FC2ブログ

    増員反対論に対する「弁護士の都合」批判

     弁護士増員政策に反対・慎重な弁護士界内の論調に対して、界外から「弁護士の都合」という批判が、現在でも度々被せられます。同政策を進めた「改革」には、社会的な意義があったはずなのに、弁護士は自らの経済的事情が悪化したために、そうした論調に転じている、と。つまりは、社会的な意義よりも、不当に保身を優先させているという話です。

     これは、以前も書いたように、これまでの弁護士が経済的に恵まれ「過ぎていた」、そして弁護士の特殊性を認めず、一サービス業として「特別扱い」するな、「甘えるな」「努力せよ」という主張を伴った、この「改革」でパターン化された「心得違い」論につながっているようにみえます(「弁護士『保身』批判が覆い隠す現実」)。

     2008年に日弁連が初めて増員のペースダウンを打ち上げたとき、当時の町村信孝官房長官は「見識を疑う」「司法制度改革に携わってきた立場をかなぐり捨てて」と、日弁連の姿勢を厳しく批判したことがありました。(「『改革』の反省と『市民目線』という描き方」)。増員政策を受け入れ、その旗を振る側に回った日弁連・弁護士会のスタンスからすれば、「弁護士の都合」による「転向」という捉え方をされやすいかもしれません。

     もっとも、2008年当時も日弁連会長は、前記批判に反論しましたが、日弁連・弁護士会主導層は、現在に至るまで減員に舵を切る意向ではなく、増員基調の「改革」路線を受け入れています。むしろ、その姿勢こそが、「弁護士の都合」批判を恐れ、それに正面から反論できない、という認識をうかがわせるともいえなくありません。

     しかし、やはり問題は、弁護士界内の増員反対・慎重論を、頭から「弁護士の都合」による不当な、「心得違い」と片付けられるかどうかです。つまり、前記した通り、この論法は、実は増員の社会的な意義をあらかじめ前提としているからです。

     弁護士が経済的余裕がなくなり、新人のOJTにも影響する一方で、ビジネス思考や拝金主義化も進み、かつてのような経済的余裕のなかで存在して来た、採算性を超えた「手弁当」派は生存できなくなる。経済的な困窮は、不祥事の引き金にもなり、また、そうした生きづらい世界、経済的妙味を失った社会を優秀な人材は目指さなくなる。少なくとも社会的な意義は、こうした「改革」の結果を測りにかけて、なおそれを上回るプラスを導き出さなくてはならないはずです。

     弁護士が沢山身近にいて、市民が適正に選択できる社会。それによる競争・淘汰が弁護士の良質化・低額化が進み、弁護士を利用しやすくなる社会――。「改革」の増員政策がイメージさせ、社会に期待させた、そんな未来は、今、描ける状況でしょうか。

     恒常的に弁護士との関わりがない一回性の関係がほとんどの市民にとって、数がいても適正に弁護士を選択することは依然困難であり、それを解消する方向はないまま、自己責任だけが市民に回る。選択ができないところに、適正な競争・淘汰など実現するわけもなく、良質化は期待できず、依然、市民にとっては厳格な資格による質の保証の方が有り難い。そして、競争がイメージさせる低額化は、薄利多売が困難な弁護士業にあっては、これまた進まない。そもそもその市民に最も近くにいて、利用しやすい社会を支えるはずの町弁が、この「改革」の経済的打撃を最も受け、もはや未来がないといわれている。そもそも大量弁護士を支えるだけの経済的ニーズが顕在化せず、その見通しもなく、組織内弁護士や一部分野の弁護士ニーズだけが、「まだまだある」論で強調される――。

     「改革」の結果として分かったことは、「弁護士の都合」と批判して、増員を支持したところで、その前提となるメリットが社会に回って来ない、むしろ逆にリスクが回ってきかねない、という現実ではないでしょうか。そもそも「改革」の結果に対する反応として、弁護士に対する社会的な評判や利便性の向上で、よりプラスの評価が、今、聞かれないこと自体、「改革」の肩すかしの現実をそのまま物語っているといえないでしょうか。

