ポピュリズムと向き合う弁護士

     5月12日付け「朝日新聞」朝刊の「明日を喋ろう2011」で、映画監督の森達也さんが、社会のムードに対するメディアの役割について、書いていらっしゃいます。

     彼は、1995年の地下鉄サリン事件以降、オウム真理教の信徒に密着して映像を撮り続けましたが、「殺人集団」と呼ばれたアジトの中に、「無邪気で純粋で世間知らずな人々の日常」を見つけます。

     しかし、テレビは、その善良さを伝えることを嫌い、彼自身、制作会社との契約を解除されてしまいました。

     行政は公然と信徒の住民票不受理、子供たちの転入学拒否を行い、麻原彰晃被告人への死刑判決は、満足な精神鑑定もされないまま、控訴趣意書未提出を理由に一審で確定。

     彼は、こう問題提起します。

     「善良な信徒たちが凶悪な事件を起こした理由を考えねばならないのに、この社会は、事件と信徒たちを同じ『凶悪』という言葉でつなぎ、高揚した危機意識を燃料にして集団化を進め、異質なものへの寛容さを失い続けています。多数派の意見が強くなり、ポピュリズムが加速しています」
     「歩調を乱すとバッシングに遭う。メディアもそんな雰囲気を感じとって動けない」

     ここで指摘されているのは、恐ろしいこの社会の現実です。危機意識の高揚は、寛容さを失った多数派を形成し、メディアも、あるいは疑問を持つ大衆もまた、委縮して動けない社会です。

     この社会では一面的な現実だけが、社会に伝えられることになり、それをもとに大衆の「裁定」が下ることになります。そのときに、前記「民主的」であることを標榜し、営利企業であるメディアは、その「裁定」の擁護者となり、また、それが社会に決定的なものとして認知されてしまうでしょう。

     実は、私たちは、そういう社会にいるのだ、ということをまず、自覚しなければならないと思います。

     そして、考えてみれば、弁護士という仕事こそ、時にこうした状況の逆風を受けて、使命を果たさなければいけない存在であると同時に、こうした状況の問題を社会に発信し得る立場にいる存在でもあると思えるのです。

     森さんはメディア側にいる人間として、多面性を伝えるメディアの責任を強調しています。戦時中の戦意高揚報道のきっかけを作ったのは軍部でも、メディアがのめりこんでいった側面も指摘しています。今回の震災を契機とした「集団化」の促進も危惧しています。

     いうまでもなく、弁護士も本来、視点としての「多面性」が求められる仕事です。別の言い方をすれば、一面的な見方に対し、本来は多面的な見方を提示することを回避できない仕事のように思えます。

     森さんの指摘に引きつければ、弁護士もまた、バッシングの前に委縮し、ポピュリズムに取り込まれてはならない仕事です。営利企業であるメディアが視聴者・読者である大衆に迎合していくように、弁護士が「国民の理解」といった言葉で、同様に迎合していくのであれば、メディア同様戦時下の歴史が教えるように、結局、社会のためにはならないということだと思います。

     そのこと自体を「多面性」という意味のなかで、国民は理解しなければならず、また、そのことを弁護士も発信しなければなりません。

     弁護士がポピュリズムに取り込まれてはならない、ということと同時に、増員問題や経済的な問題に対する論調を見ても、弁護士自身がそのポピュリズムのなかで、誤解され、攻撃され、あるいは結局は、大衆のためにならない形に追い詰められつつあるようにも見えます。

     やはり、メディアも弁護士も、森さんのいうように「歯をくいしばって伝えなければならない」時代を迎えています。

    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。
    http://www.shihouwatch.com/

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    ご丁寧に

    ありがとうございました。ビンラーディンと手続きの記事は感銘を受けました。これからも勉強になる記事をお願いします。

    ありがとうございました

    東京在住の肥後もっこす さん、コメントありがとうございます。

    やはりそういう現実が、あるのですね。
    これは、結局、ジャーナリズムにしても弁護士にしても学者にしても、自らの職責に対する自覚・覚悟の問題でもあります。逆にいえば、本当に必要なのは、どういう覚悟・自覚をもった専門家なのか、ということに、やはり大衆もこだわらなければいけない、ということだろうと思います。

    是非、「司法ウオッチ」http://www.shihouwatch.com/の方にも、ご意見を。
    今後ともよろしくお願いします。

    人権論の好きな憲法の

    教授にオウム真理教の師弟の通学拒否問題を質問したらスルーされました。学生一流、教授三流と呼ばれた大学での出来事でした。自分たちに都合の悪い人権問題を無視するのは弁護士も同じですよね。かつては自衛官の転入拒否問題もそうでした。世間から恨みを買ったんですね。本当にポピュリズムと戦っていたらもっと尊敬を受けたと思いますよ。なんか挑発的ですいません。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR