依頼者からの「自己防衛」
依頼者の「質」というテーマが、弁護士の中で、かつてより語られるようになっています。とりわけ、これが弁護士側の、いわば「自己防衛」として語られ、それが強調されるようになったとことは、明らかに司法改革が生み出した新たな変化であり、「改革」の副作用といえます(「『厄介な方々』と向き合う弁護士」)。
最近も、まさに「自己防衛」のためととれる提案をしている弁護士ブログの記述がありました。タイトルは「受任に慎重になるべき場合(弁護士向け)」(「弁護士業務と法律ネタ帳(弁護士大西洋一)」)。ここでブログ氏は、程度によると断ったうえで、弁護士が受任に慎重になったり、受任していても辞任を検討した方がいい依頼者や案件を列挙しています。
あくまで「弁護士向け」と断っていますが、これは実は利用者市民側も、知っておいていいことのように思います。利用者側からすれば、弁護士の「自己防衛」などと言われれば、あまりいい印象ではないかもしれませんし、一つ間違えれば、またぞろ弁護士の「心得違い」批判につながりかねない面もあります。しかし、逆にこれを理解しておかなければ、依頼者側は不当に拒絶されたという捉え方のままになることも考えられますし、弁護士に対する誤解も晴れず、関係性は変わらないと思えるからです。
詳細は、是非、お読み頂ければと思いますが、列挙されている項目だけ抜き出すと、次のようになります。
・ 偏見が強く、聞く耳を持たず、頑固な相談者。
・ 妙に他罰的、妙に被害意識が強すぎ、妙に攻撃的な依頼者。
・ 訴訟等の制度の理解を全くしてくれない依頼者。
・ コミュニケーションがきちんと取れない依頼者。
・ 弁護士費用の見積もりを出したのにすぐ依頼するとの返事が来ない場合。
・ こちらが、今は依頼した方がよいタイミングだと言っているのに様子を見ようとする相談者。
・ 助言を聞かずに、独自に色々動いて混乱させる依頼者。
・ ウソをついている相談者。※積極的なウソに限らず、普通なら説明すべきことを説明しない(=隠し事をしている)場合を含む。
・ 普通の弁護士なら依頼を受けても良さそうな事件なのに、他の弁護士が依頼を受けない事件。
・ 他の弁護士が降りている(=辞任している)事件。
・ 解任を2回以上している相談者。
・ 「受けてくれますよね?」と、必死にお願いしてくる相談者の事件。
・ すぐに他の弁護士の説明を引き合いに出す相談者。
・ 値切ってくる依頼。
・ 前回打ち合わせでこちらが言っていないことを前提にしたり、前回の回答を曲解してきたり等、以前の話と今回の話で話がかみ合わないタイプの相談者。
・ 事案内容と比例していないレベルで感情が入っている相談者。結果請負を求めてくる依頼。
・ 相手を懲らしめたい、相手に意地悪をしたいと述べている依頼者。
・ 方針に納得していない依頼者。
・ 勝ち目がない事件。
・ 法的にあれこれこねくり回した処理の後始末的な事件。
・ 顧問弁護士がいる企業なのに顧問弁護士が動いておらず、なぜか自分に相談が来ているような場合。
・ 意思決定者(相談案件の方針決定権限のある人)や当事者と打ち合わせできないor打ち合わせしづらい事件の依頼。
・ 完全に費用倒れになる事件。
・ 形だけ代理人になって欲しいと依頼(紹介)される事件。
・ 古い事件。
・ 巨額な金銭請求を受けている被告事件。
結論からいえば、ここに列挙されていることは、業界内で言われていることを、実に的確に網羅していると思います。「古い事件」「巨額な金銭請求」など、これだけみると、一概に問題視できないととらえられてしまうものもありそうですが、何が弁護士にとってリスクなのかは、本文の解説をお読み頂きたいと思います。
また、依頼者目線で見たときに、依頼者側の責任だけにできず、コミニュケーションを含めた弁護士側の能力にもよる、という見方もあるかもしれません。さらにいえば、同業者のなかにも、あくまで、こちらがプロとして受けとめるべき、という方向で異論を唱える方がいておかしくありませんし、これまでも散々それを割りきって接してきた、という方を強調される方もいそうです。相談者の嘘についても、かつてそれを含めて弁護士は考えよ、と指南したベテランもいました(「弁護士に関する苦情(3)『素人扱いされた』」 「『依頼者の嘘』というテーマ」)
