実直で正確な「非常識」

     もう30年くらい前の話になりますが、記者見習いで新聞社に入ってきた新人を連れだって、東京の弁護士が集まる大きな懇親会に出席しました。私も当時駆け出しでしたが、とりあえず彼の顔を売ってこいということだったと思います。彼は司法試験の合格で常に上位にランクインしている大学法学部から、大学院に進み、社会に出たばかりでしたが、まだ法曹への道をあきらめたわけではないようでもありました。

     立食形式で、いろいろな先生にあいさつして回り、彼も新人として名刺を配り、その日は帰りました。

     さて、後日。その日の夜、都内某所の中華料理店で弁護士会の派閥の会合あるという情報が入り、上司からその中華料理店の所在地を調べよと言われ、調べていると、その新人君、隣でどこかに電話している。見るとなにやら気まずいムード。どうした?と聞くと、受話器をふさぎながら「上司を出せ、と言っています」。

     電話に出た上司は、出るなりひたすら平謝り。相手は、なんと東京でもうるさ型で知られた弁護士でした。電話に出た上司に、その弁護士は開口一番こう言ったそうです。

     「お前んとこの記者は、俺に中華料理店の場所を聞くのか!」

     上司が新人君にわけをただすと、回答はこうでした。

     「先日の懇親会で○○先生(うるさ型)にお会いした時、『困ったことがあったら何でも聞け』と言われたものですから」

     彼は、ほどなく記者に向かないということで辞めていきました。多分、勉強に専念する道を選んだのだと思います。

     笑い話のような話ですが、実は数年前、これを思い出させるようなエピソードがありました。相手は東京の中堅の弁護士。ある出版物に彼の経歴と顔写真を載せることをお願いしていました。

     彼から送られてきた写真を見て、驚きました。そこにあった写真はどう見ても小学生です。とっさに、こちらは嫌みをやられた、と考えてしまいました。ご本人は、本当は写真なんか載せたくないのだ、と。こうした形での掲載拒否の意思表示をされたのだと考えました。

     そうであったのなら、まあ、これは普通の話でした。が、驚いたのはそれからでした。一応、こちらとしては、意思を確認する意味で電話を入れました。こちらが「いや、先生勘弁してください。お写真の方はお載せになりたくないということですか」と尋ねると、電話口でその弁護士はキョトンとした感じです。すると、こちらの意をさっしたのか、「いやいや載せたくないという意味ではありません」と慌てて否定し、「あの写真ではだめですか」と。

     逆に今度は、こちらがキョトンとする番でした。まだ、嫌みをやられているのか、と一瞬思ったものの、丁重に返してくる彼に、わけが分からないでいると、彼はこう言いました。

     「先日、御社の方からどんな写真でもいいと言われたので」

     経歴と一緒に小学生時代の写真の掲載を希望するとは、もちろん思ってもいません。既に現在の彼は、この写真の時から、30年以上が経過し、おみぐしの方もそれなりに貫録が出て、この写真と同一の方とは、まず見分けられません。

     納得したかどうか定かでないまま、彼は電話を切りましたが、数日後、再度彼から送られてきた写真には、詰襟の中学生くらいの男の子が写っていました。

     こんな話をすると、なんて変わりもんがいるんだ、という話になって、この世界やこの世界の志望者のイメージダウンにつながってしまうかもしれません。ただ、単純な話、ここに登場した彼らに共通しているのは、実直で、かつ言葉を正確にとらえる能力に優れていても、それを照らし合わせてみる社会常識が欠落している、というより照らすべき世間が自分のなかにないということなのです。

     これを司法試験の勉強や弁護士の仕事に当てはめて、だからこうなる的な見方や、法曹の世間知らずをいうのは、もちろん乱暴すぎます。ここまでの人は、もちろん、稀ですから。ただ、逆なことをいえば、法律家にこういう人がいること、あるいはたまたま市民が出会った弁護士について、比較において、世間一般よりも、その面でこういう人間との遭遇率が高いということがあっていいのか、といわれれば、それは話が別です。

     ここで挙げた方は、もちろん極端な例とは思いますが、弁護士に出会った市民の方から聞こえてくる感想の中には、やはり自分の中に照らし合わせる世間を持ち合わせていないことに由来しているような弁護士の「変人ぶり」をいう話がよく混じります。

     大変失礼ながら、弁護士のみならず裁判官・検察官も含めて、確かにそうした「変人」率は、やや高い世界のような印象も否定はできません。

     今の弁護士志望者や若手の弁護士は、隋分変わってきたとは思います。箱のなかに入って勉強してきたような人は、ほとんどいないかもしれません。ただ、多様な経験を持ち合わせて、世間を知るということは、法曹が二の次、三の次にしていいテーマでないことだけは、いつも考えておいていいことのようには思います。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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