     もっとも、むしろ一歩進んで、今や一サービス業として、「保身」的スタンスは当然である、ということの方を社会に認めさせよう、とする、正面突破の考え方をする弁護士もいます。しかし、それはこと弁護士という仕事については、現実的には困難で、茨の道かもしれません。まして、社会が「改革」のメリットとして、それを受けとめるには、相当な距離がありますし、良い意味でも悪い意味でも、将来的な方向性は別として、現在の日弁連・弁護士会のスタンスとも距離があります。

     無理な増員政策の弊害が、結局、利用者市民に回って来る、ということは、これまでも増員反対・慎重論のなかで言われてきたことです。しかし、「保身」のために言っているわけではないという主張は、その都度「弁護士の都合論」にかき消され、「心得違い」論に置きかえられて(あるいは前記したように、これの展開を先読みして主張することなく)、思考停止を生んでしまう。そのこと自体が、実は、利用者市民にとって有り難くない話なのです。

     しかし、こうした状況のなかで、弁護士側に姿勢として、一つヤブヘビに作用しているものがあります。それは、弁護士万能論の扱いです。「改革」でいわれた弁護士の社会進出論(社会の隅々まで弁護士が乗り出して、そこにある法的ニーズに対応する)と相まって、弁護士(会)はこれまで、ことあるごとに弁護士の扱える分野の裾野が広く、いわば「なんかでもやれます」「だからどうぞ頼りにして下さい」ということを社会にアピールしてきました。そして、そのことが「改革」の目的にもかない、さらには弁護士の経済的にもプラスであるという発想にとれます。

     しかし、「改革」の結果として、多くの弁護士は、その発想は必ずしも有り難くなく、それどころか首を絞めることにつながると感じはじめているように見えます。むしろ、もっとはっきりさせるべきなのは「万能」ではなく、経済的な意味も含めて、現実的な限界の方ではないか、ということです。事案によって個々の弁護士が、証拠や理論上の、「無理」を依頼者市民に説得するのと同じように、経済的にできない、ということを、もっと社会に理解してもらうこと。増員のうえに乗っかった「万能」論の期待が、失望に変わらないようなアピールを弁護士会はすべき、というより、もっとすべきだったのではないか、ということです。そして、これは決して「保身」的スタンスとはいえないはずです(「対価性と需要をめぐる誤解と無理」 「『望ましくない顧客』を登場させたもの」)。

     弁護士増員への反対・慎重論に対する「弁護士の都合」批判を恐れるよりも、「改革」で明らかになった事態を、市民に正しく伝えるために、今、弁護士(会)側がやるべきことが、まだあるように思えます。


    弁護士の競争による淘汰という考え方についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4800

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信中!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト



    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事

       スポンサーリンク



    コメントの投稿

    非公開コメント

    No title

    面白いアンケート結果
    https://twitter.com/hatarakedo1988/status/1110369473591074816
    https://twitter.com/Miyako_Koji/status/1110485242568011777
    下のアンケートのほうは、業種が絞られているところがアレではあるが。

    No title

    2019年司法試験の出願者数(速報値)
    昨年より15.2%減少し、5,000人を下回りました。
    https://studying.jp/shihou/about-more/applicant2019.html

    現状は十分世間に伝わっているものと思われます。なぜか伝わってないのは、内閣・国会・裁判所・マスコミという、4大権力のみです。

    No title

    >「改革」で明らかになった事態を、市民に正しく伝えるために、今、弁護士(会)側がやるべきことが、まだある

    今はツイッターで各々が自由に市民に正しい実態を主張しているので、会がやるべきことはありませんね。特に匿名アカウントの主張のほうがより真実を語っている。
    会側でいろいろなユルきゃらがいるようですけれども、あれはどうも弁護士の内輪受けを考えているとしか思えない。

    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR