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    法科大学院制度の「勝利条件」

     「法曹コース」新設と法科大学院在学中受験容認という、時間的負担経験策で志望者の回復を狙った、6月19日成立の改正法(「法曹資格取得『時短化』法成立が意味するもの」)について報じた、同月20日付け日本経済新聞朝刊の記事には、次のような文面が登場します。

     「法科大学院を経ずに司法試験の受験資格を得られる予備試験が法曹への最短コースととらえられ、出願者が年々増えてきた」
     「法曹コースを順調に進めば、法曹資格を得るまでの期間は大学4年で予備試験に合格した場合と同じ。一橋大法科大学院の山本和彦教授は『学生の経済的負担が減ることで、法曹への道を勧めやすくなる』と評価する」
     「『多くの学生は予備試験と法科大学院の両にらみで勉強を進める。どちらを選ぶかは読みづらい』(司法試験予備校)と慎重な見方もある。弁護士志望の東大1年の男子学生(20)は『早く社会に出たいので6年でも長い』と予備試験合格を目指す考えだ」

     ここで記事が伝えようとしていることも、その切り口も、もはや目新しいものは何もない、と感じる方も少なくないと思います。「法曹への最短コース」ととらえられた予備試験に学生が流れ、それが志望者減の主因であると(本心からそう認識しているのかはともかく)位置付けた、法科大学院制度擁護派によって、まさに早期資格取得という、いわば敵対相手の土俵で勝負する改正法が登場し、目下、それがもたらす限定的な時間的経済的負担軽減の効果が、関係者の関心事となっている――。

     大学入学から法曹資格を得るまでの最短期間を現行の8年弱から6年に縮める、ということを、改正法のメリットとして、新聞各紙はこぞって伝えています。しかし、いうまでもなく、これを予備試験と法科大学院の競争条件としてみれば、志望者にとっての、要はそれだけの違いがもたらす経済的時間的負担軽減と、現行法科大学院教育の「価値」が、どう志望者予備軍たちに見積もられるかが、競争の結果を決めることになります。

     そう考えれば、記事の「6年でも長い」という東大生のコメントには、「背理」とまでいわれた、身内の制度擁護派の反対を振り切って、「時短化」で勝負に出た改正法の、いわば勝負どころの選択ミスの可能性を匂わす効果があるようにも見えてきます。

     この改正法の真の狙いは、法科大学院の対「予備試験」での競争条件の改善である、という見方がある(「法曹養成見直し2法案審議が映し出したもの」)ことにひっかけて、あえて言うのであれば、今、本当に問われるべきなのは、むしろ真の「勝利条件」の方ではないでしょうか。別の言い方をすれば、「改革」によって創られた、この制度は、一体、何を背負ったはずだったのか、ということについてです。

     法科大学院制度が示さなければならないのは、あくまで法曹養成における新プロセスの「価値」のはずです。志望者が資格取得への最短コースにひかれ、予備試験に流れた、というのは、現象としては正しく伝えている表現かもしれませんが、同時にこれは、「時短」に代わる「価値」を新プロセスが示せなかった、示せていないことを意味します。

     もともと誰が見ても、旧試体制に比べて、新制度は時間的経済的負担を課す制度であることは明らかでした。つまり、そもそもの新制度側の「勝利条件」でいえば、志望者がそれでも経由すべき、法曹として明らかに違いが出る知識・技能や、司法試験の選抜を通過するレベルの能力の取得、そして旧試体制を上回る、修了者の法曹としての、社会的評価を獲得しなければならない。有り体にいえば、ただ早く資格取得に辿りつけるというところが勝負どころではなく、それでも新プロセスを通過することが確かに妥当である、という明らかな違いが示せなければ、この勝負には勝利できないのではないか、ということです。

     それは対予備試験以前に、対旧試体制に代わるものとして、法科大学院中核論が背負ったもののはずでした。つまり、司法試験の厳しい選抜機能によって、厳格に選抜された人材に、実務家が司法修習によって鍛えてきた旧制度よりも、新プロセスは、法曹養成にとって優れた効果を生む、ということでなければならない。
     
     こういう話になると、これまで法科大学院関係者を含めた制度擁護派からは、優れた人材も輩出されているとか、修了者が社会にもっと輩出され、行き渡ることが必要(そうなれば、必ずや社会も旧試体制よりも高い評価をするはず)といった、弁明を耳にすることがありました。

     しかし、こうした勝負未決着論といえる、論調は、いつまで繰り出され、いつまでそれに付き合わなければならないのでしょうか。そもそも修了の司法試験受験要件化への執着や予備試験への制限欲求を含め、強制化のシステムに依存しなくても、提供する「価値」によって制度が評価されたり、選択されると道を目指すことへの自信や自覚を疑いたくなる面は、この制度にはずっとつきまとってきました(「法科大学院『本道』をめぐる現状認識と自覚の問題」 「受験資格化を必要とする理由」  「法曹志望者回復をめぐる発想と誤解」)。

     今回、改正法がある意味、正面から、「時短化」で、なんとか競争を有利に展開しようと、「予備試験」ルートとの勝負に打って出たことは、むしろその制度的体質から生み出されているようにみえます。志望者減が法曹界にとって深刻であり、喫緊の課題である、ということもしきりと言われていますが、それが身内の制度擁護派の中からも制度の「終わりまの始まり」と警告された手段に打って出た、口実になっている面は否定できません。有り体にいえば、制度擁護派は、この改正法案をめぐり、あくまで勝負未決着を掲げ、さらなる制度優遇策での局面打開に期待する側と、予備試験と同一の土俵にのっても「時短化」で手っ取り早く志望者を奪還することの方を期待する側に割れた、ようにもとれるのです。

     前記日経の記事に登場する関係者の言葉には、もはや時間的経済的負担を軽減しなければ、法科大学院を経た法曹への道を勧めにくい、ということを法科大学院関係者が本音では認め、さらにはこの「時短化」政策によっても、学生が法科大学院を選択するかどうか未知数であることを、予備校関係者が認識している現実が映し出されています。

     しかし、この「時短化」による新たに「競争条件」の効果に関心が集まる中で、本当はその成り行きよりも、一時的な志望者回復効果で満たさないはずの、法曹養成と法曹界の未来がかかった、「勝利条件」が問われない制度のなりゆきをもっと気にしなければならないはずです。


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    https://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2019_07/p20-23.pdf
    >法曹志望者が激減しており,直さなければいけないところもあると思います。常にチェックしながらより良い制度にしていく必要があると思います。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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