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    弁護士の経済環境を前提とできない発想

     弁護士会から発せられるメッセージの中には、よく「国民(市民)の期待」という言葉が登場します。もちろん、「それにこたえる」ということをもって、自らの行動や考えを裏打ちし、目的や立場を鮮明にしようとするものですが、問題は、その「期待」とされているものの中身です。いうまでもなく、それが的を射たものでなければ、それは単に自己正当化の飾り言葉にもなるからです。

     弁護士の増員政策をめぐっても、集会などで出会った方を含め、市民の方の声を聞くと、しばしばこの点で立ち止まりたくなる時がありました。それはとりわけ、弁護士の経済的安定に対する目線に関してです。そこには、二つの期待感を読み取ることができます。

     ① 「絶対的に不足している」弁護士の数を増やし、社会に行き渡ることで、そのメリットを社会は享受できる。たとえ、数が多過ぎても(現実はそうなったわけだが)、競争や淘汰が起きて、より良質化・低額化のサービスが期待できるという期待感。
     ② 弁護士や医師など、社会的影響力が大きい専門家にあっては、一定の経済的安定が担保されて、より安心で、良質なサービスを継続的に受けられるはずという期待感(逆に増員で担保されなくなる不安感)。

     いうでもなく、この二つは、切り離されている話ではありません。この「改革」に対して、①に期待する市民がいたとしても、②はどうでもいいということではない。むしろ、当たり前の前提ではないかと思います。そこで問題は、この「改革」の話はどういう形で進み、弁護士の経済的安定が壊れる結果になった今も、どういう形で進んでいるかです。

     改めていうまでもないことですが、「改革」の当初にあって、弁護士会側から発進されたメッセージは、もちろん「大丈夫」というものです。必要だから増やすという描き方にあって、(個々の弁護士には不安感があったとしても)、経済的安定がここまで問題になる未来を描いた人はほとんどいませんでした。

     そもそも社会も、そう思っていなかったというべきです。弁護士は儲けているという決定的なイメージの中で、当然に②の心配をする必要がない①への期待感が高まるのは当然です。弁護士自らの「大丈夫」という太鼓判、「べき論」に支えられたヤル気の表明は、よりその期待感を煽ったといってもいいと思います(「日弁連が『3000人』を受け入れた場面」)。

     ただ、一面現実に即して言えば、前記「儲けている」イメージがあればこそ、②がいえなくなったという面がないわけではありません。以前にも何回か取り上げていますが、弁護士界の中にも「経済的自立論」という言葉が言われてきました。お金にならない人権問題等の活動をするには、弁護士の経済的な基盤が確保されている必要がある、という考え方・主張です(「『経済的自立論』の本当の意味」)。

     「改革」論議の過程で、この考え方を弁護士会側は封印した、という見方があります。①の立場の「改革」を推進するに当たり、前記イメージの中にある弁護士自身からの、この主張は通りが悪い、通用しない、という扱いになったということです。弁護士過多が明らかになった段階でも、界外にある競争・淘汰論に弁護士会が積極的に賛同したわけではありませんが、まだまだ需要が眠っているという潜在需要論や、増言のペースが早過ぎたというペースダウン論を繰り返し、「不足論」を大きく転換したわけでもありません。

     しかし、多くの弁護士も、あるいは社会が感じている結果も、いまやむしろ「経済的自立論」の正しさの方ではなかったのかと思えるのです。増員政策が失敗し、弁護士の経済自立が失われるほど、よりビジネス化と拝金化が進み、これまで以上の、余裕がない弁護士による案件の取捨・切り捨てが行われる。集会であった市民の中には、そこに不安を感じている声が沢山ありました。そして、そもそも弁護士が普通のサービス業と同一であるというならば、そうなるのも当然である、と。

