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    弁護士会意見表明への内部批判がはらむもの

     大阪弁護士会が12月9日に開いた臨時総会で、死刑制度廃止を政府や国会に求める決議を採択したことに対する異論が、弁護士会内から聞かれます。死刑制度廃止の是非のような、弁護士間でも意見の分かれる案件について、強制加入団体である弁護士会が、多数決に基づいて対外的に意見表明することを問題視する、これまでも聞かれてきた批判的論調です。

     しかも、今回の決議については、弁護士会の民主的な決定プロセスそのものを疑問視する見方も張り付いています。報道にもある通り、会員4624人のうち、出席者は約200人。委任状での採決参加を含め賛成1137票、反対122票、保留・棄権30票で、要するに、問題視する側からすれば、会員間で意見が分かれる案件について、約7割の意思表明がないまま、決せられたことの是非ということになります。

     日弁連・弁護士会の対外的な意思表明をめぐり、これまでも会員から出される、ある意味、おなじみのこうした論調が、何を言いたいのかはもちろん分かります。しかし、一方でこの論調が出される状況にも、正直、違和感を覚えるところがあります。「強制加入団体であるから」、控えるべき、あるまじき、という切り口です。

     何度かここでも取り上げていますが、基本的には司法判断でもあるように、弁護士会の意思表明と個人の思想・信条は、完全に切り離されている、という捉え方ができるからです。逆に言えば、「強制加入団体であるから」、会決定の意思が、会員個人と異なっても仕方がない状況にある、という主張もできるはずなのです。有り体にいえば、弁護士を続けようと思えば、抜けたくても抜けられない団体にいるのだ、という現実をかざすことができるし、そもそも決議主体もそれを前提にしているということも明らかにできるということです(「弁護士会意思表明がはらむ『危機』」 「弁護士会が『政治的』であるということ」)。

     必ずこの論調には、個々の弁護士が顧問先から、「先生も死刑廃止論者ですか」と言われたとか、疑われるといったエピソードが、会員の「実害」としてくっついてきます。確かにそういうこともあるかもしれません。つまり、弁護士会の決定に、一会員の考えが意に反して、同一化、同一視される不利益の主張ということになります。しかし、それは、前記主張によって、あるいはその周知によって解くべき「誤解」ではないでしょうか。 

     弁護士会の決議や執行案件が、会員個人の異論の存在や、意思統一ができないことをもって、意思表明の手続きに乗ってきた多数意見(反対意見が行使されていないという事実もある)をもってしても決せられないということになった場合、死刑問題に限らず弁護士会の弁護士法1条の使命を果たす活動は大きく制約される可能性があります。司法判断にもみられるように、そもそも弁護士個人で達成できない同使命を達成することを弁護士会が背負えばこそ、前記会と一部会員の異論を切り離し、推進できる形を作っているようにもとれます。

     この問題では「政治的」ということが、取り沙汰されます。「政治的」ととれる案件は、それこそ弁護士有志でやればよく、弁護士会の活動にはふさわしくない、という見方が、強制加入団体の「あるまじき」論に被せられます。しかし、「政治的」なことが目的でなくても、「政治的」とされる「人権」にかかわるテーマはあります。「人権」にかかわる問題である時に、それに取り組もうとする弁護士会が「政治的」という批判を浴びる度に、あるいはそれが政治的な団体の主張と方向が同じとされる度に、その都度沈黙する団体で、前記弁護士会の目的は達せられるでしょうか(「金沢弁護士会、特定秘密法反対活動『自粛』という前例」)。

     そう考えると、個人の思想信条と強制加入団体の妥当性に関わる問題といっても、少なくとも解消可能な「誤解」の問題が、こうした弁護士会の存在意義と対等に、「あるまじき」論に被せられること自体が奇妙に思えるのです。

