弁護士「成仏理論」が描き出す未来

     ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、「弁護士成仏理論」というのがあるそうです。出典は雑誌「法学教室」2006年4月号巻頭言。これを提唱されたのは、高橋宏志・東大名誉教授。伝聞になりますが、伝えられているのは以下のような内容です。

     「問題の捉え方がそもそも間違っている。食べていけるかどうかを法律家が考えるというのが間違っているのである。何のために法律家を志したのか。私の知り合いの医師が言ったことがある。世の中の人々のお役に立つ仕事をしている限り、世の中の人々の方が自分達を飢えさせることをしない、と。人々のお役に立つ仕事をしていれば、法律家も飢え死にすることはないであろう。飢え死にさえしなければ、人間、まずはそれでよいのではないか。その上に、人々から感謝されることがあるのであれば、人間、喜んで成仏できるというものであろう」

     弁護士を含め、法律家は聖職であるということのようです。食べていけるかは仕事を選んだ目的ではないはず、お役に立っていれば、飢え死にはしないと。そして、この理論だと、依頼者・市民に喜んでもらえれば、弁護士は仏さんになるということです。

     弁護士の増員や経済難の主張に対して、弁護士側の心得違いをいうような論調がありますが、ここまで厳しいことをおっしゃるものはないように思えます。ただ、現在、日本の巨大ローファームの客員弁護士もされていらっしゃるこの方の理論として、現実離れされたものとして、賛同よりも反発とあきれ返る関係者の声ばかりが聞こえてきます。

     そういえば、「改革」を牽引され、かつては弁護士会にも多数の「信者」を抱えていらした中坊公平・元日弁連会長も、「弁護士報酬はお布施」と言っていらっしゃいました。謙虚さや弁護士の覚悟を説く論の特徴でしょうか。聖職意識というか、もはや宗教的境地に目覚めよという風であります。

     さて、最近も弁護士のブログのなかで、この「成仏論」が登場していました(「福岡若手弁護士のblog」)。五島ひまわり基金法律事務所の古坂良文弁護士が「九弁連だより」2011年1月号に投稿した一文を紹介しているのです。

     それによると、古坂弁護士はその一文のなかで、これまでの経験から、弁護士が弁護士過疎地に定着するのは、経営的に困難を通り越して無謀、今回の過払ブーム終焉後、10年20年の長期スパンで考えた場合、経営を維持するに足りるだけの売上を継続的に維持できるかについては大いに疑問と指摘。「人がいないところ、企業がないところには、事件はない。人が減れば、企業が減れば事件も減る」と断言しています。

     そのうえで、弁護士過疎地への弁護士常駐に不可欠なのは「経営維持を重視しなくていい環境」だとし、それは4つだと。一つは日弁連のひまわり公設事務所、二つは法テラスの4号事務所(過疎地支援事務所)、三つは弁護士法人の支店を置いて、支店の赤字を本店の黒字で埋めること、そして最後が成仏理論だと。

     以前にも、弁護士過疎解消を支えてきたのは、いわば弁護士の有志の精神であると書きました(「弁護士過疎と増員の本当関係」)。まさか前記の文脈に成仏理論が登場するとは思いませんでしたが、もはや4番目のそれは、有志の精神を通り越していることは誰の目にも明らかです。

     これを見た別のブログ氏はこんなことを書いていました。

     「弁護士の増員が続く中、成仏理論が普及すれば、食べていけるだけの仕事すらなく即心仏になる弁護士も増えそうですね」(「弁護士法人リーガルプラス」)

     弁護士増員の影響の出方は、それこそ地域によっても、業態によっても違い、一つの形にくくることはできません。うちが大丈夫だから、ほかも大丈夫とはいえません。それに合わせて、将来必要となる覚悟、受け止めなければならない現実も、さまざまなことが言われているのが現在です。

     一方で弁護士の全体的なイメージの描き方は大マスコミを含め、まだまだ大衆に比べて儲けていている、甘やかしてはならない仕事です。そんな見方に影響された市民のなかには、どうもそうした弁護士の収入ダウンの方向に、溜飲を下げている風もなきにしもあらずです。あるいはそんな人たちには、覚悟としての成仏論に拍手を送る向きもあるのかもしれません。

     しかし、一方で聖職意識とは程遠い、競争の必要性をいい、生き残りをかけて、より実入りのいい仕事に群がる弁護士を生み出そうとしがら、そうした弁護士たちが目もくれなくなる仕事を、有志の弁護士たちに食うことを度外視して成仏覚悟でやらせるという話を本当に国民は知っているのでしょうか。

     「こんな形を求めた覚えはない」。そんな不満の言葉が、浴びせられる弁護士の未来が、こないとは限りません。
     
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    ありがとうございました

    東京在住の肥後もっこすさん、コメントありがとうございます。

    これに関しては、そういう見方が多いようですね。また、そもそも発言者としての適格性を疑う人からの、弁護士の現状に対する厳しい論調は多いように感じます。自分がこんなことを言ったら、いかにも他人事、ということが分からないのか、当然の反発を想定していないのかを疑問に思うことがたびたびあります。

    今後ともよろしくお願いします。

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    食べてる学者先生が言うとは。法科大学院で著作を売りまくって大儲けしたんですよね。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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