新法曹養成「時短化」をめぐる思惑と現実

     法科大学院制度を擁護する方々の論調のなかで、時々、時間的負担軽減の重視は、最短で法曹になるメリットを強調する、志望者への「誤ったメッセージ」になるという懸念論が異口同音に言われるのを目にしてきました。中教審の部会でも委員から、そんな意見が出されています。

     しかし、こうした捉え方に接する度に、奇妙な気持ちになります。いうまでもなく、最短で法曹になる途を選択することは、ある意味、志望者としては当然のことではではないか、と思うからです。志望者に、そう考える方向で伝わることを、なぜ、彼らはことさらに「誤ったメッセージ」として懸念するのでしょうか。そして、それが制度が志望者減という現実の前に、時間的負担軽減をテーマとせざるを得なくなり、その観点から「法曹5年一貫コース」(「どうなの司法改革通信」Vol.100)が時短的発想で提案される状況になった、いまでもなお、いわれている奇妙さでもあります。

     この捉え方には、彼らが予備試験の現実について、さんざん被せてきた「抜け道」論を重ねてみることができます。つまり、まず、法科大学院というプロセスの教育的価値が存在し、いかなる形であれ、それを回避することになる時短的発想は、法曹志望者として、基本的にあってはならない「心得違い」と決め付けている格好です(「予備試験『抜け道』論者の心底」)。時間的負担は軽減しなければならないが、かといって時短のメリットを前面に打ち出すとなると、プロセスの価値を自ら後方に押しやりかねないし、もっといえば、批判してきた「抜け道」と同じ土俵で「価値」を示すことになる――というのが、彼らの懸念でしょうか。

     しかし、二つの点について、彼ら懸念する側は認識していない、もしくは目をそらしているようにみえます。一つは選択される「価値」としての敗北。つまり、志望者が新プロセスを回避して、より早く合格できる道を選ぶのは、現実的にそれでも法曹になるうえで、なんら支障がないことを見切っている、ということです。要は、わざわざ周り道をする「価値」を(少なくとも経済的時間的投資に見合うほどには)今のところ見出していないからこそ、彼らは何の躊躇もなく、当然のごとく、早く法曹なる道を選んでいる。

     そうなると、制度側が時短を意識せざるを得なくなった時点で、「価値」の勝負では、ひとまず敗北しているということになります。彼らが、予備試験が利用される現実を「抜け道」と位置付け、制限する方向を示唆したり、合格者増さえしてくれれば、新プロセスの「価値」も見直されるはず、といったことを指摘するのを見るにつけても、教育そのものの「価値」、また結果が示す社会的評価で勝負することを断念している、もしくはその勝負の結果を待っていては、制度が持たないと考えているとしか、とれないのです。

     そして、もう一つは時系列に考えたときの新プロセスの無理です。前記彼らがあえて懸念してみせていることは、要は司法試験合格を急ぐあまり、肝心のプロセスの教育が疎かになることについてです。それは、法曹志望者として「心得違い」なんだと。しかし、そのプロセスの教育が、(あるいは長い目でみて)法曹として価値あるものになるとしても、合格しないことには、あるいはそれらの意味がなくなるかもしれない状況で、実の入った学習が果たしてできるのか。逆に教育の時期としても、本当にふさわしいのか。受験を意識しないで済む合格後に教育される方が、環境として適切なことは明確ではないでしょうか。

     このどうにもならない、宿命的な新プロセスの位置取りを分かっていればこそ、合格不安を解消するために、他力的に合格者増を要求しているというのであれば、その点は辻褄があうといえなくはありません。しかし、これは制度存続のためということでは、導かれても、資格制度の在り方としてどうなのかが問われるはずです。法科大学院入学時に、相当厳しい関門を設けるのであれば、また別ですが、現在の実績だけで、新プロセスの「価値」のために合格不安を解消する司法試験合格率を提供するという形になるのが、本当にこの資格にとって望ましいのか、ということです。なぜならば、法曹養成として、この新プロセスは、単年度2割台しか司法試験という関門を突破させられていないという、はっきりした実績が存在しているからです(「法曹『選抜機能』の行方」 「新法曹養成制度の実力という視点」)。

     将来的には、必ずや予備試験組といった本道回避者に違いをみせつけるであろうという期待のうえに繰り出される、新プロセスの「価値」への配慮によって、肝心な資格の保証を脅かすことはないのか、という話に当然なってよいところだと思います。

     最近、前記「法曹5年一貫コース」について、政府・与党が時短策として検討を始めたことを報じた大新聞が、その記事の中で次のように書いています。

     「法科大学院は法律家としての判断力や倫理を養うために設置された。ところが、予備試験が『抜け道』になり知識偏重の是正という改革の趣旨は揺らいでいる。与党関係者は『司法試験合格者の中にも、早くに予備試験をパスした方が、法科大学院修了者より優秀だという意識を持つ人がいると聞く。法科大学院が魅力を取り戻さなければ改革そのものが問われる』と指摘する」(5月18日付け、毎日新聞「政府 法学部『3年卒』検討 法科大学院『失敗』に危機感」)

     記事は、政府・与党も、時短策を「法科大学院離れ」への歯止めとして期待していることも伝えています。予備試験をいくら「抜け道」呼ばわりしても、それが「知識偏重」の実害も、それを是正する「価値」も、制度が実証できていない現実の裏返しである。だからこそ、早期予備試験パスした方がが優秀だと意識を持つ合格者を、頭から「心得違い」とはできない。そして、その現実からすると、「取り戻さなければ改革そのものが問われる」法科大学院の「魅力」とは、「時短」ではないはず――、ということに、どうもこの記事を書いた記者は気付いていないようにみえてしまうのです。 

     志望者減の現実を前にして、法科大学院擁護派から繰り出される司法試験合格率「主因説」が、弁護士の経済的価値の下落に対する志望者意識を無視している(「司法試験合格率『主因説』が無視するもの」)のと同様、時間負担軽減という制度見直しの方向にも、どうも制度にとって都合のいい現実に対する描き方がなされているように思えてなりません。


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    No title

    一番いいのは、司法試験の廃止。
    誰でも弁護士を名乗れるようにする制度。

    法曹養成制度改革って「弁護士」が増えればいいんでしょう?
    そのために、これまでも、バカでも司法試験に受かるようにしてきた。

    ならば、その考え方を徹底し、誰でもかれでも弁護士を名乗れるような制度にすればよいのでは、と思うんですが。

    司法試験を廃止すれば、法科大学院も要らなくなりますよね。
    もとより、税金の無駄遣いだし、要らないとは思っていますが。

    No title

    どうしても法科大学院を王道のコースにしたいなら
    ①在学中の予備試験合格(+場合によっては退学して法曹を目指す)を認める
    ②法科大学院を卒業したのならば、5年5回ルールを撤廃する
    ③法科大学院を卒業したのならば、科目免除等の優遇を与える(税理士や中小企業診断士等の試験の科目免除も含む)または何かの法律家資格そのものを与える。
    くらい必要だと思いますね。

    他のものをもらっても「いらんわ」としか。
    ゴミにもならんわ。

    No title

    それよりも定期総会の記事を期待していたのですが。
    ハッシュタグはあったものの、今回はかなり時間をかけたにしては
    ぐだぐだ感が……。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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