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    「改革」と制度のための危うい「前提」

     法科大学院制度見直しの目玉とされている「法曹5年一貫コース」の入学者選抜で、文科省が、近隣に法科大学院がない大都市圏以外にある法学部の出身者らを受け入れる特別枠の設置を認める方針を決めたというニュースを1月25日、共同通信が流しています。昨年12月13日開催の中教審法科大学院特別委員会第90回会合で、この方針に関連しているととれる「全体イメージ図」が参考資料として配布されていました。

     記事には、その狙いとして、地方の法科大学院撤退をにらんだ「意欲ある優秀な学生が学べる場」の確保と、「各地で活躍する法曹の養成」を挙げています。時短策でなんとか志望者を獲得できないかと考える、制度変更の発想のなかでも、地方の「意欲ある優秀な学生」のことを配慮している。さらに、地方での撤退で潰えたような、法曹を地方で育て地方で活かすという「地産地消」などといわれた法科大学院の当初の「夢」も、制度は捨てていない――。こういったところでしょうか。

     しかし、正直な印象をいってしまえば、この方針は、きちっと先を見通したものなのか、という疑問を持ってしまいます。とりわけ、この記事が伝えるニュアンスのように、本当に志望者、学生のことは視野に入っているのでしょうか。前記「地産地消」関連で、記事では特別枠で受け入れた、地方の「意欲ある優秀な学生」に対して、「法曹資格を得てからの一定期間の地方勤務といった条件は課さない」などとしています。あえて記者の配慮で言及したところかもしれませんが、見方によって「当たり前」という声が出できそうです。そうなると、「夢」の実現は、果たしてどういう志望者の動向の先に描かれているのかが、気になります。

     今にして思えば、これまでも今回の法曹養成の「改革」は、その先にどうなると考えているのか、その「前提」そのものが危ういというべきものばかりでした。これまでよりも時間的経済的負担がかかる法科大学院というプロセスを、司法試験受験要件化によって課しても、それでも志望者はやって来るという前提。弁護士を急増させても、前期「やって来る」の前提となっているはずの、弁護士の経済的魅力は低下しない、という前提。法曹養成への実績が未知数な制度でも、法科大学院が実務修習を補てんしたり、未修者も含めて修了者の相当数(当初の想定は「7、8割程度」)が司法試験をパスできるレベルにできるという前提――。

     さらに、もっと言ってしまえば、「改革」後、これらの前提が怪しくなってくると、弁護士の経済的魅力が下落しても(他の職業的魅力によって)、志望者はやって来る(だから、修了後のことは制度とは関係ない)とか、この先、もっと弁護士を増やし続ければ、その経済的魅力も回復するはずとか、さらに「抜け道」である「予備試験」をなんとかすれば、本道に志望者が流れる、といった前提に立っている意見が、制度を維持しようとする側から聞かれました。

     そして、今は司法試験の方が、制度の現実に沿わせ、合格率さえ上げれば、とか、資格取得までの時間を短くすれば、志望者はどうにか回復できるのではないか、という前提のうえで制度変更が語られ、そして前記「特別枠」の先に、当初の「夢」まで描かれはじめているのです。

     こういう状況をなんと表現すればよいのでしょうか。成否を決定付けるような、肝心な要素を回避して、その先を思い描く。最大の不安要素に目をつぶる。むしろ、目をつぶらないと「改革」を進められないという現実。「ヨミが甘い」といえば、それまでですが、「改革」の当初は「やってみないと分からない」という話が通用したのかもしれません。そして、そういう発想は、「改革」当初の「尻込みするな」「それでは何も変わらない」という威勢のいい声に押されて突き進んだ。

     しかし、「改革」の結果が出てからのそれは、もっと苦しく、もっとあからさまな「改革」への執着、自己目的化といえるものです(「法曹志望者数回復『なんとか』論の苦しさ」)。制度維持から逆算した発想で、肝心な要素に目をつぶる、つぶらざるを得ない。そのなりふりかまわない発想の苦しさの果てに、制度理念を全面的に信じ、掲げてきた側からも疑問が呈されるような法科大学院制度変更の方向までが、今、登場しているのです(「法科大学院在学中受験『容認』という末期症状」 「法科大学院制度擁護派の分裂と旧試『欠陥論』」)。 

     前記「特別枠」を有り難いと考える志望者も、もちろんいるかもしれません。しかし、今、表れている「改革」の結果から、読みとるべき志望者による選択の優先順位はどこにあるのか、何か現状を生み出している決定的要素なのかが問われないのです。受験要件化にしがみつく制度維持、増員政策を含めた「改革」路線維持に縛られず、将来を考える発想と、現在の発想の、どちらが本当の意味で志望者のため、あるべき法曹養成のためになるのか。そんな素朴で、当たり前のところに、なかなか立てないのが、この「改革」の現在地といわなければなりません。


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    テーマ : 資格試験
    ジャンル : 就職・お仕事

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    No title

    この5年コースとやらに進んでしまうと、もう4年で卒業して民間企業就職はできないんですか?
    インターンとやらが忙しいの、確か2年生からでしたよね?
    インターンと称する民間企業との採用競争に勝利するには、それより早く囲い込んでしまうしかない、という発想ですか?
    逆に、大学卒業してあるいは大学なんか行かずに社会に出て、何年も経ってから一念発起した人は何が何でも排除したいんですか?

    No title

    何が法科大学院制度の欠点なのかと言えば、出口戦略がないこと。数万件の顧問先とか、サラリーマンの二倍稼げて安定しているインハウスとか。

    医薬が6年でも人気なことを直視すべき(ただし、医学部人気はさすがに陰りがある)。

    出口戦略なしに二弁会長選挙に立候補し、司法研修所廃止・法科大学院復活を狙う先生もいらっしゃるが、20年遅いように思われる。

    No title

    https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190126-00005024-thankyu-life
    こんなふうに宣伝をすれば、志望者(主に主婦層/リタイヤ層)が戻ってくるような感じもしますが

    No title

    改革を選ぶのは国民
    法曹コースに不満・不安があるなら選ばなければいいこと。
    誰も選ばない、そうなればまたコースのあり方は変わる。

    黒猫氏の見解をお聞きしたいものだ。
    体調が悪いそうなので無理はして欲しくないものだが。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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