     こういえば、もちろん、拝金的な弁護士など、「改革」前にもごまんといた、という声が直ちに返ってきそうです。それはそうかもしれません。ただ、増員政策の影響によって、そういう弁護士がいなくなったとしても(増員によってもいなくならないということもできますが)、一番打撃を受けているのは、まさに「経済的自立論」の本来的な意味で、社会的に貢献ができてきた有志の弁護士たちです。それも同時に根絶やしにされる。そのデメリットを前提にしても、果たして「改革」の期待感はつなぎとめられているのか、という話です。

     弁護士の側からすると、よく医師に比べて、弁護士は前記②をより主張しにくい(理解が得られにくい)という話を聞くことがあります。そもそもの社会的な役割の違いと、期待のかけられ方の違いがありますが、ここに弁護士と仕事の象徴的な現実があるように思えます(「欠落した業界団体的姿勢という問題」)。

     それをこれまで長く持ちこたえてさせてきたものが何かといえば、「改革」が壊した「自立」を支えてきた経済環境と、弁護士法1条を掲げた犠牲的精神という、まさに前記二つの弁護士層に被る、この職業独特といっていい環境と体質であったように見えます。つまり、我慢して耐え忍ぶ。かつて法テラス以前、当時、法律扶助協会を支えてきた「扶助閥」と言われた弁護士たちの話を聞くと、「国がやるべきことを我々がやっている」という不満とともに、そこに胸を張るような、彼らの善意のプライドを感じることが度々ありました。

     ただ、一方で「改革」に関していえば、弁護士会内には、前記増員によっても、経済的影響を受けない会主導層が、それをもろに受けている会員に向かって、高い会費も含めて、相変わらず犠牲的精神を強いているという構図にとらえている向きもあります。

     コロナ不況対策で法テラスの費用免除拡大に言及した、弁護士ドットコムが1月14日付けで掲載した荒中・日弁連会長のインタビュー記事が話題になっています。

     「もちろん法テラスの報酬基準を引き上げることは重要ですが、法テラスが苦しい状況に置かれた人のための制度である以上、まずは利用者の負担を軽減しなければなりません。利用者の負担を軽減して、法テラスを利用しやすくするとともに、弁護士が適正な報酬を得られるような社会状況を作ることが、会長としての役割だと考えています。適正な報酬基準となるよう引き続き取り組みを行っていきますが、まずは法テラスの基盤整備を進めた上で、支援にかかった費用の償還免除や減免を広げることを優先する必要があると思います」

     弁護士の適正な報酬に言及しながらも、利用者の負担軽減と、報酬適正化への社会状況醸成を優先させた発想に、まさに前記したような「改革」前の経済環境ならば実現できたが、今は会員の負担として持ちこたえ難い現実が見られていない、「忍従」のモデルを見る意見があります(「福岡の家電弁護士のブログ」)

     こういう話になると、弁護士の中には、「時計の針は元には戻せない」という人がいます。「改革」をいくら批判しても、弁護士は以前のような経済環境には戻れないのだから、意味がないというご主張です。しかし、弁護士の経済環境を、まず前提としなければ、結局、本当の国民・市民の期待感にこたえるところにはたどりつけない。むしろ、その期待感から逆算するならば、成り立つ環境を前提的に考えなければならない、ということがはっきりしたのではないでしょうか。「時計の針」が止まっているのは、一体誰なのか、ということも考えるべきです。


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    次の記事では巷で話題のこの件を取り上げていただければ
    https://twitter.com/obpmb3fN93mQI9i/status/1367734765726494721
    理不尽な「品位」の懲戒への一石にならんか

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    https://www.asahi.com/articles/DA3S14770999.html
    司法試験の「抜け道」鮮明に 「予備試験」通過者の合格率89%

    No title

    どうせなら合格発表とあわせてこれからの新法曹への展望の記事にしたほうがよかったのに
    「2020年の司法試験 1450人が合格 合格率4割に近づく」
    https://www.bengo4.com/c_18/guides/1875/
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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