生き続ける司法審「予想図」

    2001年6月に司法制度改革審議会の最終意見書が出されてから今月で十周年を迎えるに当り、日弁連の宇都宮健児会長が8日、談話を発表しました。

     このブログでも、何回も登場していますが、この10年、推進派の方々に「改革」の「バイブル」のように扱われてきた、同意見書は、①司法制度をより利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのあるものとする②質量ともに豊かなプロフェッションとしての法曹を確保する③国民が訴訟手続に参加する制度の導入等により司法に対する国民の信頼を高める――ことの3つを「改革」の柱としてきました。

     宇都宮会長の談話は、日本司法支援センターなどによる法律援助の拡充や労働審判制度、裁判員制度の各導入を一定評価しなからも、民事司法改革の残された課題への取り組み、法科大学院制度が行き詰っていることを挙げたうえでの、「法曹養成に関するフォーラム」での司法修習生の給費制維持、法科大学院の総定員削減等の具体的改善策合意、捜査段階での調べ段階可視化などえん罪防止のための刑事司法改革を挙げています。

     ただ、この談話の最大の特徴は、行き詰まる法科大学院を中核とする法曹養成制度と密接な関連を持ち、弁護士にとっての、いまや最大関心事といってもいい、弁護士の増員路線について、「直言していない」点にあります。

     「法曹人口の大幅な増加を図ることが喫緊の課題である。司法試験合格者数を法曹三者間の協議で決定することを当然とするかのごとき発想は既に過去のものであり、国民が必要とする質と量の法曹の確保・向上こそが本質的な課題である。このような観点から、当審議会としては、法曹人口については、計画的にできるだけ早期に、年間3,000人程度の新規法曹の確保を目指す必要があると考える」(同最終意見書)

     「実際に社会の様々な分野で活躍する法曹の数は社会の要請に基づいて市場原理によって決定されるものであり、新司法試験の合格者数を年間3,000人とすることは、あくまで『「計画的にできるだけ早期に』達成すべき目標であって、上限を意味するものではないことに留意する必要がある(同)

     こう明言した司法審意見書に対する評価はどうなったのでしょうか。この提案が、どれだけこの「改革」のなかで、持ちだされ、増員路線を牽引してきたかを考えれば、この内容に触れないこと自体、不自然です。3000人確保はどうなったのか、それについてどう考えるのか、「市場原理によって決定される」というのであれば、それはどのような評価になり、あるいはそれに基づいて、現実を直視して合格者の減員を図るべきなのではないか、いや、そもそも「市場原理によって決定される」という路線をこれからも維持するのか、等々、日弁連として、言うべきことは沢山あるのではないでしょうか。

     全く言及しないということは、基本的に「意見書」の方針維持、あるいは「問題なし」という評価とみなされても、しようがないと思います。

     さて、10周年ということでは、「バイブル」起草者の中心人物、佐藤幸治・元司法審会長も、日弁連会長談話の前日7日、朝日新聞にコメントを寄せています。

     「増員・養成改革 理念は正しい」

     こんな「朝日」が、本当は社説でつけたい文字をもってきたんじゃないか、と思えてしまうような見出しの下で、佐藤・元会長は、こうおっしゃっています。

     「弁護士会は増員抑制を求めるが、まだ国内訴訟中心の弁護士増から抜け切れていないと感じる。3000人の目標は維持すべきだ。人数が大幅に増えてこそ、さまざまな分野で活動する人が出てくる。意見書では、弁護士が行政・立法機関や企業、労働組合、国際機関などで活躍する予想図を描いたが実現していない」

     「予想図を描いた」は結構ですが、それが外れているということに対する認識は示されていません。外れてもなお、予想は正しく、このまま突っ込むというご趣旨のようです。具体的な見通し、実現可能性、いずれも10年前の段階から修正の必要性はなし、という「バイブル」起草者のお話でした。

     「バイブル」は生きている、起草者もそうおっしゃっているのだから、これからもこれでいくぞ、法曹界一丸で、決意を新たに、ということでよろしいのでしょうか。

     もっとも宇都宮会長の談話のなかに、目立たない形で「職域拡大の遅れ」という一文もありますから、取り方によっては、やはり前記「予想図」が依然、佐藤元会長同様、念頭にあるようにもとれなくありません。

     やはり、前日にこの朝日の記事を見て、翌日の宇都宮会長の談話を見た方々のなかには、その内容に失望された方も相当数いたのではないかと思ってしまいます。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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