「給費制」存廃の向こう

     弁護士界の抵抗で、今年10月末まで延長された、司法修習生に国費で給与を支給する「給費制」(「司法修習生『給費制』への思惑」)ですが、依然、世論の受け止め方はさまざまなようです。

     「おカネ持ちしかなれない」という弁護士界側の切り口は、ある意味、今回の貸与制移行ストップに、それなりの説得力を持ったようにはみえます。しかし、この言い方の伝わり方もさまざまで、「弁護士お得意の詭弁」のようにいう見方もあり、給費制維持の根拠としては、むしろ修習専念義務や研修医に給与を支給していることとの対比の方を強調した方がいのではないか、との見方もあります(「ビキナーズ・ネット掲示板」)。

     「おカネ持ちしか」論には、志望者の機会保障の問題だけでなく、この国の法曹の多様性の問題にはつながると思いますが(「おカネ持ちしか」論と「多様な人材確保」)、現実的には、この切り口で、どこまで制度維持を持ちこたえられるのかは厳しい情勢です。

     ところで、弁護士側が求めている、この「給費制」の維持は、もう一つ別の側面を持っています。それは、国費で養成されることの意味の方です。

     実は、「給費制」問題がマスコミに取り上げられ、はじめて司法修習生に給与が支給されてきたことを知った市民は沢山います。まだ、いまだよく知らない人だっているでしょう。知った人は、一様に驚きます。それは、なぜかといえば、弁護士が事業者であること、もっといえば、そうした他の事業者と同じ立場でしっかり儲けているというイメージがあるからです。

     私人として儲けている、儲けることになる弁護士という仕事が、われわれの税金で養成されているということです。「給費制」自体への大衆のなかにある最大の疑問、反発はここにあるわけですが、逆にいえば、本来的に公的な領域を担い、人権の擁護のために活動する、あるいは活動しているはずの弁護士のイメージが、現実的には国費支出了解を得られるものではないことを意味します。

     こここそ、本当は弁護士が一番悲しむべきところかもしれません。大衆の弁護士イメージは、人権を擁護し、社会正義を実現する国費支出にふさわしい存在ではなく、他の事業と同じくビジネスとして金儲けをしている存在であり、その不公平の方がむしろひっかかる存在に見られているということです。

     さらに、このことにも、逆の見方をすることもできます。つまり、弁護士界側の希望通り、「給費制」を維持するのであれば、それ相当の公的な存在として社会が要求するということです。少なくとも、現状のイメージからすれば、この制度が認知されたことで、これまで以上にそうした要求・論調が強まっても当然ですし、一方で、儲け主義、もしくは仮に誤解であっても現状儲けているということについて、社会の厳しい目線が強まってもおかしくありません。

     以前にも書きましたが、かつて弁護士・弁護士会の「反権力的」なスタンスに対し、官側から「国費をもらって養成されながら何事か」といった、「給費制」を逆手にとったような批判があり、一部弁護士から「ならば返上も」といった言が聞かれた時代もありました。

     しかし、「反権力的」色彩がかつてより減退したとみられている弁護士・弁護士会に、もはや官側が前記論調を掲げることはなくても、今度は、マスコミを含め社会が「儲けていながら何事か」といわんばかりの、批判的な見方を強めてきていると見ることもできます。

     そもそも「給費制」に目くじらをたてながら、おカネがかかる法科大学院の中心主義を掲げ続ける弁護士会のスタンスは説得力がなく、また誤解を生んでいるようです。法科大学院に入っている人達たちが、みな借金漬けのようには見ず、ほとんどはそれなりに経済的に恵まれた人間が入れているという見方があり、そのうえに立てば、もちろん「給費制」でいわれる「おカネ持ちしか」論は欺瞞的に映ってしまう可能性があります。

     つまり、弁護士・会の、「おカネ持ちしか」論をどこまで本気で言っているのか、その本心を疑われるということです。

     これからはビジネスと割り切り、他の事業者と同じ、一サービス業に徹することを決意した弁護士が、前記社会の批判的な目線にこたえて、「ならば返上も」と開き直るかどうかは別としても、国費負担がなくなればなくなったで、資力のない大衆にとって必要な弁護士の意識もまた消えていくようにもみえる、ねじれた感じがあります。

    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。
    http://www.shihouwatch.com/

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    ありがとうございました

    匿名希望さん、コメントありがとうございます。

    議員立法が出されたから云々は、さすがに頂けないですね。問題法案の場合には、国会で多数であろうとも、問題は問題という主張をしてきたはずですから、都合いい解釈とされて当然です。それだけに、こうした苦しい主張を聞いてしまうと、それだけ維持側に情勢が厳しいという感じがしてしまいます。

    「お金持しか」論は実は市民に伝わりやすい形に深化できるような余地がまだあるようにも思えます。しかし、これが欺瞞的にみえてしまうのは、皮肉にも現在の大衆の中にある弁護士イメージ、もうひとつは「法科大学院」の存在だと思います。

    投稿サイト「司法ウオッチ」の方にも、是非ご意見を賜われればと思います。
    今後ともよろしくお願いします。

    世論の理解をえようとしているのかどうか

    ビギナーズネットのブログでも渡部代表自ら「世界的にも珍しいこの制度」と書かれているとおり、日本の給費制は極めて異例なものですので、運動すればするほど国民の目は厳しいものになりかねないリスクがあります。しかしそんなことを現執行部は気にしているのかどうか・・・

    昨秋の第18回司法修習委員会で皆からの批判に晒されていらだち「議員立法として,貸与制はやめて給費制にした方がいいという法案が提出されるということは,ある意味において国民の理解が得られたということになるのではないか。」と開き直った日弁連代表の発言は、国民世論の支持なく弁護士議員を動かすという傲慢さを公にした瞬間であり、その場の皆があきれはてたと言います。

    数少ない給費制のお仲間ドイツでは、医者も弁護士も国家管理の度合いからして公的色彩が強い点が日本と異なる点をさておいても、給費は10万円程度で修習専念義務はなく皆アルバイトをしながら修習をしています。

    研修医は既に医者ですが修習生はまだ法曹ではありませんし、研修医は国から直接給与をもらっていません。比べるなら、年十数人規模でやっている法務省の矯正医官の修学資金貸与制度や防衛省による貸費学生制度でしょう。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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