ただ、それを踏まえたとしても、注目すべきなのは、今、弁護士は、まさにこういう捉え方で、「自己防衛」を考えなければならない、それが現実問題になっているということの方です。
いくつかの背景があります。一つはネット環境の存在が聞かれます。かつてと違い、依頼者がネットでさまざまな情報が入手できるなかで、中途半端な知識や自分に有利な知識を鵜呑みにしていることが、弁護士への不必要な不信感を招いたり、指南への反発につながっているという面です。医療の分野でも、「グーグル病」などといわれる、ネット情報の鵜呑みに医師が困惑している実態も伝えられていますが(J-CASTニュース)、同様のことが弁護士の利用者にも起こっている、ということになります。
しかし、このこともさることながら、今、業界からより聞こえてくるのは、弁護士と利用者市民の関係が、この「改革」によって根本的に変わってしまった、ということです。別の言い方をすれば、依頼者側の弁護士に対する目線が変わった、と。増員政策によって、もはや希少な存在ではなくなった弁護士資格の重みがなくなり、その指南への軽視や、欲求の高まりとともに、「弁護士はいくらでも他にいる」といった意識から、自らの希望にこたえられない指南であれば、弁護士を変えればよし、という捉え方が、結局、耳を貸さない利用者を生んでいる、という話です。
これは、ある意味、皮肉なことかもしれません。この「改革」のなかで、「敷居が高い」と自省的に弁護士がとらえたことも、セカンド・オピニオンも含めて、依頼者が弁護士を選択できる環境が生まれることも、悪いことではないはずだった。しかし、実際に「改革」がもたらしているものは、依頼者と弁護士の関係性として望ましくなく、弁護士は「自己防衛」に行きついている――(「資格価値の暴落と『改革』への認識」)。
「改革」の影響として付け加えれば、多くの弁護士はただでも経済的余裕がありません。かつてその余裕のなかで受けとめられたことでも、もはや現実問題として受けとめられないこともあり、前記したようなかつてのような、先輩弁護士の割り切り方も、「古き良き時代」の産物ということになっもおかしくありません。この「改革」によって、弁護士と依頼者の関係は、果たしてかつてよりも望ましい、そして両者にとって有り難い向かっているのか、という視点で、弁護士の「自己防衛」を見る必要がありそうです。
今、必要とされる弁護士についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4806
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あくまで「弁護士向け」と断っていますが、これは実は利用者市民側も、知っておいていいことのように思います。利用者側からすれば、弁護士の「自己防衛」などと言われれば、あまりいい印象ではないかもしれませんし、一つ間違えれば、またぞろ弁護士の「心得違い」批判につながりかねない面もあります。しかし、逆にこれを理解しておかなければ、依頼者側は不当に拒絶されたという捉え方のままになることも考えられますし、弁護士に対する誤解も晴れず、関係性は変わらないと思えるからです。
詳細は、是非、お読み頂ければと思いますが、列挙されている項目だけ抜き出すと、次のようになります。
・ 偏見が強く、聞く耳を持たず、頑固な相談者。
・ 妙に他罰的、妙に被害意識が強すぎ、妙に攻撃的な依頼者。
・ 訴訟等の制度の理解を全くしてくれない依頼者。
・ コミュニケーションがきちんと取れない依頼者。
・ 弁護士費用の見積もりを出したのにすぐ依頼するとの返事が来ない場合。
・ こちらが、今は依頼した方がよいタイミングだと言っているのに様子を見ようとする相談者。
・ 助言を聞かずに、独自に色々動いて混乱させる依頼者。
・ ウソをついている相談者。※積極的なウソに限らず、普通なら説明すべきことを説明しない(=隠し事をしている)場合を含む。
・ 普通の弁護士なら依頼を受けても良さそうな事件なのに、他の弁護士が依頼を受けない事件。
・ 他の弁護士が降りている(=辞任している)事件。
・ 解任を2回以上している相談者。
・ 「受けてくれますよね?」と、必死にお願いしてくる相談者の事件。
・ すぐに他の弁護士の説明を引き合いに出す相談者。
・ 値切ってくる依頼。
・ 前回打ち合わせでこちらが言っていないことを前提にしたり、前回の回答を曲解してきたり等、以前の話と今回の話で話がかみ合わないタイプの相談者。
