FC2ブログ

    「谷間世代」支援を決めた日弁連臨総の欠落感

     給費制廃止という失策によって、新たな給付制導入までの6年間、無給を余儀なくされた、いわゆる「谷間世代」会員(司法修習新65期~70期、対象人員約1万1000人のうち、約9700人)について、20万円を支給する支援策を、日弁連が3月1日の臨時総会で、圧倒的賛成多数で可決しました。

     この間の貸与額約300万円の6.7%に過ぎない支給額の少なさという論点。会場の同世代会員から「馬鹿にしているのか」という声が出る一方で、「それでも有り難い」という評価があり、また、日弁連次期繰越金の約44億円の半分近くに当たる20億円をこれに投入するという、日弁連始まって以来の「英断」も評価の対象になりました。登録期間を満たさない会員への例外措置検討を盛り込んだ付帯決議案を執行部が受け入れた点にも、同世代の一部から感謝の声が出されました。

     そして、これでこの問題は幕引きか、という、もう一つの論点。「谷間世代」の経済問題の是正策について、今後も国に対して働きかけをしていくということを、執行部が提案理由でも、答弁でも一応明言したことで、これとさらなる会内施策の可能性を念押しするために、会員が用意していた付帯決議案は、提案されませんでした。

     要するに、全体的にみれば、この問題で現実的に今、日弁連は、できるだけのことをやろうとしている、ということを、執行部が「谷間世代に寄り添う」などという言葉とともに、会員に理解を求め、総会に参加した同世代の一部を含めた会員の多数が、これを評価、了承した、という格好です。

     しかし、結論からいうと、この日弁連の方針決定には、残念ながら、本質的な議論が全く反映していない。報道席から見ていた当日の議論は、むしろ、その本質にもはや踏み込むことができなくなっている、日弁連の今日の姿を強く印象付けるものだったといわなければなりません。

     その欠落した本質的議論とは、大きく2点です。一つは「給費制存続」運動とは、一体何だったのか、ということです。日弁連が反対したものの実現してしまった同制度廃止によって、「谷間世代」の格差は生まれ、かつ、新たな給付制そのものが、その失策の証明でありながら、いまだ失地回復の方向は見えないという現実。そして、さらにいえば、「給費制存続」は、弁護士が他の法曹二者とともに、対等に国家に養成されるという意味と、そのことが弁護士の意識を公益につなぎとめてきた意義のもとに主張されたはず、ということ。

     ここを踏まえないまま、日弁連がこの独自の支援策に踏み込むということへの意味をどう考えるのか、ということです。いかに「谷間世代にできるだけのことを」といっても、ここの整合性をどう踏まえているのかを明らかにしなければ、一部会員の懸念通り、これは「終わり」を意味し、また、そうとられることを許すものになりかねない。つまり有り体に言えば、「給費制」とその存続運動の正当性、その廃止が失策であったことを、いまこそ日弁連として確認したうえで先に進むべきだったのではないか、ということです(「『給費制』から遠ざかる日弁連」 「『谷間世代』救済と志望者処遇の視点」)。

     この方針の提案理由には、はっきりと「法曹は社会のインフラであるから、国には公費で法曹を養成する責務がある」と書かれています。しかし、「給費制」の文字は、経緯を説明した1箇所にしか出てきませんし、その国の責務という主張を裏打ちするような「給費制」復活の必要性をいうものは、この提案理由の中にも、当日の執行部の姿勢のなかにもありませんでした。

     この問題を国会議員に訴える院内集会に顔を見せないことを指摘された菊地裕太郎会長は、自分が出るタイミングではないとし、その理由のなかで、この問題に消極的な国会のムードを強調し、「働きかけを粘り強く継続」という前記提案理由の表現とは裏腹に、終始、腰の引けた姿勢を示しました。「無理なことは言えない」という敗北主義ともとれる姿勢には、執行部の姿勢だけでなく、それに対する会場の反応も含めて、正直、これがあの「給費制存続」運動をやった同じ団体なのか、という印象も持ちました。

