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    司法試験合格者「自然減」と業界の末期度

     弁護士会内から司法試験合格者数の更なる減員を求める声が出る(「『改革』が見通せていない弁護士の経済的魅力回復」)一方で、もはやこのテーマでの議論は不要とするような意見が、実は会内の「改革」主導層の中だけではなく、それ以外の会員の中から「現実論」のように言われます。その基本的な背景にあるのは、いうまでもなく合格者数の減員が着実に現実化していることです。

     日弁連は2016年3月の臨時総会で、司法試験合格者数をまず早期に年間1500人までに減員することを緊急課題として、その実現に「全国の会員・弁護士会と力を合わせて取り組む」ことを盛り込んだ決議を可決しました。この決議は2015年の合格者1850人という実績の中で可決されたものですが、合格者数は2016年に早くも1583人と1500人台となり、2017年1543人、2018年1525人と下降しています。

     決議にあるように弁護士会が「力を合わせて取り組む」までもなく、合格者は目標の1500人を達成しようとしている。もちろん、会員間には、ここまではあくまで当初目標のはずで、この時点で「更なる減員」の検討は織り込み済みという見方もありますし、主導層もそれを積極的に否定するわけではありません。ただ、特段何をしなくても、「着実に」減員という結果が出ている事実が、この問題への関心という意味で、会内世論のムードを変えてきました。

     しかし、問題は弁護士会が「特段何もしなくても」というところにあります。当ブログのコメント欄にもありましたが、これを「自然減」と表現する人が会内にいます。しかし、こだわるべきは、その原因そのものにあります。この減員は、いうまでもなく、受験者減によって実現しているからです。前記決議時点で踏まえた2015年実績で、8016人いた司法試験受験者は、2018年には約2800人減の5238人になっています。

     この状況に対して、「改革」推進論から遠い人から聞かれる、前記議論不要論とは、要は結果として志望者減という現象が、既に経済的に飽和状態にある弁護士人口の適正人数を、いわば否応なくあぶり出す、という考えた基づくものです。この考え方に立てば、前記会内から出ているような、「更なる減員」方向を打ち出せば、それが業界のマイナスイメージとして伝わり、志望者減を加速化させるだけということになります。さらには、これも当ブログのコメント欄にもありましたが、減員によって飽和解消を模索するより、むしろ業界離脱(リタイヤ、廃業)が模索される方がより現実的という話もあります。

     何を言いたいのかは理解できますし、現職の弁護士という立ち位置からみると、「現実的」ということになるのかもしれません。しかし、目を離してみれば、これは恐ろしく不健全な状況を前提にするものといわなければなりません。この状況にも、「淘汰」という言葉を当てはめる人がいるかもしれませんが、これはおよそ「改革」推進論者が想定してきた淘汰の形ではありません。いうまでもなく、良質化を引き出すように「改革」が描いた「競争」がもたらしたものではなく、志望者が法曹界を見離すことによってもたらされたものだからです。

     経済的に妙味のないところに人が集まらず、飽和が解消されるという道は、人材の確保という意味では最悪のシナリオであり、この間の「改革」の無意味性を明らかにしたということしか意味がありません。あえていえば、かつてのように優秀な志望者がこの世界を目指すことが、その先にあるとすれば、飽和状態が解消され、弁護士人口と需要の関係が、再び資格としての経済的妙味が生まれるまでになり、志望者がそこに「価値」を見出すのを待たなければならないことになります。

     しかも、質ということを利用者の観点からみれば、この間は、決して楽観視できる状況ではありません。受験者数と合格者数が減りつつ、合格率が徐々に上昇しているという現象が生まれています。既に質の確保よりも、なんとか合格者を確保したい、という「改革」側の意向が反映しているのではないかとの見方もあります。それこそ生存がかかっている弁護士の立ち位置ではなく、利用者、社会の側から見て、この状態が続く「改革」に何か良いことがあるのかということを問わなければなりません(「伝わっていない司法試験『選抜機能』の危機」)。

     こうみてくると、今、日弁連主導層が一体、どうしたいのかは、ますます分からなくなります。依然として「需要まだまだ」論を掲げ、増員基調の「改革」路線を受け継ぐ一方で、前記不健全な「自然減」への危機感は感じない。そして、その何もしていない減員をなにやら決議の目標達成とすり替えるようなニュアンスまであり、会内の早急な更なる減員論に応えるわけでもなく、かといって今後何ができるという見通しを示すわけでもない。「自然減」のなりゆきを静観するしかないような。そして、多くの会員の本音はおそらく、弁護士の経済的魅力はこのまま回復せず、当然志望者獲得の法曹養成制度見直しの効果も限定的なまま終わり、ずるずると業界は「不健全」な方向で進むと思っている――。

     業界のなかで「現実論」として言われることそのものが、もはや「改革」と業界の末期的な状況を示しているような気持ちなってきます。


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    No title

    最近、司法制度改革推進派による、「性犯罪無罪判決を得たら担当弁護士が懲戒請求されるかもしれない」とかいう寝ぼけたツイートを見た。「当たり前だろ」としか言えない。真似するならば徹底的にアメリカの真似をして、懲戒請求をふるいに分ける制度を構築すること、さもないと弁護士は民衆から殴られ放題になるし、それで人生を棒に振って家族までも不幸せにすることはできないから危ない仕事は受けなくなるし、札束で人の顔をぶったたいてドリームチームを組めるような金持ちしか無罪判決を目指せなくなる。アメリカのように。ところが、アメリカの名を騙って、似ても似つかない得体のしれないぼろぼろの制度を日本に作り上げて司法をガタガタにして「懲戒請求は国民の権利」と言い張る一派が、神妙な顔をして他人事のように予言なさるのだから、茶番もいい加減にしてほしい。

    No title

    >志望者が法曹界を見離すことによってもたらされたものだからです。

    「会社員か公務員になったほうがいいよ」(これはまだ穏和な言い方)などと志望者にメッセージを送るような環境にある業界が、「志望者いらっしゃい。歓迎しますよ」と言える状態にあるといえるかどうか

    >減員によって飽和解消を模索するより、むしろ業界離脱(リタイヤ、廃業)が模索される方がより現実的

    質を云々言うなら、更新制度の導入等を模索すべきであって、そうしたくないというのなら志望者減員による飽和解消を模索するのは当然のことであろう
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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