・ 事案内容と比例していないレベルで感情が入っている相談者。結果請負を求めてくる依頼。
・ 相手を懲らしめたい、相手に意地悪をしたいと述べている依頼者。
・ 方針に納得していない依頼者。
・ 勝ち目がない事件。
・ 法的にあれこれこねくり回した処理の後始末的な事件。
・ 顧問弁護士がいる企業なのに顧問弁護士が動いておらず、なぜか自分に相談が来ているような場合。
・ 意思決定者(相談案件の方針決定権限のある人)や当事者と打ち合わせできないor打ち合わせしづらい事件の依頼。
・ 完全に費用倒れになる事件。
・ 形だけ代理人になって欲しいと依頼(紹介)される事件。
・ 古い事件。
・ 巨額な金銭請求を受けている被告事件。
結論からいえば、ここに列挙されていることは、業界内で言われていることを、実に的確に網羅していると思います。「古い事件」「巨額な金銭請求」など、これだけみると、一概に問題視できないととらえられてしまうものもありそうですが、何が弁護士にとってリスクなのかは、本文の解説をお読み頂きたいと思います。
また、依頼者目線で見たときに、依頼者側の責任だけにできず、コミニュケーションを含めた弁護士側の能力にもよる、という見方もあるかもしれません。さらにいえば、同業者のなかにも、あくまで、こちらがプロとして受けとめるべき、という方向で異論を唱える方がいておかしくありませんし、これまでも散々それを割りきって接してきた、という方を強調される方もいそうです。相談者の嘘についても、かつてそれを含めて弁護士は考えよ、と指南したベテランもいました(「弁護士に関する苦情(3)『素人扱いされた』」 「『依頼者の嘘』というテーマ」)
ただ、それを踏まえたとしても、注目すべきなのは、今、弁護士は、まさにこういう捉え方で、「自己防衛」を考えなければならない、それが現実問題になっているということの方です。
いくつかの背景があります。一つはネット環境の存在が聞かれます。かつてと違い、依頼者がネットでさまざまな情報が入手できるなかで、中途半端な知識や自分に有利な知識を鵜呑みにしていることが、弁護士への不必要な不信感を招いたり、指南への反発につながっているという面です。医療の分野でも、「グーグル病」などといわれる、ネット情報の鵜呑みに医師が困惑している実態も伝えられていますが(J-CASTニュース)、同様のことが弁護士の利用者にも起こっている、ということになります。
しかし、このこともさることながら、今、業界からより聞こえてくるのは、弁護士と利用者市民の関係が、この「改革」によって根本的に変わってしまった、ということです。別の言い方をすれば、依頼者側の弁護士に対する目線が変わった、と。増員政策によって、もはや希少な存在ではなくなった弁護士資格の重みがなくなり、その指南への軽視や、欲求の高まりとともに、「弁護士はいくらでも他にいる」といった意識から、自らの希望にこたえられない指南であれば、弁護士を変えればよし、という捉え方が、結局、耳を貸さない利用者を生んでいる、という話です。
これは、ある意味、皮肉なことかもしれません。この「改革」のなかで、「敷居が高い」と自省的に弁護士がとらえたことも、セカンド・オピニオンも含めて、依頼者が弁護士を選択できる環境が生まれることも、悪いことではないはずだった。しかし、実際に「改革」がもたらしているものは、依頼者と弁護士の関係性として望ましくなく、弁護士は「自己防衛」に行きついている――(「資格価値の暴落と『改革』への認識」)。
「改革」の影響として付け加えれば、多くの弁護士はただでも経済的余裕がありません。かつてその余裕のなかで受けとめられたことでも、もはや現実問題として受けとめられないこともあり、前記したようなかつてのような、先輩弁護士の割り切り方も、「古き良き時代」の産物ということになっもおかしくありません。この「改革」によって、弁護士と依頼者の関係は、果たしてかつてよりも望ましい、そして両者にとって有り難い向かっているのか、という視点で、弁護士の「自己防衛」を見る必要がありそうです。
今、必要とされる弁護士についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4806
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