であり、旗を振ってきた弁護士会がそれを言い出すのは、保身を「改革」に優先させたのだ――と。

     この時、すかさず町村官房長官の援護射撃を行ったのが、ご存知、朝日新聞でした。「日弁連 司法改革の原点に帰れ」と題する社説を掲載。「見識を疑う」といった長官発言を支持し、政府に増員方針維持を求めるとともに、司法修習生の質の低下や弁護士の就職難の現実をいう日弁連の主張を、法科大学院への支援の必要性や弁護士過疎などを挙げて、ばっさりと切り捨てています。

     もっとも、この時も自らの「在るべき論」を成り立たせない現実への「朝日」の突っ込みは実に淡白なもので、弁護士の就職難は、「過労気味の弁護士も少なくない」から解消のためにも「指導の手間はかかるが、積極的に新人弁護士を迎え入れてほしい」、「官庁や自治体、企業では談合や不祥事が絶えない」から、「職員や社員として弁護士を雇うことを考えては」という調子。「してみれば」でなんとかなる状況と本気で考えているのかを疑いたくなるものでした。

     「朝日」の基本的なスタンスは、現在も変わっていません。ただ、その「朝日」が既に書きましたように、6月14日の司法制度改革審議会最終意見書から10年の節目で掲載した企画記事では、その増員ぺースダウンを唱えて当選したと自認する宇都宮健児・日弁連会長の意見を載せています(「『朝日新聞』司法審10年企画の印象」)。

     これは、どういう解釈になるのでしょうか。朝日が官房長官を援護し、批判した「増員ペースダウン」をいう「見識を疑う」ものの代表として、宇都宮会長がここに登場しているわけではないのではないか、ということは前記エントリーで書きました。では、「朝日」は宇都宮会長の言のどこに注目したことになっているのでしょう。

     「弁護士の増員 市民の目線で」

     この見出しがヒントのような気がします。宇都宮会長は、意見のなかでこう言っています。

     「一連の改革には、『市民とともに変えていく』という視点が欠けていた。私は『市民の目線で第2次司法改革を』と訴えています」

     この認識を彼らは「不見識」とはできなかった、というか、ひとつの「見識」として、増員の今後を考える要素として「許可」したのではないでしょうか。結果、「市民」にとって「まだまだ必要」と描き続ける以上、増員を止めることもまた、「不見識」と扱える保証をもって。

     ただ、問題はここからです。それは、第一次司法改革の評価にかかわることです。一貫して、「改革」に関する主張を変えていない「朝日」は、本当に第一次を「市民目線」に欠けていた「改革」という位置付けをしているのでしょうか。

     「民主的法律家は司法制度改革において『だまされた』」

     米倉勉弁護士が、かつてこんな分析を行っていました(「自由法曹団通信」1279号)。司法の民主化と「上からの司法改革」。財界と保守勢力からの「改革」要求と見抜きながらも、少しでも改革の必要性はないかと、財界の要求する「改革」に積極的に関与・協力しながら、国民のため改革たる実を得ようとする闘いに打って出たのではなかったのか、と。

     しかし、米倉弁護士は、この闘いは「決着した」と見ました。その象徴は、裁判員制度の登場なのだ、としています。

     「新自由主義政策を貫徹しつつ、支配を維持するために刑罰の強化を確保するための」同制度登場は、決定的にそのことを意味するというのです。相手側の「意図が貫徹された」――。

     「『賛成した者の責任』はだまされた者の責任と承知すべき」であり、その責任の取り方は、この「改革」が持つ危険性・本質的な反国民性を社会に訴え、当時の認識としては、裁判員制度の見直し・延期をすることであり、このままの事態を許せば、「だまされた者」にとどまらず、「だました者」つまり共犯者の責任を免れない、というのが、米倉弁護士の結論でした。

     宇都宮会長が提示する、「市民目線」による第1次改革の修正。一貫して「改革」を肯定的に評価し、弁護士の現状に耳をかさない論評を続けている「朝日」が取り上げた「市民目線」の第2次改革の描き方は、いうまでもなく、米倉弁護士が言ったような第1次への厳しい認識を前提とするものではありません。

     弁護士会内の「改革」指導者であった中坊公平・元日弁連会長もはっきりと認識していた「上からの改革」の実態と、それへの期待感(「『改革』への期待感という幻影」)。それへの決定的な反省を伴った認識を共有しないまま、基本的に司法審路線が延長されるなかで、弁護士はまた「だまされる」側にまわる危険はないのだろうか――。こんな不安が過ります。

     宇都宮会長は、記事の中で、「弱者の気持ちを理解できる法曹が少なくなってしまったら、司法の自滅」と言っています。「朝日」も強調している、生き続ける司法審路線の向こうに「司法の自滅」の危険はないのでしょうか。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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