消えゆく「法曹のオーラ」

     既に20年以上前の話になりますが、弁護士会の会長なども歴任した、ある大物ベテラン弁護士が、映画に裁判長役で出演したことがありました。

     その弁護士によれば、法廷シーンで、どうしても本物の法曹を使いたいという監督のこだわりから、出演の話がきたということでした。出演前は少し楽しそうにしていた彼でしたが、試写から帰ってきたとき、会うと自分の映りに少々がっかりしていましたが。

     この監督のこだわりは、面白いと思いました。思いこみのように言う方もいるかもしれませんが、この監督はいわば「法曹のオーラ」の存在を認めているからです。別の言い方をすれば、大衆に伝わる風格のようなものだと思います。

     自分もそのシーンを後日見ましたが、よく知っている方ということもあって、どうしてもいつもの先生がイメージされてしまい、本物の法曹を使った効果のほどは自分には判断しにくいものになってしまいましたが、ご覧になった方は、あるいは数分間の演技に、俳優のそれとは一味違うものを感じとったかもしれません。

     かつて弁護士の風格ということを、いまよりもよく耳にしました。また、昔の法曹界を知っている人と話していると、その人の口から、「昔の弁護士は風格があった」という言葉も、よく聞かれます。かつて存在し、今、それがなくなってきているように語られる風格とは、一体、何なんでしょうか。

     辞書によれば、「風格」とは、「その人の容姿や態度などに現れる品格」とあります。では「品格」とは何かといえば、「人や物に感じられる気高さや上品さ。品位」ということになります。

     弁護士の気高さとは、やはり「独立」というものを抜きには語れないと思います。干渉を受けず、独立して判断する孤高の存在。以前にも書きましたが、そうした特別の存在であるがゆえに、「基本的人権の擁護と社会正義の実現」という使命が、彼らの常に自覚すべきこととして掲げられていることの意味も見えてくるように思います。

     「独立」は自覚と自制に支えられ、その揺るぎなさが、気高さであったかもしれません。虚勢を張ったり、威張ったりする弁護士も、いただろうけれども、そうではない、大衆・市民の信頼につながるような気高さが、弁護士のオーラとして、あるいは弁護士に限らず、前記監督の見方のように法曹のオーラとして存在していた時代が確かにあったようにと思えます。

     それがなくなってきているような話になるのは、自覚と自制に支えられた「独立」という点にあるのかもしれません。

     およそ弁護士が「反権力」的立場で徹底的に大衆の側につくと考える人は、いまやどれくらいいるのでしょう。さらにカネにまつわる弁護士の不祥事、カネに群がる弁護士の姿は、あるいは最も大衆が「独立」を疑いたくなるものかもしれません。

     弁護士が自覚とともに、口にし出している「ビジネス」という言い方に、企業人はともかく、大衆は特別いいイメージを描いているわけではありません。いわれるような、大衆の利になる「健全な競争」を必ずしも頭には浮かべません。より効率に、カネで割りきった法的サービスの提供、あるいはより儲かる事件を選択する姿を、ビジネス化する弁護士の未来と決して切り離してみているわけではなく、むしろ弁護士は、大衆にとってより気を許せない存在となりつつあるようにすら見えます。

     弁護士の懲戒のなかで、弁護士会はその行為について、「弁護士としての品位を失うべき非行」という表現をします。かつての弁護士よりも、行為そのものの品位のレベルが下がったために、弁護士全体に対するイメージが下降している感じはあります。「こんなことをやる弁護士がかつてはいたのか」とか「小粒になったんだ」といった言葉とともに語られます。

     ただ、そうした弁護士としてのスケールの問題もさることながら、もっと深刻なのは、大衆の信頼につながるような揺るぎない気高さを醸し出す「独立」を感じられる弁護士、あるいは法曹のイメージが、この社会に存在しなくなっていることの方かもしれません。やがて「法曹のオーラ」を知る人たちが、この社会からいなくなる――そんな未来も想像してしまいます。

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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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