「不正解決」を描き出す理由

      先日のエントリー(「刷り込まれる「弁護士大増員」という前提」)で取り上げた、5月31日付けの「朝日新聞」朝刊の対論記事での奥島孝康・元早稲田大学総長の発言のなかに、こんな下りがあります。

     「地方では、法的なトラブルが発生しても弁護士が少ないため、ヤクザや地域の有力者に仲裁を頼んで紛争を解決する人がたくさんいます」

     彼がどういう文脈で、こういうことを言っているかといえば、増員の影響で弁護士が食えないというがそれは東京など都会だけ→地方はまだまだ弁護士が少ない→前記のような実態→地方でそうした潜在的なニーズを掘り起こせば、仕事はあるはず。つまり、前記のような実態があることが、弁護士を増員しても大丈夫なことを示す潜在的なニーズの証、というわけです。

     正直、これを見て、まだ、こんなことを言う人がいるんだ、と思いました。聞いたことありますか、こういう話。いや、ないとはいえません。ヤクザや有力者が出てくるいかにもな紛争解決のパターン。でも、これが地方の実態といえるような、軸となる話ですか。

     少なくとも「身近になる」という司法の射程に入る、庶民がかかえるトラブルが、こうしたパターンの解決に頼っているという話になりますか。ヤクザや有力者は、市民のそんなに「身近なパートナー」ですか。

     これを「潜在的なニーズ」として、弁護士の営業努力を求めるのだとすれば、地方の弁護士は、現在、ヤクザや有力者に頼っている案件について、市民に「そちらでなくこちらへ」という形の営業をすることになります。「そちらだと危険ですよ」「付け込まれてもっとお金がかかります」「簡単な解決のようで、結局厄介です」「不正・不法な解決方法です」という、ある意味、正当なネガティブキャンペーンを打てば、やがて目覚めた大衆が弁護士の方にやってくる――こういう話でしょうか。

     そんなわけはない、と多く人が思うと思います。ただ、「まだ、こんなことを言う人がいるんだ」という感想を書いてしまったのは、実は、この切り口は、法曹界の方ならば、かなり今回の司法改革論議のなかでおなじみの論調だったからです。

     以前にも書きましたが、改革論議の中で飛び交った言葉に「二割司法」とものがありました(「『二割司法』の虚実」)。「平成の鬼平」としてマスコミの寵児となった中坊公平・元日弁連会長が提唱した言葉で、「わが国の司法は本来果たすべき機能の二割しか機能していない」、つまり日本司法の機能不全を表現したものです。

     この機能している二割を除いた、残り八割の世界が、まさに奥島さんがおっしゃったようなものとして、必ず言われてきました。泣き寝入りとか、政治決着とか、行政指導とか、ゴネ得とか、暴力団による解決とか、いわば不正・不当な解決の形になっているということです。

     「二割」といわれた機能不全そのものの根拠がなかったことは、もはや疑いようがないことですが、ここで描かれたイメージが、どれほどの眠れる弁護士ニーズを想像させ、それが増員を含め「改革」への弁護士の行動を牽引してきたかも明らかなことです。

     奥島さんが弁護士増員の必要性を強調したいあまり、地方にこういう実態があるという結び付け方をしたのは、いわばこの「改革」論議のなかで、関係者のなかに刷り込まれてきた論調の典型を思わせます。ある意味、当然のこととして、使い古された見方でありながら、えんえんと根拠が薄弱な状態の、おかしな用法に思えます。

     市民ニーズとして、弁護士がものすごく足りないということにするためには、どうしても市民の泣寝入り、ヤクザや有力者が跋扈する社会を強調して描かなくてはならなかった――「二割司法」というスローガンが生まれた本当の経緯が、そんな風にもとれてしまうとき、この「改革」は、やはりもう一度立ち止まって考えなければならないように思えてきます。


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    テーマ : 弁護士の仕事
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    ありがとうございました

    893-5910さん、コメントありがとうございます。

    弁護士の中に、上位職能意識や「万能論」があることは事実です。一方、72条をめぐって、関連士業のなかに不満もあります。司法制度改革審議会は、弁護士大増員を前提に、弁護士に隣接した士業の役割を正当にカウントしておらず、来るべき弁護士大増員時代に仕切り直しをすることを示唆しています。弁護士増員ありきで、ニーズの受け皿を士業総体として見ていない「改革」論議にも問題があると思います。増員のシナリオも狂ってきているので、今後、どうなるかです。また、弁護士側は隣接士業側の能力や安全性の問題で、権限拡大に一貫して厳しい見方をしていますが、とにかく市民の使い勝手のよさで、はやく実績を作ってしまいたいというのが本音のようです。

    今後ともよろしくお願いします。

    ヤクザにも劣る弁護士たち

    私に言わせると、ヤクザだろうが紛争解決してくれるんならそれでいいじゃないかと思いますが。

    弁護士をもっと増やせ競争しろ競争しろ(ただし法科大学院に法外な金と何年もの歳月を貢いで)とか抜かす連中は、弁護士資格自体の特権制は疑うどころか、他の仕事(特に司法書士・行政書士)を公然と見下して恥じない輩が多過ぎ。いや、弁護士大量増員に公然と反対の声を上げている弁護士にすら、「司法書士・行政書士に存在意義があるのか」などと平気で自分のブログに書いて恥じない奴がいる。

    弁護士法72条とかいう法律をいやらしくふりかざし、非弁だ非弁だ文句をつけて他人の仕事を圧迫してまでごく些細な(本当、子供でもできるような代理人すら)仕事まで独占を図る弁護士って、ほんと吐き気がする。

    非常に些細な話なのに、どうしても私自身の都合で自分で出向けないので、誰かに代わりを頼もうと行政書士に電話したら「それは交渉ごとになるので弁護士しかできない」と悲痛な声で断られた経験は一生忘れない。やむを得ず頼んだ弁護士は、幸いごく低廉な報酬しか要求しなかった(当たり前。物凄く単純極まる話なんだから)。だが、「誰でも出来るような仕事」を国家権力まで使って無理矢理独占してボロ儲けしている連中なんて、概して碌でもないんだろうなと確信しました。
    あ、その弁護士さん個人は低廉な報酬でやることやってくれたんだから、好印象しかありませんよ。

    示談屋とか事件屋というのはどうして存在できるんでしょうか。存在自体が違法なんだから、通報されたら終わりのはず。だが、実際には広く暗躍しているということは、相手側に「この人の話なら、認めてもいいか」と思わせるだけの腕前があるということではないのですか。
    要するに、弁護士はヤクザにすら劣っている。で、それ(技能の低劣)を反省するどころか、国家権力までふりかざして仕事を無理矢理独占しようなどと、羞恥心欠乏症がどこまで重症化しているのですか。

    司法書士・行政書士を全否定する弁護士など、どんな件でも絶対に依頼したくない。近づきたくもない。きっと腕も悪いでしょうから。本当に自分が優れていると本心から思っている人間が、他人を公然と見下すはずがないから。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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