     ただ、それでも弁護士会として配意すべき課題はあると思います。一つは、弁護士会自身による「誤解」解消への努力です。つまり、前記会員の不利益も踏まえ、会員を思想信条的に拘束せず、かつ、全体を必ずしも反映していないという性格を明らかにし、周知することです。一つ一つの執行案件や決議のなかで、表現として残す方法や、決議には文中に賛否の票数を明記する方法も考えられます。要は、一部採決参加会員の賛成多数に基づくこと、違うに考えの会員も存在することが前提であることを確認し、社会に表明することになります。

     もし、それが執行案件の政治的な威力を減退させる、とか、そのために望ましくない、という意見があるとすれば、それは話が別です。それでは、事実をかさ増しして影響力を誇示しているのと同じですし、仮にこのことを明らかにしても、日弁連・弁護士会が意見表明する意味はあるはずです。もちろん、会の執行でも、案件によっては、意思統一が確実に図れる委員会やプロジェクトチーム名義での執行とする、といった方法を、もっと選択肢として検討に加えるという方法もあります。

     そして、もう一つは、いま、なぜ、このことが以前よりも会員間で異論として持ち上がるのか、その背景について、弁護士会主導層が目を向けることです。会も積極的に旗を降った「改革」によって、弁護士の経済環境は激変し、会員弁護士にはかつてのような余裕がない。強制加入団体であればこそ、個々の会員の業務をバックアップする活動への期待はかつてよりも高まっているといえます。帰属意識を支える基盤、その性格がもはやかつてとは違うということです(「『新弁護士会設立構想』ツイッターが意味するもの」)。

     そのことを、弁護士会主導層が自覚することなく、これまで通用したやり方を当たり前のように繰り出すのでは、会員コンセンサスにはたどりつけない。そして、そのことが今、弁護士自治をもっとも脅かすものになることを、彼らは踏まえるべきなのです。


    弁護士自治と弁護士会の強制加入制度の必要性についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4794

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    No title

    弁護士会の決議に、もともと政治的威力なんか無いよ。
    弁護士ドットコムの調査では、死刑制度に賛成という弁護士の方が多かった上に、昔と異なり被告人に厳罰を求める遺族側の代理人を務める弁護士も出てきている中、弁護士会名義で死刑廃止を求めることが、「社会的正義」の名のもとで無条件に正当化できるという考え方自体が誤っている。
    多数決原理についても、近年における大規模会の総会は、各派閥に動員をかけて出席者や委任状を集め、何とか決議に必要な出席者数や賛成者数を集めているというのが大体の実情。執行部のやり方に反対する側は、委任状集めで圧倒的に不利なので、出席者が約200人で、反対票が122票であれば、臨時総会の議場ではむしろ反対意見の方が多かった可能性もあり、そうであればどこかの株主総会のごとく、委任状の数で強引に決議成立へ持って行ったことになる。
    そこまでして総会決議を行った結果、大阪弁護士会が得たものは、弁護士会っておかしな団体だという評判のみ。社会に対する影響力は、大阪弁護士会より、無期懲役判決を受けて万歳三唱した某被告人の方がよっぽど強いと思う。

    No title

    かえよう会内部でこの点の激論でもあったんですかね?
    どのみち弁護士会からは退会者が続出して組織維持ができなくなります。
    そのため、この論点自体存在し得なくなりますから、ご心配には及びません。

    No title

    >今回の決議については、弁護士会の民主的な決定プロセスそのものを疑問視する見方も張り付いています。

    今回の記事についてはそもそも↑の
    >会員4624人のうち、出席者は約200人。委任状での採決参加
    に全てが現れているような気がするが。
    今更
    >一つ一つの執行案件や決議のなかで、表現として残す方法や、決議には文中に賛否の票数を明記する方法も考えられます。要は、一部採決参加会員の賛成多数に基づくこと、違うに考えの会員も存在することが前提であることを確認し、社会に表明する

    をしたところで、今度は意見そのものが希薄になって
    「で、この団体って何それおいしいの?」「票にまとまりもないのに集計したところで意味ないよね。」「複雑にするとめんどうくさいだけだよね。適当に書いちゃえ」「新弁護士会設立構想のツイッターも、もう活動してないよね」
    ってマックで女子高生が言ってたよ。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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