人権救済機関としての弁護士会の限界と評価

    以前、人権救済機関を日弁連が積極的に提案すべきとして唱えている弁護士に取材したことがありました。

     その時、驚いたのは、その方が日弁連の人権擁護委員会で活動されていらっしゃる方でありながら、その人の口から出てきたのが、予想以上に日弁連の人権擁護活動に対する、厳しい評価だったことでした。

     それは、ひとつには「限界」ということだったと思いますが、彼のニュアンスはそれを通り越して、はっきりと別の機関が担うべきとする意見にとれました。

     その時、最も気になったのは、その担うべき機関の独立性ということでした。その機関は、いかに独立を担保できるのか、彼の話のなかで、そこが一番よく分からなかったので、あえて、しつこく突っ込みました。弁護士に与えられている「自治」と同様か、それ以上の独立性が担保されるのか、逆にいえば、強力な「自治」こそ独立性という意味で、弁護士会に与えられた人権擁護機関たる「資格」ととらえてきたのではなかったのか、と。

     その弁護士は、あきれ顔でこう言いました。

     「君みたいなことを言うのが、弁護士会の中に沢山いるよ」

     日弁連の機関誌「自由と正義」5月号の、特集「人権救済申立事件から見たわが国の人権状況」の中に、彼も言っていた弁護士会の人権擁護活動の「限界」が示されています。

     それは大きく2点です。一つは救済措置に強制力がないこと。「基本的人権の擁護」を使命に掲げた弁護士法1条によっているとはいえ、具体的な法的根拠はないとされ、強制力もなく、相手側に応答義務もない。つまり、何をやっても、相手側がその気になれば、完全に無視を決め込めるということです。強制的な調査権限もないので、調査対象が協力してくれなければ、おしまいという話です。

     もう一つは、過剰負担です。近年の申し立て急増している現実もあり、迅速な救済について弁護士会では背負いきれないという話です。救済を申し立てている側にも、そうした点で弁護士会の活動に必ずしも満足していない現実があることを前記弁護士も強調していました。

     もちろん、日弁連の機関誌が、「弁護士会の活動は限界、別の機関で」とさじを投げる論調を掲げたわけではありません。結論は、新設人権擁護機関の活動と弁護士会の活動の併存です。弁護士会の救済システムも改善し、強制的調査権限や拘束力は無理でも、法務大臣の応答義務は現行法でも可能ではないか、ということです。

     ただ、どうも「独立」という話がひっかかります。これを読んでも、さらっと「独立した機関」と表現しているそれが、果たして具体的にどんな風にそれを保障したものとして現実化するのか、イメージしずらい感じが残っています。独立性が担保されるかどうかで、この組織の役割からいって、全く評価が違ってくるということにもなります。

     さらに併存といっても、救済措置という意味では、より強力な権限を有する新機関に期待が集まるのは当然のことです。独立性が問題となった日本司法支援センターが弁護士会に代わる「第2弁護士会」になるという指摘がありましたが、新機関も人権救済の分野で弁護士会に代わる存在感を社会に示すことになる可能性があります。人権擁護活動という 弁護士会の表看板がまた一つかすんでいくかもしれません。 そのことが、結果としてどういうことをもたらすのか、です。

     この「自由と正義」の巻末にある編集後記で、研究者の文献には判例は引用されているのに、人権救済申立事例集の日弁連の判断について、ほとんど言及がないことを嘆く一文が出ていました。

     「日弁連が警告、勧告を発するまでには、事件委員会、人権擁護委員会、正副会長会議、理事会と、幾重もの検討を経ているにもかかわらず重きを置かれていないのが残念です」

     この文の筆者は、今後、日弁連見解の精度をさらに高め、「研究して頂く」努力が必要と、極めて謙虚な受け止め方ですが、基本的に日弁連の人権救済活動の成果が正しく評価されてきたのかは、気にかかります。

     弁護士会という組織の限界とともに、弁護士会の独立性があってこその成果・意義も踏まえて考えていく必要があるように思います。 

    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。
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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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