弁護士過疎対策の本当の壁

     過疎地での弁護士確保が困難になっている現実をNHKがローカル番組で取り上げています(ホットニュース北海道「過疎地域 弁護士確保の課題」、5月11日放送)。番組は、北海道にしか流されませんでしたが、現在もネットで見ることができます(北海道 NEWS WEB)。

     道内には12の日弁連設置の公設事務所があり、派遣期間2~3年で、毎年過疎地勤務希望の弁護士が2、3人派遣されてきたが、このところ応募者が減少し、昨年度は1人だけ。スポットが当てられた、3年前開設の本別町の公設事務所に勤務する34歳の弁護士は今月で任期を終え、公務員への転職を考えているが後任は決まっていない、としています。

     「ゼロ・ワン」対策といわれてきた、日弁連の弁護士過疎地対策が壁にぶち当たっていることをうかがわせる内容です。番組は、過疎地赴任を希望する弁護士が少なくなった背景として、「ここ数年、弁護士のなり手が一時期に比べて減少し、都会の事務所に就職しやすくなったことも原因」とし、「このまま希望者が減り続けると公設事務所の任期を終えた弁護士も後任が決まるまで居続けなければならず、ますます希望者が出なくなる悪循環に陥る」としています。また、公設事務所がこれまで過疎地勤務を希望する弁護士の「熱意だけで支えられてきた」がそれが限界を迎えている、という認識を示しています。

     これらの現状認識は、基本的に正しく現実を伝えていると思います。ただ、問題はそこから先の捉え方です。「移動距離に応じて手当てを増やすとか、事務員を無償でつける」など「現場場の苦労を減らす、具体的な対策」を弁護士会に求めるだけで、この番組を終えているのです。それは、「熱意だけで支えられてきた」という前記現状認識からは、むしろちぐはぐな感じがします。いってみれば、この対策がなぜ、「熱意だけで支え」てこざるを得なかったのかに、踏み込まずに、答えを導きだそうとしてるようにとれてしまうからです。

     弁護士過疎対策は、弁護士増員政策の一つの根拠とされましたが、実際に「ゼロ・ワン」地区解消に導いたのは、同政策ではなく、むしろ「有志の精神」だと、これまでも書いてきました(「弁護士過疎と増員の本当の関係」 「弁護士増員をめぐる『改革』の外れと執着」)。つまり、弁護士の総数を増やせば、コップの水が溢れるように、都会から地方に弁護士が流れるとか、増やせばそれだけ勇者も増える式の発想で、過疎が解消されていくという単純なイメージ化はできない、ということです。

     そこには、つとに業界内でささやかれてきたように「『ゼロ・ワン』はなぜ『ゼロ・ワン』として、そこに存在していたのか」という問題が横たわっているということです。つまり、「存在しない」ということには、弁護士業を成り立たせる経済的事情が厳然と横たわっており、まず、そこからアプローチしなければならないはずだということです。必要論が強調され、採算性の不足を有志の精神、ここでいう「熱意」で支える制度が立ち行かなくなるのは目に見えていたというべきなのです。

     ここで問われるべきは、そもそもそういう発想ではなかったのか、ということ。むしろそれを考える地点に戻るべくして戻ったのではないか、ということなのではないでしょうか。日弁連の過疎地型法律事務所(ひまわり基金法律事務所)には、所長が退任後、同地域で引き続き個人事務所として開業している、いわゆる「定着」が実現しているところがあり、地域や個人の事情で問題解消の可能性にもバラツキがあります。しかし、この番組の結論のように、弁護士会になんとかしろ、と投げかけるだけで、なんとかなる問題とはとても思えません。弁護士会が結局、経済的に持ち出すという形の対策は、いうまでもなく、会員の持ち出しであり、それまた弁護士増員が招いた経済事情のなかでの持ち出しであることを考えなくてはなりません。

     ましてや「なり手の減少」だけを切り取って、前記発想に立ち返り、だから弁護士は増やし続けろ、という結論になっては、元も子もないといわなければなりません。地域で必要ならば、行政が捻出するなど、会を含めた弁護士持ち出し以外の経済的支えが検討されなければ、早晩壁にぶち当たる。インフラといわれながら、それほどには必要性を重んじて捻出されない、あるいは検討されないという弁護士の扱われ方そのものを悲観する声は業界内にありますが、避けて通れない根本問題はそこにあるというべきです。

