様変わりした「イソ弁時代」

     「イソ弁」というのは、居候弁護士の略称で、法律事務所に居候している弁護士のことです。法律事務所に所属する弁護士の形態は、共同経営者から雇用されている人、さらには場所代だけ払って机だけ借りているような人までさまざまですが、「イソ弁」は経営者ではない弁護士です。ちなみに経営者で彼らの事務所の親分は、「親弁」「ボス弁」とか呼ばれています。

     以前いた新聞社で、二十年くらい前に、「私のイソ弁時代」という連載企画をやったことがありました。中堅以上の弁護士の方に、「親弁」の面影や教えを交えてもらいながら、自らの「イソ弁時代」の思い出を語ってもらう、リレー随想でした。

     手前みそになりますが、当時、弁護士界の方々に、それなりに好評で、連載終了後も、何人もの方から、シリーズの再開を求める声を頂きました。

     しかし、何度か検討の俎上に上りながらも、結局、再開はなりませんでした。その最大の理由は、一口に言うと、往年のようなイソ弁時代のドラマが、今はなくなってきてしまっている、ということでした。

     かつて、「イソ弁時代」は師匠のもとでの純然たる弁護士の修業時代でした。いわば、徒弟制度のようなものだったのです。右左も分からない一年生弁護士に、「親弁」は法廷技術的ことや弁護士業務だけでなく、さまざまな弁護士としての心構えから人間教育的なことに至るまでを教え込む存在でした。それは「弁護士道」を伝える師匠のようにも見えました。

     そこには、しっかりした師弟関係がありました。多くのお弟子さんを抱えるところでは、まるで院長回診のように、裁判所の廊下を「親弁」を先頭にお弟子さんの弁護士さんたちが、ぞろぞろとお伴して歩く姿があったそうです。

     だから、当時、「私のイソ弁時代」の企画で、執筆を依頼されたかつての「イソ弁」たちは、みなさん、恩師に対する強い思いを込めて、この企画に賛同して筆をとってくださいましたし、また、そのことが同じように「イソ弁時代」を経験してきた読者のみなさんに共感を呼んだのだと思います。

     ところが、いつのまにか多くの「親弁」「イソ弁」の関係が変わりました。関係性はドライになり、「イソ弁」にとって、「親弁」は普通の会社の上司、あるいは一時期お世話になるトレーナー的存在になったように思えます。そうした関係性の中で、かつてのような師弟ドラマもなくなってしまったのでしょう。そうなると、編集者としては全く妙味を感じなくなってしまいました。

     まあ、法律事務所に限らず、社会全体で、そういう感じが流行らなくなったといってしまえば、それまでですが、やはり根本に教育というものに対する意識、とらえ方が変わったということがあるのだと思います。

     かつて弁護士は、数年「親弁」のもとで修業したのち、そこを巣立ち、独立して事務所を構えるというのが、よくあるパターンでした。もちろん、今もそれはありますが、このパターンもかなり崩れてきつつあります。要するに、余裕がないのです。いまや何百人も弁護士が所属する大手法律事務所が存在し、まさに会社に就職するような形で入所している弁護士もいますが、それ以外の多くの事務所でも、独立することの困難さから、「イソ弁」を継続せざるを得ない、というか、独立を念頭においていない弁護士が沢山います。

     さらに、皮肉にも、既に別の回で書きましたが、新人弁護士は深刻な就職難にさらされ、やむなく独立せざるを得ない「即独」という人まで出ている状態です。独立が新人弁護士の修業の先にある将来の夢、目標でなく、意に反する深刻な現実という状況があるのです。

     最近も、経営弁護士と話をして、「おたくのイソ弁はどうですか」と尋ねましたが、独立という話は全くなく、「何を考えているかも皆目分からない」という回答が返ってきました。

     やはり企画「私のイソ弁時代」はお蔵入りです。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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