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    「塊」としての日弁連・弁護士会という発想の限界

     弁護士界には、日弁連・弁護士会としての意見公表や行動の、絶対的な「価値」を強調する見方がずっと存在します。そして、それは司法改革への賛否、執行部・反執行部といったスタンスを超えて存在してきた現実もあります。有り体にいえば、進むも、それを阻止するのも、軌道修正するのも、組織の「一致団結」という形を求め、どこまでもそれに期待する立場の人かいる、ということです。

     その「価値」は、しばしば「運動論」、政治的な意味としても言われます。国会へのロビー活動では、まず日弁連という組織の意思決定の有無が問われ、それが運動に決定的な影響を与えるのだ、と。強制加入団体における会員の思想・信条との関係で、その「一致団結」の形が作られる意思決定のあり方を問題視する会員の声に対しても、その「価値」は正面からぶつけられてきた、といえます。

     しかも、それは既にかつて司法判断で示されているように、弁護士法1条の目的実現の範囲において、会の意思表明は個々の会員弁護士の活動の限界を克服するためのものであり、会員の思想・良心の自由の問題を完全に切り離して、会の行為の正当性が認められる。要は、会は縛らず、会員は縛られない「一致団結」として、優越的な「価値」が掲げられてきたのです(「弁護士会意思表明がはらむ『危機』」)

     この日弁連・弁護士会の現実について、これまでもいろいろな人の声を聞いてきました。ある反執行部派のベテラン弁護士は、この「価値」について「塊」という表現をしました。「弁護士はあくまで日弁連・弁護士会という塊を目指すべきなのだ」と。

     組織である以上、こういう見方になるのは当然ということもできるかもしれません。しかし、実際の弁護士会の状況でいえば、この「価値」はかつてから個々の会員間で相当の温度差があったのも事実です。会活動への無関心層はもちろん、いわば、組織としての「塊」を目指さない少数派=日弁連・弁護士会に失望し、早々に距離を置くことを選択した会員たちがいました。

     そして、こうした状況があっても、この組織の「一致団結」が、それほど大きな問題として表面化せずやってこられた最大の理由を、間違いを恐れず一つ挙げるとすれば、おそらくそれは前記「価値」をどこまで認めていたか疑わしい、厚い無関心層が、そのことを問題視しなかった、目くじらを立てなかったことではないか、と思えるのです。

     9月24日に東京弁護士会が、賛否対立の議論の末、賛成多数で可決した死刑執行停止を求める決議が会員間で話題となりました。採決の結果は、賛成1199票、反対が781票、棄権177票。この事実をネットニュースが伝えている現実は、賛成・反対両派にとって、ある意味、皮肉な効果を生んでいるようにもみえます(弁護士ドットコムタイムズ)。

     つまり、賛成派にとっては、これはもはや「塊」とはいえない、形だけの「一致団結」であることを、票数上もはっきりさせている。しかも、方針が決定したところで、反対会員が拘束されないということは認めている。逆に、反対派からすれば、こうして弁護士会の意思決定が、事実上、弁護士集団の一枚岩を何も裏付けないことが社会にはっきり示され、周知されるほどに、これに目くじらを立てる「価値」もなくなってくる。少なくとも、強制加入と会員の思想・信条で問題視する会員から、しばしば言われてきた、依頼者市民から「先生もですか」と勘違いされる実害は軽減される――。

     要するに、これが社会に周知されれば推進派にとっては、「塊」を求めることそのものが無意味化しかねない。一方で、このスタイルを押し通すのであれば、もはや現実の票数の公表と、それに縛られない弁護士会の「一致団結」の現実を周知徹底するくらいしか、反対派を納得させる手段がない、ということもはっきりしている、ということなのです。

     そして、なぜ、死刑といったテーマで、弁護士会が今、こうした状況に追い込まれているかといえば、前記かつてだったら無関心でいられた層の目線が、この「改革」によって変わったから、ということが推察されるのです。経済的に余裕があった時代に無関心でいられた会のスタンスに対し、高い会費徴収の負担や、それが会員の個々の生存に繋がる形で還元されているのかといったことへの問題意識を持った目線を向け始めた――。

     今回の東弁決議をめぐっても、死刑そのものへの賛否の変化というよりも、会内から聞こえてくるのは、あくまで「塊」を求める弁護士会内の旧来からのスタンスに対する、目線変化に基づく批判といえるものです。犯罪被害者に寄り添っている弁護士の立場もさることながら、この票差が示しているように、議論が熟していないまま、決議可決という形を作ろうとする(この反対票の多さを考慮しようとしない)、弁護士会側の姿勢を問題視する声です。「これでは安倍政権の強行採決を批判できない」という皮肉までネット上にはみられました。

     前記「価値」の本来的な意義に立ち返れば、国民の大多数が死刑に賛成している、といったことは別問題であり、むしろそういう状況で、弁護士会が廃止や執行停止の方向を社会に投げかける意味は大きく、そこに存在価値につながるものもあるといえます。

     会の意思表明に対しては、反対論の中には、「有志で」とか「委員会レベルで」やればよし、という意見がこれまでも混じってきましたが、前記した会決定と個人の思想・信条の切り離し論で、反対派会員がより納得し難くなっている要因には、やはり「改革」がもたらしている会員の状況があるようにみえるのです。

     今回の東弁決議における会員の票差にみる、分裂的状況は、もちろん可決によって解消するわけではありません。このまま、これまでのように通用するものとして、弁護士会主導層が「塊」という形だけを求めるとすれば、よりこの分裂の溝は深まり、同時に、弁護士の存在価値につながる前記意思表明も、根本的に無意味化、無機能化する危険があるといわざるを得えません。会員の置かれている状況と、会員の意識変化に対する、正確な認識と、感性が求められているように思えてなりません。


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    テーマ : 弁護士の仕事
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    No title

    No title

    弁護士会の死刑廃止運動に反対する人は、具体的な使途を調査して批判するのがいいと思いますよ。観念論では空中戦なので。
    うちわやポスターなどの宣伝広告費用、会場費、会議費(飲食代)、交通費。
    誰(弁護士、業者など)に何の名目でいくら払いどのような効果があったのか、その調査と公開がよろしいのでは。

    No title

    イケメンと女性の懲戒処分の重さは異常。そうでない人が派閥で熱心に雑巾がけして爺さんたちに気に入られれば、懲戒処分されないか軽い。

    ある(元)弁護士の事案では、不祥事のデパート状態で、弁護団を組んで懲戒請求をし、日弁連は苦情受付フリーダイヤルを設けたほどでした。
    が、懲戒処分された事案はごく軽微なもの1点のみで、業務停止1か月、そして請求退会で幕引きでした。

    NY州では州最高裁が多少噛んだうえで弁護士を含めた特別委員会的な懲戒処分の団体があり、もちろん弁護士倫理は各州の法曹3者が作る(ベースはABAが作ったMPR)という方法です。

    今時、先進国で弁護士倫理が法テラス・法務省に支配されてるなんて日本くらいなもので、それが個人として全国区で強制加入という異常なシステムの中で強化され、さらに人治がゆがませるのだから、崩壊の一途をたどるのは当たり前です。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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