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    弁護士自治存続をめぐる現実的視点

     司法改革の一環として、弁護士増員政策を受け入れた当時の弁護士会関係者のなかで、その結果が、弁護士自治を内部から揺るがすものになるかもしれないと見抜き、本気で危機感を持った人間は、ほとんどいなかったといっていいと思います。そもそも、増員の影響を楽観視し、ここまで経済的な打撃を受けることが予想できなかったことを考えれば、まさか会員の会費負担感が、自治不要論の引き金になるなど想像ができなくても不思議ではありません。いまや会員のなかで当たり前に語られるようになっている、弁護士自治は、高い会費に見合うかという視点は、およそ「改革」前には一般的なものではなかったといえます。

     いま弁護士自治不要論をめぐる会内世論は、大きく二つの切り口で語られています。一つは、自治の対価としての高い会費の不当性。会費の使い道が、個々の弁護士業務の運営に反映する形になっているとの実感がない。逆に強制加入という縛りのなかで、「自治」のために支払続けるという形に、その「自治」の価値が実感できない会員が増えているということです。従来から言われ続けてきた、権力からの独立という意義を聞いても、「生存」がかかっている弁護士の優先順位としては、説得力がなくなってきているという見方もできます。

     もう一つは、思想・信条との関係での不満。弁護士自治・強制加入という形の弁護士会が、それを支える、というか事実上、逃れられない会員の思想信条を考慮していないという声です。死刑や憲法、安全保障などの日弁連・弁護士会の対外的な意見表明をめぐり、延々と会内でくすぶってきた世論で、そうした意見表明は会でやらずに有志でやるか、それができないならば任意加入にしろという話で、後者であれば、この国に会所属・非所属の弁護士が生まれ、完全弁護士自治ではなくなります。

     もっとも、思想・信条の切り口も、現実的には前記会費負担の問題に置き換えられるものが含まれています。つまり、会費負担がもっと低くなるとか、その使い道が個々の弁護士業務に反映する形であれば、日弁連・弁護士会が前記対外活動を行うことにこだわらない、たとえ自分の思想信条と異なる面があろうとも不問にするという世論も確実に存在するからです(「『新弁護士会設立構想』ツイッターが意味するもの」 「オウム死刑執行への抗議と日弁連の存在意義」l)。

     こうみてくると、弁護士自治・強制加入の内部崩壊を止めるという前提に立つのであれば、その現実的な方向は、既に見えているといえます。つまり、弁護士会が会費減額による会員負担の軽減を含め運営や活動を、会員利益の方向に大きく舵を切るか、それとも、会員の経済的な環境を揺るがしている「改革」を根本的に転換(増員政策の中止など)するか、あるいはその両方か――。

     思想・信条の切り口でこだわっている方々からすれば、強制加入団体としての対外的表明の性格そのものは変わらないのですから、何の解決にもならないことになります。しかし、実はこれまでだって日弁連・弁護士会の、弁護士自治に乗っかったそうした活動は、前記会員の「不問」で成り立ってきた現実が確かに存在しているのです。有り体に言えば、「不問」にできた経済的環境が「改革」によって崩れたという実態は否定できません。

     一番の問題は、弁護士会主導層を含め自治の重要性を強調し、絶対に死守しようとする側が、前記したような状況を理解していない、もしくはあえて直視しようとしないところにあります。さらにいえば、前記「不問」で成り立ってきた自治の現実を前提的に認めたがらない傾向もあるようにみえます。

     延々と、これまで通り、自治は権力から独立する弁護士の活動の生命線であり、それは国民のためのものである(だから、国民から信頼されているとか、国民の信頼に基盤を置いている)といった論法を繰り返すだけでは、どうにもならない、いつか会員も分かってくれる式の話ではない、ということの認識が必要だということです。弁護士自治を強調すれば、ネット上に「自治っておいしいの」と揶揄する、弁護士とみられるコメントが付く現実が、なにを意味しているのかを直視すべきです。
     
     その意味では、冒頭、かつてこの「改革」が選択されたときに、本気で危機感を持った人間がほとんどいなかったと書きましたが、ある意味、「改革」の明らかな結果が出た現在でも、擁護派の側の危機感が足りないということになります(「『弁護士自治』会員不満への向き合い方」)。

     これまでも自治擁護派の弁護士との会話で、このまま自治が全崩壊するくらいならば、極端な話、日弁連をいったん解体し、自治・強制加入を伴った刑事(国賠を含む)弁護士会のような全国組織を立ち上げ、刑事弁護や国賠を手掛ける弁護士だけが登録して、民事弁護士は解放し、なんとかその意義として、最も強調される権力を相手にする刑事弁護士らの独立だけは、そこを最後の牙城として死守する、という発想はあり得るのか、という話を、あえて振ってきました。

     刑事弁護だけが守られればいいという話ではないとか、技術的な問題、さらに決定的なのは、そうなると現在の日弁連から格段に対外的な力が失われる、弱体化する(数は力であり、まとまりこそ力という発想)という意見もあるようですが、多くの場合、そこまでの危機感はなく、そもそも方向として問題外という反応でした。

     それはともかくとしても、これまでの発想が通じない会員が着実に増え、また、それが生まれる環境も変わらないまま、無為無策のまま、弁護士自治の内部崩壊はじわじわと進行していくと思えてならないのです。


    弁護士会の会費についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4822

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    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事

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    No title

    スルガ銀行、担当弁護士が次々に辞める理由
    https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180914-00237744-toyo-bus_all&p=1
    >さらに危機管理委員会のメンバーも「第三者委員会の報告書が出た時点で、我々の依頼事項は全て終えた」(委員長を務めた久保利英明弁護士)として辞任した

    クボリンもいろいろ大変だねえ。

    No title

    司法試験合格、最少1525人
    https://www.yomiuri.co.jp/national/20180911-OYT1T50091.html?from=ytop_main3
    >合格者は1525人で、前年から18人減少。法科大学院修了生の受験が始まった2006年以降、受験者数・合格者数とも最少を記録した。

    多分ブログ主殿の今日の記事更新はやはり司法試験合格者数についてでしょう。

    ↓そんな悲観的なことを言ってはいけません。そんな中でも胸躍らせて法曹界に入ってきた新しいセンセイ方がいらっしゃるのですから。

    No title

    弁護士自治なんてなくて結構
    そんな絵に描いた餅を死守するために何を擬制にしてきたのか。

    まあ、もう何を言っても手遅れだし。
    弁護士も裁判所も国民の信頼を失って久しいし。

    No title

    そういえばあの総会の委任状事件って、どうなったんだ?
    懲戒するだの何だのと騒いでいたが

    No title

    黒猫さんのコメントに、いいね!を押したい。

    No title

    https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35142470Y8A900C1CC0000/
    >中村弁護士は2016年7月、県内の女性の破産を裁判所に申し立てた際、元夫から受け取った100万円を報告しなかった。弁護士会は破産法が禁じる財産の隠匿に当たり「品位を欠く」と指摘。中村弁護士は会の聴取に「離婚を知られたくないという女性の意思を考慮した」と述べたという。

    依頼者のために精一杯考慮したのに業務停止1月

    懲戒の基準がわからん
    タクシーで後ろから蹴り上げ暴言の弁護士と同じ処分じゃん

    No title

    一般に,自治組織が本来の機能を果し得るのは,会員数500~700人程度が上限であると考えられており,会員数が数千人に達している東京や大阪の大規模単位会には,もともと「自治組織」と呼べる実態はありません。
    会員総会を開こうとしても,各派閥に動員をかけて,会則に定められた最低出席者数を確保するのがやっとという状況であり,議論によって会員の総意を形成すること自体が不可能です。弁護士会の会務も,義務として定められた最低限のことをやって,あとは知らん顔という人が大半です(派閥に入っている弁護士は別ですが)。
    特に若手会員には,弁護士会が「自分たちの組織」であるという意識はほとんどなく,むしろ弁護士会を国家権力機関みたいなものだと考えている人の方が多いでしょう。だから,弁護士会から懲戒処分を受けても,これを「弁護士会による不当な弾圧である」などと主張して,むしろ勲章にするような弁護士が出てくるのです。
    逆に,会員数が上記を下回る中小規模の単位会に属する弁護士からは,「まだ弁護士自治は機能している」という意見が出てくるかも知れません。実情は地方によってだいぶ異なると思います。

    No title

    会費は対価じゃないというのが趨勢なので、会費が対価として高すぎるという不満はまったく考慮に値しないというのが、業界内での一般的な見解です。

    もっとも、その会費が、どう有効に使われているのかというと、かなり疑問ですが。

    会費払うのがきつい若手からの突き上げがないと、なかなか動かないでしょうね。
    ただ、若手は会務に積極的ではないので、自然消滅的に会務が廃れて、運営資金が減っていき、その結果、会費も減らせるかもsれいないなと思っています。

    No title

    そうだとしても、
    ・会費減免などを公約に掲げても選挙で勝てない
    ・会費減免が総会の俎上に乗らない
    ことを考えれば、誰も本気でそんなことは考えていないのだろう。

    また、自治の危機を叫んだとしても実際問題
    自治の崩壊を目論む勢よりも、実際に自治の危機となれば自治死守勢のほうが桁違いに大きくなるのだから(揶揄はしても真実自治の大切さは弁護士ならば理解できてしかるべきなのだから)
    未だそこまで本気になる必要もない。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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