FC2ブログ

    法科大学院在学中受験「容認」という末期症状

     法科大学院の在学中に司法試験の受験を認める方向が、ここに来て、にわかに現実味を帯びてきたことが、業界内で話題になっています。法務省は法科大学院の最終学年に在籍する生徒が受験できるようにする制度改正へ、早ければ秋の臨時国会に司法試験法改正案等を提出し、新制度を2023年の司法試験から適用する方向。また、司法修習修習のスタート時期を毎年11月から4月に変更することを検討していると報じられています(10月5日付け、読売新聞朝刊)。

     業界内からは、この動きに驚きの声が上がっています。志望者獲得のために、ここまで制度の趣旨を投げ打った、なりふり構わないといっていい方策を打ち出すのか、という驚きです。

     現在の法曹養成制度見直しの方向と狙いは、一口に言えば、資格取得までの時短化による志望者の回復、それによる制度の維持になってきています。逆にいえば、時短化による制度選択の促進ということになります。志望者にとって、法科大学院の時間的負担が敬遠され、早期受験、早期資格獲得が魅力的であることは事実であり、予備試験への志望者流出が決定的に、その方向性に影響しているとの見方があります。

     しかし、志望者減の根本的な原因は、ここでも何度も指摘してきたように、法曹増員政策の失敗による弁護士資格の経済的価値の下落があり、志望者からすれば、時間的負担だけでなく、リターンを見込めない資格に法科大学院の経済的負担が、そもそも見合わないという現実が横たわっています(「資格価値の暴落と『改革』への認識」 「法曹志望者減と『改革』の実相」)。

     導入の方向にある大学3年間+法科大学院2年間の、「法曹5年コース」と、今回の改正提案にある、在学中受験での司法試験合格、司法修習スタートの前倒しで、最大1年8ヵ月、これまでよりも早く法曹資格を得られるとされています。前記した事情からすれば、仮に一時的に志望者を引きつけたとしても、どれだけ本質的な解決につながる効果があるのかは、そもそも疑問といわなければなりません。

     しかし、そのこともさることながら、業界関係者を驚かしているのは、前記した制度趣旨との関係です。新法曹養成制度の中での司法試験は、法科大学院教育の成果を試す、「効果測定」という位置付けになったはずでした。そうなると、在学中の受験を認めるということは、どういう解釈に立ったとみるべきでしょうか。

     新制度では一方で「受験回数は修了後5年5回」という制限を課し、その解釈は教育効果の5年で消滅という、いわゆる「賞味期限」を設定した(そうした前提に立った)ことになっています。「賞味期限」にこだわるような、確固たる教育効果を設定・想定しながら、修了する前に「効果測定」を受験してよし、パスしてよし、というのは、あまりにチグハグな発想にみえます。

     法科大学院というプロセスを全うしなくても、受験していい、パスしてよしということは、司法試験がもはや「効果測定」ではない、というだけでなく、修了を受験要件としてきたプロセスの教育価値そのものが問い直される話になります。

     もし、法科大学院というプロセスに「価値」があるのであれば、受験要件化を外し、堂々と正面から、その「価値」で志望者に選択される道、そこで勝負する道を選んでいいはずであり、それができず、法科大学院制度=受験要件化であるという発想でそれにしがみついているのは、制度そのものの自信のなさであると書いてきました(「法科大学院本道主義強制に見合う『価値』」 「予備試験『抜け道』論者の心底」)。

     しかし、今回の方向は、受験要件化を自ら形がい化させる道を選んでも、時短で志望者を引きつけたい、という、さらにプロセスの価値での勝負から遠ざかろうとするもの。前記した法曹増員政策の失敗による影響を直視しないばかりか、もはや自らプロセスの価値にもこだわらない。自信のなさどころではない、既に制度理念のコアの部分が崩れていることを疑いたくなる方向といわなければなりません。

     前記「読売」の報道では、「存立の危機 法曹界焦り」という小見出しが付いた解説を掲載しています。法科大学院制度の存立の危機に対する法曹界の焦りが、今回の改革方向の背景にあるというのです。しかし、この捉え方は、ややミスリードするものにとれます。この捉え方だと、法曹界内の法科大学院制度擁護派が、「焦り」から今回の、なりふり構わない方向を全面的に後押しているようにとられかねないからです。

     弁護士らでつくる法科大学院制度「応援団」である、「ロースクールと法曹の未来を創る会」(「Law未来の会」、久保利英明・代表理事)は10月2日、今回の法科大学院在学中の司法試験受験を認める制度変更に強く反対し、臨時国会への法案提出をやめるよう求める要請書を、上川陽子法相(当時)に提出しています。

     「法科大学院の在学中に司法試験の受験を認めるということは、法科大学院の課程を修了していない(つまり、『教育途上の者』)に、『裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な法律知識及び法的な推論の能力を有するかどうか』を試す機会を与えることを意味します。これが、法科大学院を『法曹養成制度の中核』と位置づけた司法改革の理念と法科大学院制度の趣旨に反することは明らか」
     「法科大学院に在学中の学生が司法試験に合格すれば、試験の時点において、『こうした知識と能力を有する』と判定されたことになるわけですから、その者には、受験後に法科大学院に在学する理由はまったくないということになります。したがって、法科大学院在学中に司法試験の受験を認め、合格させることは、法科大学院制度の趣旨からすれば、まさに、『背理』」。
     「制度変更により、最終年次(未修3年次、既修2年次)の前期(5月~7月頃)に司法試験を実施するとすれば、未修2年次(既修1年次)の後半の法的な基礎力をつけるべき時期が司法試験の受験準備に費やされることになってしまいます。また、仮に後期(10月~12月頃)に司法試験を実施するとしても、未修3年次(既修2年次)という、実務と理論の架橋となる法科大学院教育の一番重要なカリキュラムを修得する時期のほとんどが司法試験の受験準備に費やされることになってしまいます」

     要請書の小見出しにも、「『制度変更の目的』は本末転倒」「法科大学院を死に追いやる制度変更」「受験を認めるのは『背理』」といった、厳しい言葉が並んでいます。さらには、この動きに対して「『ギャップターム問題の解消』に名を借りて、法科大学院制度を廃止に追い込もうとする『策謀』ではないか」との見方まで示しています。

     同会の基本的な現状認識と立場は、志望者大幅減の原因が法務省司法試験委員会の不当な合格者数制限にあるとして、それを改めるべきというものです。要は「合格させる制度ならば志望者が回復する」というものですから、やはり、法科大学院制度維持の前に、「改革」失敗の本質をみないという点では、変わりありません。

     しかし、前記今回の「改革」方向についての批判は、彼らの立場からすれば真っ当なものにみえます。むしろ「理念は正しい」と強弁して来た法科大学院制度擁護派は、こうした批判をぶつけて当然のはずではないでしょうか。

     この「改革」方向は、要請書が懸念するように制度崩壊につながり、むしろそれを加速化させるものになるかもしれません。しかし、それ以上に、制度を守りたい側が、この方向を批判しきれず、苦し紛れのように、この方向を受け入れるのであれば、それ自体が紛れもなく、制度の末期症状であるといわければりません。


    「予備試験」のあり方をめぐる議論についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/5852

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信中!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 資格試験
    ジャンル : 就職・お仕事

       スポンサーリンク



    コメントの投稿

    非公開コメント

    No title

    日弁連もギャップターム問題を可決していますよ。
    http://blog.livedoor.jp/schulze/archives/52223298.html
    総本山だってわかって導入しているんでしょう。
    国民だって今まで十分な時間をかけて理解(容認)しているんでしょう。

    No title

    医師の国家試験も医学部在学中に受験できるし,現状でも優秀な法科大学院生は在学中に予備試験を受験するのが当たり前になっているのだから,今回の改革は現状追認でしかない。
    法科大学院教育による「プロセスの価値」など始めから存在しない。

    No title

    >法科大学院の在学中に司法試験の受験を認める方向

    旧司法試験の時はそんなの当たり前だったのだし、
    「在学中」に合格ということ(ざいがくちゅうという肩書だけでなく、学生という自由な身分のうちに合格できるのはよいことである)で留年して司法試験に挑戦している人達はたくさんいたのだから
    そういうのに戻せばいい。

    >「受験回数は修了後5年5回」
    というのがどうなるか疑問だけれども、少なくとも法科大学院コースならば受験回数制限は撤廃すべきだと思う。
    ついでに失権した人達も回復させれば、法曹志望者だってある程度の回復が見込まれる。

    law未来の会と珍しく意見が一致しましたw

    No title

    要望書を出すのは自由だけれど、全く意味ない上、法科大学院側から、
    「何言ってるんだ、お前らが煽るからこっちも乗っちゃったんじゃないか、何万件もの顧問を創出の話、どうなったんだよ!!!!!」
    と逆ねじを食らわされるのがオチ・・・。

    No title

    >法科大学院在学中の司法試験受験を認める制度変更に強く反対し、臨時国会への法案提出をやめるよう求める要請書を、上川陽子法相(当時)に提出しています。

    イイコトするじゃんよ!
    全国の単位会もこれくらいのことをしないとネー
    会長声明出しました、で終わっちゃ駄目駄目ネー
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR