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    児相への弁護士配置と処遇をめぐる発想

     児童虐待への対応強化へ、厚生労働省が全国の児童相談所(自相)に弁護士の配置を義務付ける方向で調整に入ったことを、毎日新聞が1月17日付けで報じています(デジタル毎日)。記事も言及していますが、正確には既に2016年の児童福祉法改正で義務付けられた「弁護士の配置又はこれに準ずる措置」(同法12条3項)の「準ずる措置」を削除し、兼務態勢などの現状を改め、より全児相への弁護士配置を徹底化しようとするもののようです。

     児相での弁護士必要論、活用論は、近年、さらに強調され、社会的にもほぼ異論がない状態になってきたようにとれます。児童虐待の深刻化に伴い、子どもの保護のために法的権限を駆使しなければならない場面があるほか、援助のための様々な法律問題をクリアするために、弁護士のニーズが注目されてきました。かつてから一部の弁護士が自相との連携を強め、非常勤でも実績を積み上げてきたという経緯もありますが、一方で「常勤化」が進んでいない現実もあり、必要論の高まりと常勤化促進の意図が、今回の動きの背景にあります(日弁連「すべての児相に弁護士を」)。

      この動きに対して、現在、最も弁護士が関心を示しているもの、別の言い方をすれば、一番引っかかっているととれるのは、実は「処遇」です。つまり、「常勤化」に向けて、弁護士がより参入できるだけのきちっとした待遇を念頭に置いているのか、逆に言えば、またぞろそういうことを度外視した話ではないのか、という不信感もはらんだ受け取め方です。処遇面で弁護士の気持ちが離反しつつある、法テラスの二の舞にならないか、という声も聞こえてきます。

     改めて、今回の動きと弁護士の処遇について、二つのことを押さえておく必要があるように思います。

     一つは、「改革」の教訓につながる、一つのパターンではないか、ということです。改めて言うまでもないことですが、人材の確保というテーマに対して、処遇は当然ワンセットで検討されるべきことです。しかし、弁護士についていえは、今回の「改革」でどれだけニーズがあるか、ということが散々強調されながら、それを支える人材を安定的に確保することを処遇の問題として検討するということが完全に置き去りにされた観がありました。

     なぜ、そんな当たり前のことが、こと弁護士については置き去りにされてしまったのか――。その背景には、増員議論のなかでも散々取り沙汰されましたが、弁護士が経済恵まれている(恵まれ過ぎている)というイメージが前提にあったことがあります。これは、結果的に弁護士の自己犠牲を求める方向をより許す発想、有り体にいえば、そこそこ自己犠牲を強いても、それによっても弁護士が経済的に破綻することはないだろうという楽観論です。

     結果的に「甘やかすな」的な論調と裏腹のこうした楽観論が、激増政策をあと押しし、同時にそれによって、「ニーズ」とひと括りにされるものの中身が、弁護士の業務を実際に支え得る有償のものなのか、それとも「ニーズ」はたとえあっても、別の経済的基盤が考えられない以上、支え切れない無償性の高いものなのかという、現実的視点を欠落させることにつながり、そして失敗した――。

     「不信感」と書きましたが、今回の動きが弁護士側に嫌な感じをさせるのは、この点であるというべきです。またぞろ、弁護士の現実的な処遇は度外視されるのではないか、と。適正で現実的な処遇を度外視して、必要論だけで突き進み、それで手を挙げる弁護士がいなければ、またぞろ手を挙げる弁護士を生むために、さらに増員が必要などと言い出さないか――。こんな皮肉までが聞こえてきます。

     そして、もう一つ押さえておくべきことは、増員による弁護士の所得低下との関係です。増員政策によって、弁護士の所得水準はどんどん下がっています。さらに増員が進めば、それによって弁護士そのものの成り手が減るということもありますが、その一方で、こうした公的な弁護士の仕事について、より低水準を基準とした処遇が前提となりかねず、そうなれば、制度は失敗するということです。公務員医師と、任期付き公務員の弁護士の処遇格差なども取り沙汰されていますが、弁護士については、今後も足元を見られ、低く見積もられるという悲観的な見方が出ています。

