「朝日新聞」司法審10年企画の印象

     司法制度改革審議会の最終意見書から10年で、7日に佐藤幸治・元会長の談話を掲載した朝日新聞(「生き続ける司法審『予想図』」)が、同じ節目での社説を14日の朝刊に掲載しました。

     結論からいえば、これまでの「朝日」の論調をご存知な方からすれば、別に目新しものはありません。むしろ、目新しくないことに、注目すべきといっていいと思います。つまり、あくまでしがみついているという印象です。

     政治、行政、司法と続いた一連の改革で「最も実を上げている」のが、司法審以来のこの司法改革であると持ち上げたうえで、法科大学院を出ても受からない、弁護士の就職難、志望者減少と法曹養成が壁にぶつかっている、対策が必要だと。大切なのは市民の視点で、弁護士を増やせ、そして、お決まりの、増える影響をいう弁護士の心得違いと、活躍の場は「まだまだある論」。締めくくりは司法試験の在り方や、修習についても「旧来の発想や基準にとらわれず再検討が必要」、以上。

     前進がないというよりも、同じ切り口に固執しているような印象を持ちます。逆にいえば、こういうしかないということでしょう。

     ただ、いつもいうように、この「社説」もきちっと読者への印象を植え付ける、考え方の刷り込みの役割は果たしているというべきです。いうまでもなく、この社説の三分の一を割いて展開されている、前記したような増員慎重論を唱える弁護士への批判です。

     「競争が激化し食べていけない、人権活動もおろそかになるとして法曹人口の抑制を唱える声が根強くある。すいぶん身勝手な主張と言わざるを得ない」

     「昔ながらの弁護士像を前提にするだけでは展望は開けない。世の中には権利を主張できぬまま福祉や医療サービスの外に置かれ、だまされても警察に相談することすらかなわない、そんな人も少なくない」

     「たしかに改革審が想定したほど出番はまだ見えないかもしれない。だが、市民との距離を縮めて真のニーズを掘り起こす努力もそこそこに、縮小安定の世界に逃げ込んでしまっては、法の下でだれもが平等・対等に生きる社会は実現しない」

     やはり、どうしても司法審の「予想図」が間違っていたわけではなく、「そこそこ」の努力で逃げようとしている弁護士が悪い、もっと掘り起こせ、という話にしたいようです。冒頭の先日の記事を読んでいれば、佐藤・元会長が書いた社説ではないか、と思えるほど、ぴったり同じ方向を向いている感じです。

     本当にそういう描き方でいいのでしょうか。弁護士を増やす、増やせる前提を考えないで、あるところにはあるから、掘ってみろという預け方が、国民のためになるのでしょうか。「そこそこ」という「朝日」は、結論からいうと、現状について叫んでいる弁護士の声には耳を傾けていません。「身勝手」のなかにくくっているのでしょう。

     結局、「合格者を増やすことが王道」とおっしゃる「法科大学院村」の方々のご主張(5月31日、朝日新聞・朝刊オピニオン面「争論」)通り、合格者は絶対減らさないことで、法科大学院は死守するという路線でいくべき、ということです。「朝日」は完全に「村民」ということです。

     さて、嫌な感じの話をもう一つ。この社説の見開き向かいのオピニオン面には、「耕論 司法改革 その先は」という、3人の論者の意見を掲載した巨大な企画記事が掲載されています。カットには小泉純一郎首相と前記佐藤・会長(ともに当時)が笑顔で並ぶ姿と、中坊公平・元日弁連会長の演説する姿が象徴的に使われているこの企画は、さながら前記社説の弁護団登場といった趣があるものです。

     この企画については、回を改めて書くことになると思いますが、結局、ここでもポイントは弁護士の増員です。増員慎重論が「改革」の前進に立ちはだかる元凶のような印象を強く与えるものです。

     ただ、ここで言いたい嫌な感じというのは、そのことではありません。その人選です。「法テラス」スタッフとして3年間「司法過疎地」勤務の経験がある太田晃弘弁護士、ダニエル・フット・東京大学法科大学院教授とともに、論者に加わっているのは、宇都宮健児・日弁連会長です。

     太田弁護士の「まだまた必要論」、フット教授の「増員すれば潜在ニーズを掘り起こせる」論に加えて、増員ペースダウンを唱えて当選した宇都宮会長で、一見主張にバランスをとっている体のこの企画には、またまた「朝日」らしい(「刷り込まれる『弁護士大増員』という前提」)カラクリがあります。

     宇都宮会長の記事の見出しは、「弁護士増員 市民の目線で」です。さすがに宇都宮会長は、弁護士の現状について言及されています。ただ、「減らせといっているわけではありません」「(司法審の掲げた)法曹人口5万人は合格者数を現状より相当減らしても達成できる」「裁判の数や企業などで働く弁護士の採用状況を見ながら増やせばいい」「プロセス重視の教育で多様な人材を呼び込むという法科大学院の理念は素晴らしかったが、いまや崩壊の危機です」「弁護士も市民の信頼を得る努力をしなければなりません。東日本大震災の被災地では弁護士が不足している」などなど。

     つまり、一部に「改革」に逆行するととられている宇都宮日弁連会長に、「私は増員には反対なわけではない」という弁明の機会を与えているような印象のこの記事は、その懸念されていた宇都宮会長の路線と、司法審路線の距離をぐっと縮めるような印象を強く読者に与えます。その狙いは、前記社説で批判された「心得違い」の弁護士たちの主張と、一線を画すことにあるのではないか、と思えるのです。

     本来、バランスをいうのであれば、なぜ、ここで「心得違い」とされている「減らせ」あるいは「増やすな」といっている論者の言い分を持ってこないのか、ということです。またもや、あらかじめ読者に選択肢として提示していないのです。宇都宮会長の主張までが、「朝日」の許容範囲ということでしょうか。

     このことに対する評価は、弁護士の中にもさまざまあるとは思います。失望される方もいるかもしれませんが、「増員反対」という点でいえば、これが宇都宮執行部の現実という受け止め方もあり、逆に「朝日」が実態を浮き彫りにしているととられる方もいるかもしれません。もちろん、この記事からの印象が、すべて宇都宮会長の本意かも分かりません。

     ただ、見方よっては、前記司法審「功労者」たちの写真とともに論者を並べたこの企画のなかの宇都宮会長の記事は、「改革」路線の枠組みを崩さないためにも、日弁連をあくまで「司法改革村」に取り込でいる形を印象付ける、「朝日」一流のやり方にも見えなくないのです。


    ただいま、「2年目の宇都宮日弁連執行部」についてもご意見募集中!
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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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