「仮定の話」ができない思惑と質

     「仮定の話にはお答えできません」

     この言い方って、いつからこの社会で、まかり通るようになったのでしょうか。この言葉を聞くたびに、正直、ちょっとイラっとします。

     いまや政治家などから、度々聞くこの表現は、質問をかわすための常套句です。言うまでもないことですが、さも正当のように、「仮定の話には」と言っていますが、それを答えてはいけないってことはありません。いや、むしろ答えなきゃいけないのではないか、という局面で、必ずといって、この言い方が飛び出します。

     この表現を使用している側の頭を支配しているのは、おそらく二つのうちどちらかです。一つは起こらないかもしれないことを前提に話して、起こらなかった場合、その間、そういう前提の回答が一人歩きすることの自他への影響を避けたい、それか、もう一つは、とにかく話したくないから逃げたい。実は、後者の場合、かなりの確率で起こることも分かっていて、回答そのものが自分にとって不利、答えにくいものになる場合がほとんどです。

     「歴史にもしもはない」という言葉と、同じようなタブーとして使っている人もいますが、全く意味が違います。起こってしまったことを仮定する意味は問われるとしても、現在進行中のことや未来を仮定することがタブーになるわけがありません。

     しかも、前記したような仮に影響を気にしたものだとして、数パーセントでも起こる可能性があるなら、仮定しなければいけないこともあります。必要があるならば、正直にきっちり、いくつかの「仮定」を示すべきなのです。

     これも言うまでもないこともしれませんが、今回、福島原発事故をめぐる政府発表で国民は、いやというほどそのことを味わっています。いま、原子炉で何が起こっているか、だれもが推測でしか話せない中、「確定的なことしかいわない」として、最悪の事態を仮定して話さない、と、どういうことになるのか、ということです。

     しかも状況からすれば、当然、想定できる悪い現状から、「確定的でない」ことを理由に、国民の目をそらさせるようなことを政府がやること自体信じられないことです。完全なミスか、別の思惑があると考えるしかありません。

     もっとも、今回の事故というよりも、原発そのものが、そういう形で存在してきた結果を、私たちは見ているといえます。「最悪」の「仮定の話」をしない、できない、いわば、それを封印することで進めてこられた政策なのです。

     さて、実は、このことは弁護士と依頼者との関係でも、よく話に出るテーマです。つまり、「最悪の事態」をどこまで依頼者・市民に伝えるのかということです。

     以前にも書きましたが、見通しをつけるということが、依頼者・市民にとっては非常に重要なことです。この紛争に勝ち目がどのくらいあるのか、その場合にもたらされる利益はどのくらいで、こちらにどのくらいのお金がかかるのか、和解になるならばどの辺が落としどころとなるのか、時間は、相手の出方は・・・・。

     ここで、弁護士が見通しを提示できるのかは、一つには能力の問題があります。ここは、確かに経験、実力の違いがあって、逆にいえば、ここが弁護士選択の判断材料の一つになっても当然ではあります。

     問題は、そこに意図が介入している場合です。依頼者の気持ちをつなぐために、見通しを立てない、もしくは依頼者の耳触りのいいことをいってしまうパターンです。前記した思惑をもって「仮定の話をしない」意識と、全く同じといっていいものです。

     以前からこうした弁護士の話はよく耳にしてきましだ、最近のエントリーでも書きました、依頼者の気持ちをつなぐために、勝ち目のない紛争にファイティングポーズを取り続ける「困った弁護士」が若手に増えつつある(「ポーズ」弁護士増加の嫌な兆候)」)状況からしても、弁護士にとっては陥りやすいものがあるのかもしれません。

     しかし、いうまでもなく、これは弁護士の質にかかわることであり、これ自体が能力の問題でもあります。誠実に現状を伝えられることが、市民の求めていることであり、また、説得も弁護士の能力です。こうした形で、依頼者の気持ちをつないでも、それは結局、依頼者にとって最良の解決を導くことにはなりません。

     依頼者に本当の状況を話した結果、勝ち目や妙味のない理由を弁護士のせいにして、他にいってしまう市民もいるかもしれません。ただ、それならそれでいいとしなければなりません。過剰期待を含めた市民の誤解を生むようなことをすれば、それ自体が弁護士の不信を生みます。

     やはり、政治家にしても行政にしても、弁護士にしても、「仮定の話」ができないということが、大衆のマイナス評価につながると見るのは、むしろ自然なことだと思います。

    ただいま、「今、必要とされる弁護士」についてもご意見募集中!
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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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