     こうしたなかで、やはり気になるのは日弁連・弁護士会の姿勢です。児相への弁護士の配置がいかに必要かは強調するものの、現実的に弁護士確保を支える処遇について、担保することが、制度を成り立たせるためにいかに必要かという視点に、果たして立っているのでしょうか。もし、立っていないのであれば、まさに増員政策に突き進んだ「改革」の二の舞になりかねません。

     弁護士の自省と努力、さらにその先の自己犠牲でなんとかするという発想の限界、無理こそ、「改革」失敗の教訓というべきではないでしょうか。そこに一番敏感に反応していいはずの、日弁連・弁護士会がいまだそうではない。「改革」の根本的発想から見直さなければ、同じことが繰り返される気がしてなりません。


    今、必要とされる弁護士についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4806

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    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事

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    No title

    子供にも司法的救済・司法的援助が必要なのです。
    しかし、子供には経済的能力が通常ありません。
    法律扶助を弁護士会でするのではなく自治体後援の法律扶助として
    弁護士が活用されるべきでしょう。
    時には学校常駐の弁護士何てどうでしょうか?
    アメリカには学校常駐の警察官がいるとか?
    日本は陰湿ないじめがありますから学校常駐の弁護士

    No title

    児童相談所に弁護士を配置する目的は何でしょうか。

    私には、国策に協力する弁護士を配置するのだとしか思えません。

    児童福祉法が、その名にもかかわらず、福祉法というより治安法の様相を濃厚にしていることは、かなり以前から指摘されています。

    私自身、子どもが学校から児童相談所に送られてしまって、子どもを帰してもらえないし、会わせてもらうこともできないという、お母さんから相談を受けました。

    その子どもは、児童福祉法による一時保護として、児童相談所に連れ去られたのです。私は、いきなり子どもを連れ去るのは憲法31条以下に違反すると主張して、人身保護請求をしました。

    しかし、裁判所は人身保護法により選任しなければならない子どもの国選代理人も選任せず、1週間以内に開かなければならない公開の審問も開かずに、25日後、請求棄却の決定を送り付けてきました。

    どのような理由で子どもが児童相談所に入れられたのか、そこででどのような扱いを受けているのか、全然わからないままです。

    私は、憲法違反で特別抗告をしましたが、最高裁は、「本件抗告の理由は、違憲を言うが、その実質は単なる法令違反を主張するものであって、特別抗告の事由に該当しない。」という、いつもの理由で棄却されました。一時保護が国策であることがよくわかります。

    一時保護とはいうものの、その期間は起訴前勾留の10日、20日ではなく、原則として2か月で、それ以上の延長も認められています。昔の予防検束を彷彿とさせます。

    児童福祉、精神障害者福祉、老人福祉という名目で治安強化が目指されている現在、弁護士がその先兵でいいのか、よく考えるべきだと思います。

    No title

    弁護士側で注意すべきは、
    1 経済的に窮しておりしかも弁護士という職業(身分?資格?)にこだわっていると、こんな見え見えの毒まんじゅうでもくらってしまうこと。
    2 それでも不足すれば、派閥で雑巾がけをしている人に押し付けられること。

    2は要注意。リーマンショック後は、10年以上雑巾がけをした挙句のポイ捨てが後を絶たない。雑巾がけに熱心だったためにOJTが極端に少なく、能力はないは年は食っているわ経営感覚はないわ(JP並みに経営を甘く見ている)で、切り捨てられた後はどうにもならない。派閥のメリットは、懲戒請求されたときに大目に見てもらえる程度(大きなメリットだが、どのみち退会に追い込まれるのだから意味がない。)。

    No title

    結構なことだと思いますが。
    特に、出産や育児を経験された先生且つ仕事をセーブしなければならない先生も多いわけですから、弁護士側のニーズは大きいし本当の意味での育児経験を踏まえた声を大きくするチャンスでしょう。
    これを皮切りに、学校教育の中にも法教育を浸透させるべく、1学校に弁護士を最低でも1人は常駐させることになれば万々歳。
    処遇については、悪いことにはならないと思いますが。
    寧ろイs(自主規制)
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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