     そして、もう一つ欠落していたのは、弁護士激増政策という「改革」に対する議論です。いうまでもなく、「谷間世代」を生み出した給費制廃止につながった、根本的な原因がどこにあるのか、という問いかけです。増員政策の実現を支える存在としての法科大学院制度の予算。その制約につながる給費制の存続は、増員へのブレーキになるという「改革」路線の描き方がありました。そして、その問いかけは一方で、その「改革」の旗を共に振り、そして現在においても、その路線を転換する姿勢に舵を切れない、日弁連の責任をどう自覚すべきなのか、という問いかけにもなります。

     臨総当日の質疑でも意見でも、こういう主張は出席者からも出されました。しかし、執行部側は答弁でも、増員政策は「谷間世代」の問題とは別問題と切り離し、その一方で、新たな給付制が「谷間世代」に遡及させる形にならなかった点へのこだわりさえも示されませんでした。そして、前記欠落点に対する会員の疑問への、多くの出席会員の関心もまた、希薄であるようにとれたのです。

     もはや、自ら進めた運動を、これからの活動との整合性を含めて総括できず、かつ、事態の根本的な原因を問い、それにかかわった、これまでの自らの活動を反省することもできない――。「谷間世代」への現実的な救済としての、「できるだけのこと」という方針決定の陰で、「給費制」を含めた「改革」に対して、今の日弁連は、本当に「できるだけのこと」をやろうとする、あるいはやれる団体なのかということを、残念ながら、今回の臨総からは思わずにいられません。 


    弁護士自治と弁護士会の強制加入制度の必要性についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4794

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信中!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ


    スポンサーサイト



    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事

       スポンサーリンク



    コメントの投稿

    非公開コメント

    No title

    これは正論。

    大体、先輩方のことを恵まれているのなんのいう連中は、、自分に甘すぎる。

    先輩方は、もし当時が今の制度であれば、合理的に情報を収集分析した結果、法曹を選択しなかった。

    甘い見込みで過剰な負債を負うのは、完全に自己責任。

    しかし、こんな当然の話を糾弾して、甘い言葉のみを耳に入れますます搾取されるというのが、典型的な貧困層で、今の貸与制世代の多くもこれに当てはまる。

    ・・・・・・・・・・・・・・
    ド田舎で小さな事務所所属のローヤー
    ‏ @massi_study

    ド田舎で小さな事務所所属のローヤーさんが企業法務系弁護士その1をリツイートしました

    仕組み全部知った上で、払えなくて借金になることを覚悟して受験・修習生活に入ってんだから、借金に文句言ったって、「じゃあ過去の自分がこの道に入って来なけりゃよかっただけでは」としか思えない。

    https://twitter.com/big_lawfirm/status/1104182625663516673?s=21

    金がいくらかかろうが、なりたいならやるべきだと思うがね

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    こちらの記事の二個目のツイートは、貧困ビジネスのロジック。相手にしてはいけない。それなのに心の純粋な人が騙され巻き込まれて疲弊する。ばかばかしい。

    http://blog.livedoor.jp/schulze/archives/52230263.html

    No title

    居住地に関して、貧困層が流入してインテリや富裕層が出ていくことを、スラム化という。弁護士業界ではスラム化類似の現象が起きている。つまり、弁護士会へのインテリや富裕層の流入はずいぶん前から止まり、脱出も本格化している。

    先日の臨時総会は、このスラムへのばら撒きが問われ、可決されたというもの。もちろん、スラム住民に対しては、今後も法テラスなどの低報酬の仕事が用意されているので、安心してほしい(法テラスの運営側に熱心な事務所の弁護士が、今回の臨時総会の運営にも熱心だったことを、思い起こしてほしい)。

    弁護士業界のスラム化問題については、一足先に廃業した高齢者も他人事ではない。日本弁護士国民年金基金その他年金の支給額減少・解散でダメージを被る。

    No title

    建前:谷間世代の救済。

    本音:菊池先生お手柄。ドラスティックな一律会費減額はしたくない、それでいて持て余していた繰越金で、先々の選挙の9700票を買う。6割以上棄権と言うのが常態化している昨今、主流派の地位は盤石となる。背任ではないよ、貧乏人がこれで気をよくして登録期間を少し先延ばししてくれれば、容易に元は取れるという見込みがあるのだから。

    No title

    >この問題を国会議員に訴える院内集会に顔を見せないことを指摘された菊地裕太郎会長は、自分が出るタイミングではないとし

    さぞかし司法改革の時のお偉いさんは、当時、議員のセンセイ方にすり寄ったのでしょうな。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR