弁護士の自己防衛は不吉な兆候

     弁護士という仕事が、人から恨みをかう仕事であることは、なんとなくみなさんも想像がついているとは思います。このことは弁護士自身からもよく耳にしてきました。

     考えてみれば、勝ち負けが生じる裁判という仕事をしているわけですから、少なくとも半数の当事者から悪くいわれる、なんていう人がいます。両当事者が完全に納得できるというケースは少ないのです。

     また、みなさんの中には、重大事件の被告人の弁護人に対して、「なんでこんな奴の弁護をするんだ」と思われた方もいるかもしれません。犯罪の容疑をかけられていても、彼らの人権は守り、正当な裁判を求めていくのは弁護士の職責ですから、彼らが責められるのは全くの筋違いですが、弁護士は度々「悪」の擁護者として誤解されます。時に社会全体を敵に回すことも覚悟しなければなりません。

     弁護士は必ずしも多数者の擁護者ではなく、少数者の立場にも立たなくてはなりません。少数者が人権を侵害されていれば、その擁護者たる弁護士も、同様に人権侵害の対象になるケースは諸外国をみればいくらもあります。

     これほど業態が攻撃される仕事も、ちょっと思いつきません。昨年も横浜と秋田で業務に絡んで弁護士が刺殺される事件が発生しました。

     弁護士が業務に絡んで攻撃されることは、ある意味特別な意味を持ってしまいます。言うまでもなく、それは司法の否定につながるからです。犯行者は、そこまでのことを考えず、ただ恨んで行ったことであったとしても司法関係者への襲撃は、司法によって紛争が解決されるという基盤が否定されたことになります。その向こうに待っているのは、暴力の前に正義が委縮しかねない社会です。

     以前、弁護士界では民事介入暴力などにかかわる弁護士を中心に、業務妨害というテーマでこうした問題は取り上げられてきました。その後、弁護士界の中で、弁護士の自己防衛という意識が広がったのは、あのオウム事件の坂本弁護士一家のケースがあってからといわれています。

     そのころから、日本弁護士連合会の会員名簿からも自宅の住所の抹消希望が増え出しました。当初、弁護士の中には、「弁護士は24時間、依頼者とコンタクトをとれるためにも、この対応はおかしい」とか、「逃げの姿勢ではないか」といった疑問視する見方もありましたが、今は完全に自己防衛やむなしの空気になっています。

     とりわけ、今回の横浜の事件を受けて、日弁連も法律事務所訪問直前に当事者との間で感情的な言動があった場合の面会回避などを対策として呼びかけました。また、弁護士の中には、知人や弁護士会などの紹介者がいる事件のみ受忍し、飛び込み案件を受忍しないといった自己ルールを作っている人もいます。

     現実は、弁護士増員の影響で、経済的に困窮し、そんなことはいってられない弁護士も沢山いるとは思います。ただ、弁護士が結果的に間口を狭めるということになるのだとすれば、その向こうに待っているのも、また、正義が委縮した社会であることを忘れてはいけないでしょう。

     弁護士が自己防衛に傾かざるを得ない状況は、やはりこの社会にとっては、不吉な兆候なのです。

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ



    スポンサーサイト

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR