FC2ブログ

    巧妙で曖昧な増員「ぺースダウン」論

     弁護士の増員政策について、日弁連はある時期から現在に至るまで、「増員のペースダウン」必要論を維持してきました。具体的にいえば、公には2008年に会長に就任した宮﨑誠弁護士が、その選挙期間に唱え、就任後、緊急提言として発表して以来、ということになります。弁護士を増やしても、需要はそれに比して顕在せず、新人を事務所が採用できず、結果、新人のOJTに影響するといったことへの危機感が背景にありました。

     しかし、この論法は、別の「巧妙さ」を持っていました。増員そのものの方向は間違っていないが、ペースが早すぎた――。つまり、現在、増員政策がもたらしている弊害はあくまでペースの問題が引き起こしているのであって、逆に言えば、ペースが落ちれば解消していく。総体として弁護士が将来にわたり増え続けても、需要はゆっくりと顕在化し、それが支えるという見通しに立っていた、ということです。

     つまり、何が「巧妙」かといえば、内向きには、増員抑制の方向で、現状を看過せず、対応するとアピールし、その一方で、「改革」路線として増員方向は維持する。これに対し、ぎりぎりの選択という評価や、むしろ現状がこうせざるを得なくさせた、という評価の仕方も聞かれますが、あくまで必要なのはペースダウンということであって、増員政策の失敗、躓きを認めず、いわば路線を先につなぐ役割を果たした。ペースダウンの必要性を言い続けることで、増員政策「失敗」の烙印が押されるのをかわし、あるいは先延ばしできる――。

     この宮﨑会長が打ち上げた論調は、当初、増員の旗を振ってきた日弁連が減員に舵を切ったものと、当時、マスコミや政治家に「勘違い」され、批判されましたが(「『改革』の反省と『市民目線』という描き方」)、同会長にとってはまさしく不本意だったと思います。記者会見でこれに反論していますが、そこで当時の規定路線だった、司法試験年間合格3000人の目標について、「見直しを求めていない」と明言しています。

     しかし、増員路線を維持するうえで「巧妙さ」を持った論調であったとしても、その中身は実は何も示していないのと同じといっていいくらい、「曖昧」なものです。増えた結果、出ている弊害を、増やし続けながら緩和できるペースとはどの程度のものを指すのか、全く分からないからです。少なくとも、これは、弊害が出ないように、少しずつ増員するという発想とは全く違う。ペースダウンの効果がでるまでの、あるいは増員の中での今と変わらない弊害、いわば犠牲に目をつむることに変わりないともいえるからです。

     しかも、問題は前記したように、これが現在に至るまで日弁連が繰り返し唱える、いわば増員基調の「改革」を維持するなかで、しがみつく論調になったことです。政府が司法試験合格者数の「死守ライン」とした「1500人」について、日弁連も2016年に「まず1500人にまで減員し、更なる減員については法曹養成制度の成熟度や現実の法的需要、問題点の改善状況を検証しつつ対処」することを盛り込んだ決議を採択しました(「3・11臨時総会からみた『改革』と日弁連」)。

     しかし、決議の「まず」という前置きや、「更なる減員」に言及した文脈とは裏腹に、増員慎重論の会員からは「1500人減員」への、日弁連主導層の消極姿勢が指摘されてきました。そして、その自体が、日弁連にとっての「1500人」、それでも年間1000人余りの弁護士が増え続けるラインの位置付けが、まさしく「巧妙」で、曖昧な日弁連の「ペースダウン」論とつながっていることに気付かされるのです。

     「近年の推移を鑑みるに、上記推進会議決定(2015年6月30日の法曹養成制度改革推進会議決定・筆者注)で言及された『1500人程度』に至ったとも考えられ、これまでの法曹人口の急激な増員ペースが緩和されてきたと言うことができる」

     合格者をさらに昨年より18人減らしながら、1525人となんとかラインを死守した今年の司法試験合格者数の結果(「司法試験の本当の不安点」)について、菊地裕太郎・日弁連会長は9月11日に発表した談話の中でこう述べました。昨年の結果についても同時期に、前会長が一見ほぼ同文のような談話を発表していますが、昨年と違い、菊地会長は「1500人程度」に至ったという見方を示すと同時に、ペースダウンが実現していることを、より明言しました。

     しかし、相変わらずペースダウン論にしがみついていることははっきりしているものの、依然としてその意味はぼやけ、具体的にその効果をどのように評価しているのかは皆目分かりません。会員の一部からは、就職難が改善に向かっているというような感触的な話が伝えられていますが、その一方で、採用されている新人がかつてよりも相当に条件のハードルを下げている結果である、という見方も聞こえてきます。少なくとも、法曹志望者減の根本的な原因となっている弁護士資格の経済的価値の下落につながる増員の影響を、幾分かでも緩和することにつながったといえるのかは、甚だ疑問といわなければなりません。

     日弁連の増員ペースダウン論調は、増員必要論者に向けては「それでも増える」と言い、懸念論者には「ペースダウンによって影響は緩和される」と言うことができる、巧妙で、日弁連「改革」主導層に都合がいいものとして、存在してきました。しかしその論調から見える、「改革」の未来も、それに対する日弁連の姿勢も曖昧なままです。


    地方における弁護士の経済的ニーズの現状についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4798

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信中!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 資格試験
    ジャンル : 就職・お仕事

       スポンサーリンク



    コメントの投稿

    非公開コメント

    No title

    日弁連は、浮世離れしている。腐敗とカルトの合わせ技と言ってもいい。

    特に日弁連オブ日弁連ともいうべき刑事弁護委員関係は、派閥の首領が多く、日弁連の(組織構造ではなく)「権力構造的に」懲戒処分の帰趨を握っている。さらには、裁判所から委託される後見人や管財人等・日弁連の嘱託・法テラスや地方公共団体の有償の役職の差配を行っている。彼らの正義の暴走のために、「弁護士会の強制加入団体性」が利用されていることは、言うまでもない。この内向きのやりたい放題は、社会との接点が不可避な場面では、しばしば激しいハレーションを起こす。

    なにせ、世間と闘うのが刑事弁護委員会の至上命題で、そのための犠牲を犠牲とは思わない連中。彼らが増員推進なのは、言うまでもない。彼らの利権構造を守るためには、国選事件でぼろ雑巾のように使い捨てにできる人材が大量供給され続けなければならない。国選事件向けの人材など、はっきり言って優秀でなくてもいい。むしろ洗脳しやすい無能な人間の方がありがたい。したがって、プロセスなどどうでもいい。数さえ揃えればいい。

    だから、日弁連は、いかに世間に法曹資格が不人気となり志願者が減少しようとも、決して減員に舵を切ることはない。そして日弁連は腐敗し続け、最終的には崩壊大学院と共に崩壊する。

    No title

    > ツイッター等で就職難や自己の事務所の採用条件についていくらでも探せばあるのだから、ソースを具体的に提供したほうがよい。
    > 修習生の中でブラックリストが出回っているという情報もあるのだから、伝手を辿って見せてもらってその分析をするなど具体的な数字や姿が見えなければ、しょせん「でも、もらってるんでしょ?」という話になりかねない。
     正論と言いたいところだが,自分の事務所の採用条件を大幅に下げているなどということをツイッターなどで公言したら,それこそ自分の事務所の評判に関わるので,賢明な弁護士ほどそういったことは公の場で発言しないだろうし,修習生の間で出回っているブラックリストとやらも,公の場に出したら問題が生じるだろう。
     弁護士業界の中でロー卒の割合が年々増えていく中,それでも「うちの弁護士は皆優秀ですよ」と言い続けなければ生き残れない各法律事務所,司法修習の成績分布の開示を頑なに拒み続ける最高裁。
    法曹界の中で堂々と本音を言える人がどんどん減っている中で,客観的なソースに基づいて法曹の質を論じることがいかに困難であるか,そしてそのような状態が問題解決をいかに困難なものにしているか,読み手の側も認識しした方がよいと思う。

    No title

    >会員の一部からは、就職難が改善に向かっているというような感触的な話が伝たえられていますが、その一方で、採用されている新人がかつてよりも相当に条件のハードルを下げている結果である、という見方も聞こえてきます。

    ツイッター等で就職難や自己の事務所の採用条件についていくらでも探せばあるのだから、ソースを具体的に提供したほうがよい。
    修習生の中でブラックリストが出回っているという情報もあるのだから、伝手を辿って見せてもらってその分析をするなど具体的な数字や姿が見えなければ、しょせん「でも、もらってるんでしょ?」という話になりかねない。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR