「弁護士次第」という疑念と誤解

     裁判所の訴訟促進策が打ち出される、ずっと以前、ある弁護士の会合で、遅延がいわれていた民事訴訟が話題になりました。その時、出席していたある弁護士が、弁護士としての訴訟促進策として、「例えば、こんなスタイルはどうだろう」という提案をしました。

     それは「訴訟促進協会」といった、弁護士の団体を作るというものでした。つまり、訴訟促進を心掛ける弁護士が、その団体に所属し、積極的に実践するというものです。

     その弁護士が具体的にイメージしていたのは、こんなものでした。全国の多くの弁護士がそこに参加して、公然と、「訴訟促進弁護士」を標榜する。やがて、民事裁判で、「促進協バッチ」をつけた弁護士が、相対することになる。双方の弁護士は、相手側の弁護士の胸に、弁護士バッチとともに付いている、もう一つのバッチに気が付き、「おっ、促進協の方ですか」と。で、努めて迅速な裁判が実現される――。

     ユニークというより、漫画のように面白く、どこかのどかな裁判風景にも見えてきます。今考えてみれば、言っていた弁護士も、ちょっとした面白アイデアといった感じで、どこまで実現できると思っていったのかは疑わしいものがあります。あるいはこんな感じで促進ができればいいのだが、という程度のものだったかもしれません。

     ただ、この提案に、「なるほどね」と笑いながら聞いていた弁護士たちを見ながら、少々奇妙な気持ちに襲われたことを覚えています。つまり、民事訴訟の進行、早めるも遅れるも、実は弁護士次第なのか、というよりも、弁護士の努力、あるいは胸三寸で決まるように、弁護士がどこかで思っているのではないか、と思えたのです。

     もっとも大前提として、依頼者という存在があることくらい、もちろんこれを言った弁護士だって分かっていることだと思います。依頼者の意向を無視して弁護士が決めるというわけではないでしょう。説得というものも前提としてあるかもしれません。

     さらに、依頼者という存在があればこそ、このアイデアは、そう簡単にはいかないことも弁護士は分かっています。徹底的に争ってほしい、あるいは劣勢な依頼者が必ずしも裁判の早期決着を臨む場合だけではないからです。

     ただ、逆に言うと、市民の中には、もともと弁護士に対して、私が前記奇妙に思ったものに近い、いわば疑念のようなものがあるのを感じています。以前にも書きましたが、どうやら同じ釜の飯を食ったらしいこちらの弁護士と相手の弁護士が裏でつながっていて、「まあこの辺で」という落とし所を見つけて、回れ右して、双方の弁護士の説得を試みているのではないか。

     もちろん、弁護士からすれば、「そういうことだってあるだろう。それが当事者の利益になることだってあるし、そのためのものだ」という言葉が返ってきても当然です。しかし、市民からの弁護士に対する苦情を聞くと、どうもここが、必ずしも理解されているわけでなく、「うちの先生は相手に向かわず、こちらに妥協をせまることばかり言ってくる」という不満と結び付いて、何やら弁護士の裏取引疑惑のように見られている場合が結構あるのです。

     これとも関係しますが、市民が弁護士選びで、ものすごく気にするポイントとして、当方と相手の弁護士の力関係といったことがあります。経験値からくる能力差、先輩・後輩といった人間関係で、裁判で主張される中身とは別に、そうしたものが、成り行きを左右してしまうのではないか、という恐れです。ここは、弁護士選びを実際にやっている、もしくは裁判当事者として、既に弁護士をつけている市民の口から、これまでに何度も聞かれたことです。

     「弁護士間に力関係は存在するか」というテーマで、河原崎弘弁護士がホームページで書いていらっしゃいます。そこでも、弁護士間の話し合いがあっても、依頼者の意に反して事件解決の方向が決定づけられることはないし、そういう方向が出る恐れがある場合解任、それが出た場合は懲戒申し立てを挙げています。さらに、知り合いだった場合についても、やはり河原崎弁護士は、事件処理に悪いことはなく、むしろ話し合いがスムーズに進む分、プラスという見方を示されています。

     ケースによってさまざまですが、事件によっては、大体の落としどころが見えてしまうものもあるのは事実であり、逆に双方の弁護士・双方の依頼者が、ただ感情的にこじれることで解決しないということがあることも、弁護士はよく知っています。完全に先が見えているのに、徹底抗戦をしかける、まして依頼者にそれを結果として焚きつけたりすることになるのが、いいわけもありません。

     ただ、ここは弁護士が考えている以上に、デリケートな問題のように感じます。あまりに弁護士次第という見方が強まると、司法の「正義」の成り行きがそこで決まるような印象もまた、広がるからです。正義はカネを出して「強い弁護士」を付けた方という考えは、たとえ正しい弁護活動をして、妥当な司法判断が出ても、それに対する間違った当事者の解釈を生み、結局、司法や弁護士への誤解につながるのです(「弁護士は『用心棒』か」)。

     弁護士がビジネスと割り切られるなかで、こうした市民の意識も、また、強まっていく危険性があるように思います。

    ただいま、「今、必要とされる弁護士」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。
    http://www.shihouwatch.com/

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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