     番組冒頭、今月札幌市内で行われた、弁護士志望の学生たちを集めた説明会で北海道弁護士会連合会理事長が、こう語る姿が映し出されていました。

     「北海道の弁護士には、この司法サービスを広い北海道の隅々まで行き渡らせる極めて重い使命を負っている」

     その自覚そのものは、正しいという人ももちろんいると思います。ただ、この言葉だけを切り取られると、政策が一つの結論に到達しても、やはりまだ「有志の精神」に訴えているような、そして、同じことが繰り返されてしまうような、そんな気持ちにさせられてしまうのです。


    地方における弁護士の経済的ニーズの現状についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4798

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    超過疎地は法テラスが運営したらよろしい。
    そもそも弁護士なんて日陰の仕事でさ、嫌われ悪口しか言われてねーんだぜ?なにが市民ガーだよ。その市民ガーが敵になるんだぜ。
    これだけの会費を取られて、殆ど市民ガーのための会務活動に費やされ、それでいて悪口と不当懲戒攻撃ですよ?これが、日々の生活費や運転資金に先んじて血涙のごとく捻出して費やしてきた会費に対する、市民ガーの回答ですよ?まだ市民ガーとか言ってんの、甘くね?
    重鎮どもはなんつってるか知らねえけど、若手は、なにが市民ガーだ会務だアホらしい、仕事だけしてよーぜ、ですよ。
    会務必死でやってるやつは売り上げ上がらず、事務所からは白い目で見られるし、独立していながら会務しているやつは青息吐息で、どちらも成仏寸前ですよ、かわいそうに。なんの報いもないからね。
    かといって、そいつらがそんな価値あることやってるかと言われると、おっさんどもの下らん議論を議事録にしたり、名簿を作ったり、スケジューリングしたり。弁護士がやる必要ないんだよね。中身も別にハイグレードでもない。よく頑張ったね、というレベルにすぎず、中身に意味があるものにお目にかかることがない。成仏しかけの同期に申し訳ないが、犬死にだなと思ってしまう。

    会務を振る連中は、自分とこのイソ弁に会務やらさないからな。要は、動いてくれる若手を踏み台にして、重鎮の功績にしたいだけ。
    稀にイソベンに会務振ってる事務所を見るが、イソベンにとってはなんの経験値にもならんので、不満タラタラ。

    つまり、会務って誰のためにもなってなくて、弁護士を縛ってるだけ。金の浪費。キャバクラの方が無駄遣いではない。

    こんな構造をなくすためにも、弁護士会はなくした方が良いと思ってる。あるいは、誰のためにもなっていない会務などやめてしまうが良いと思ってる。

    No title

    日弁連の過疎地対策は、刑事弁護の為ならば犠牲を犠牲と思わない刑弁族のエゴと地方会の妥協の産物。

    ・刑事弁護人の役割増大(負担を増やす)を狙う刑弁族
    ・刑事弁護の負担を減らしたい地方会

    ところが、こんな姿が露骨に表れれば応募する者がいないので、やりがい搾取的なキャンペーンがぬかりなく行われている。

    これ以上、騙されて、人生を台無しにする弁護士を増やしてはならない。派遣弁護士達の人生設計は、滅茶苦茶にされている。

    No title

    行政からの支援も必要だ、という方向で話が進んでくれれば良かったのですがね・・・
    あと、一応、渡辺先生の任期は、来年3月までで、現在は後任の応募期間中(締め切り5月末)ということなので、「今月末で任期を終え」、というのは誤情報なんですよね・・・

    No title

    次の日弁連会長には、公設事務所を廃止するという公約を掲げて頂きたい。

    No title

    >問題はそこから先の捉え方です。「移動距離に応じて手当てを増やすとか、事務員を無償でつける」など「現場場の苦労を減らす、具体的な対策」を弁護士会に求めるだけで、この番組を終えているのです。

    北海道の弁護士会が率先して番組に対して抗議しなければ製作側にも視聴者にも本当の理解などされない。
    制作側が「日弁連が設置した公設事務所だから(弁護士が)手当を増やし事務員を無償でつけるのが当然」と心の底から理解して番組を制作したのであれば、そもそもの捉え方が間違っている。
    取材を最初からやり直していただきたいものである。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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