FC2ブログ

    法科大学院「改革」批判論調の失われた視点

     朝日新聞が10月21日付け朝刊教育面で、早稲田大学法科大学院の学生たちが、原発被災地である福島県浪江町で行っている、町民への聞き取り調査にスポットを当てています(朝日デジタル)。将来の法律家に、現場の声を聞いて何ができるのかを考えてもらおうという、有志教員が3年前に始めた試みだそうです。

     記事では、東電とのかかわりがあった被災住民の、賠償請求をめぐる複雑な感情に触れた学生の声をはじめ、彼らの問題意識や、この活動に好意的な地元の声が紹介されています。ただ、一読して分かるのは、この記事が、法科大学院という教育機関が行う、こうした活動の意義をただ読者に伝えるだけのものではないことです。

     「法学部と法科大学院を経て法曹資格を得る期間が来春から短縮されるため、こうした教育に時間がかけられなくなるのではないか、と懸念する声もあがる」

     記事のリードの末尾は、こうした一文で括られています。記事全体の印象からすれば、意図的にやや強引に、このテーマに持っているようにとれます。全体の4分の3以上のスペースは、前記調査に関するものですが、一転、「法曹コース」新設による資格取得時短化への懸念につなげ、ご丁寧に「法科大学院改革」という用語説明の別記事を挟みこんでいます。

     当の学生たちは、自分たちの活動を紹介する記事の結論が、こういうところにつなげられることを知っていたのだろうか、とさえ、疑ってみたくなります。このことに関する彼らの声は一切なく、代わりに指導教授がこんな言葉で記事を締め括っています。

     「来春からの改革で、最小限の勉強で司法試験合格だけをめざす法科大学院が増える恐れがある。こんな状況だからこそ活動を続けたい」

     「司法試験合格だけをめざす」「こんな状況」という言葉に、批判的な響きがとれます。「法曹コース」「大学院在学中の司法試験受験容認」といった、資格取得への時短化による法科大学院志願者減対策に期待する側と、これによる教育理念の崩壊を懸念する側に、法科大学院制度擁護派を分裂させることになった今回の「改革」(「法科大学院制度擁護派の分裂と旧試『欠陥論』」 「法科大学院在学中受験『容認』という末期症状」 「法曹養成見直しにみる『無自覚』と司法試験への共通認識」)。朝日は、後者の立場の懸念に、あるいは指導教授のスタンスもあってか、この学生の活動を、なんとかつなげようとしたととれます。今回の「改革」は、こんな有意義な活動を奪いかねないのだ、と。

     しかし、あえて前者の立場から反論をすれば、では、志願者減はどうするのだ、ということになるのでしょう。今回の時短化政策が本質的な志願者の回復につながるのかには疑問があります。しかし、では後者の理念派から、志願者回復に有効な対策が提示されているわけではありません。「理念が滅ぶ」「理念は正しい」「こんな活動だって意義がある」と連呼して、志願者は戻って来るのでしょうか。

     強いて言うならば、司法試験合格率をなんとかしろ、という話かもしれませんが、それでは、やはり手段はともあれ「合格」の魅力頼みということになります。「法曹コース」の成果に期待する側の関係者からすれば、予備校扱いするような、「合格だけをめざす」などという言い方には当然反発するでしょう。逆に、法科大学院が、法曹の卵として、旧試体制にはない、こうした幅広く考える機会が得られる教育が施されるプロセスだとしても、その評価だけで志望者が回復する状況にはないというべきです。

     そして、もう一つ、付け加えるならば、時短化に期待する「改革」への批判が、これまで制度が掲げてきた理念への矛盾として、一理あるとしても、では彼らと今回の活動からそれを取り上げる朝日は、本当に学生の立場を考えている、といえるのでしょうか。

     朝日の読者は、この記事を読んで、あるいはこうした法曹の卵として有意義な活動の機会を奪う「改革」は本末転倒であるとストレートに理解し、この「改革」の方向に疑問を抱くかもしれませんし、それが朝日の狙いかもしれません。しかし、そもそもこの「改革」は、こうした学生の問題意識を育み、現実的にそれを活かしたり、役立てる環境を未来に描けるものにしているでしょうか。増員政策によって打撃を受けた弁護士の経済環境は、いまやそうした純粋に社会に役立つための志望者の志よりも、現実的には、まず、生存のための、ビジネス感覚と覚悟を彼らに求めるものになっています。それがなければ生きられない世界であり、そのことをむしろ業界からもっと彼らのために発信せよ、という声すらあるのが現実です。

     志望者減の根本原因が、弁護士の経済的価値の下落にあるとすれば、それに目を背ける前記法科大学院擁護派のどちらの立場にせよ、志望者が安心して、そして志を歪めないものとして、目指せる世界を考えているとはいえないはずです。「法科大学院がこういう活動をしているのは素晴らしいかもしれないが、卒業後の世界がこれでは・・・」という志望者は、彼らや朝日が回復を期待する人材として除外しているということでしょうか。

     記事に登場する指導教授は、コメントの中で、この経験が「法科大学院が本来めざすべき『十分な教養や体験を経た法律家』の養成に役立つはず」と語っています。しかし、学生の立場を考えれば、そうした教育は司法試験合格後の方がより身が入り、そしてそもそもその先に、この教育にかかったコストを回収できるだけの見通しが立つ、経済的に安定した未来が見通せる、少なくともそれが期待できるかどうか、という視点があっていいはずです。

     「法科大学院の」本来の教育に叶っているかどうか、という視点は伝わっても、その枠組みを生んだ「改革」が、本当に法曹養成と法曹志望者にとって、よりよい形になっているのか、あるいはそこから逆算された今なのかが、伝わってきません。


    今、必要とされる弁護士についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4806

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信中!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト



    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事

       スポンサーリンク



    コメントの投稿

    非公開コメント

    No title

     法科大学院の理念なんて,はじめから具体性が無く,実現は不可能だった。
     来春からの改革で,法科大学院関係者もその現実を正面から受け止めざるを得なくなり,負け惜しみを言っているに過ぎない。
     早稲田ロー出身者の司法試験合格率(今年は約42%)から考えて,本来なら被災地訪問なんか行っている余裕はないはず。それも,ただ合格圏内に入っていればよいというわけではなく,上位合格でなければ就職への道は開けない。
     取り上げられている被災地訪問も含め,法科大学院のカリキュラムを真面目に受けている人は司法試験でつまずき,法科大学院の授業は適当にさぼって,司法試験や予備試験の勉強に専念している人の方が,早く司法試験に合格し,実務界でも高く評価される。創設された当初から,法科大学院はそのような馬鹿げた存在に過ぎなかった。
     創立から10年以上が経過し,いい加減法科大学院関係者も,そうした現実くらいは分かっているだろうと思っていたが,未だに反省していない教員がいることには驚くばかりである。

    No title

    法科大学院に限った話ではなく、日本全体の景気が悪くなっているのだから、何も弁護士や法学部に限って経済的価値が下落したわけではない。
    大学進学全体について、今後は志望者はより若い時期から己の進路を決めていかなければならないということ。

    昔は法学部は潰しがきく学部という位置づけであったのが、なぜか法曹が目指す学部となったがゆえにこの惨状になったのだから、逆に法学部全体からビジネス感覚と覚悟が学べるようにすればいいのだ。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR