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    日弁連の「失敗」への姿勢

     「日弁連は失敗を認めない組織である」という捉え方をする会員が以前より増えた印象があります。こういう話をすると、「いや、日弁連は昔からそういう体質だ」という一部ベテランの声も聞くことになります。日弁連の主導層のなかにある、ある種のプライドや運動方針的な考えから生み出される、「無謬性神話」を貫こうとする姿勢が、かつてなかったか、と言われると、判断は難しいものになります。

     ただ、冒頭の印象は、明らかに今回の司法改革にかかわるものです。前記「無謬性」体質があったとしても、これまでの日弁連の歴史のなかで、ここまで広く、明確な形で尾を引くことなる執行方針の失敗が問われる、テーマそのものがなかった。要は今回の「改革」以前の日弁連には、ここまで多くの会員を巻き込み、その批判の目を向けられるような、そしてこの資格の未来を決定付けてしまうような、テーマを抱えることも、そうした局面に立たされることもなかった、という現実があります。少なくとも「改革」の結果への評価・姿勢は、「失敗を認めない」という体質への認識を、会内に浸透させることになったととれるのです。

     「改革」に対する失敗を認めないということは、歴史の改ざん・隠ぺいであるという捉え方もできます。「改革」の成立に至る経緯について、一貫して肯定的な捉え方をする「日弁連『改革』史観」に基づくといっていい推進派関係者の著作物や弁護士会史の記述、さらにこの結果に対する評価をめぐり、「改革」路線に呪縛されているような主導層の発言にも接してきました(「日弁連『改革』史観に基づく内向きアピール」 「『失敗』を認めない日弁連会長」)。

     法曹人口増員をめぐる、1990年代半ばの日弁連の迷走劇の経緯が、日弁連の正史「日弁連50年史」から抹消されている事実を取り上げた、小林正啓弁護士の著書「こんな日弁連に誰がした」の中の印象的な記述があります。同書を読む限り、小林弁護士の認識としては、司法試験合格者数の年1000人、1500人以上が法曹養成制度改革等改革協議会で議論されているなかでの、日弁連の1994年臨時総会での「800人」関連決議、翌年同での「1000人受け入れ案」の各採択は「失敗」で、日弁連が当時、人口増に徹底抗戦せず、早期に一定の増員に応じていれば、その後の増員の展開は違った。むしろこの姿勢は、仇になったというものにとれます。

     この評価については議論があるところだと思いますが、こうした経緯を歴史に留めない日弁連の姿勢について、彼は同書で次のように厳しく指摘しています。

     「この記述によって日弁連は、歴史を後輩に語り継ぐという責任を放棄した。自分のやったことさえ後輩に語り継げない日弁連に、歴史問題で偉そうな口を叩く資格もなければ、若手弁護士に対して、わけ知り顔で説教する資格もない」
     「筆者が最も腹立たしく思うのは、過去の執行部の失敗ではなく、失敗を語り継ぐという先輩としての責任の放棄である。なぜなら、失敗を後輩に語り継げない組織は、同じ失敗を繰り返して滅亡するからだ」

     これは、その通りだと思います。そして、この姿勢は、今の「改革」論議を知らない多くの若手会員の、「改革」の現状に対する評価に影響しているようにもとれます。結果に対する肯定的な評価からは、諦念が導き出されても、過去の失敗を克服して取り返すべきものも、現在、止めることができる失敗の継続も、見えてこないからです。

     日弁連が認めない「失敗」の歴史には、専門的職能集団には似つかわしくない、二つのキーワードが浮かんできます。それは、焦燥感と孤立への恐れです。「改革」当初の日弁連主導層のなかには、これまでの日弁連の活動の「成果」に対する焦りといら立ちがあったようにみえます。例えば、長年の悲願である「法曹一元」にしても、絶望的といわれた刑事司法にしても、あるいは法曹養成におけるイニシアティブにしても、日弁連活動の壁に対する焦りがあればこそ、その突破口を「改革」への期待につなげてしまった。

     裁判員制度を陪審制度への「一里塚」とし、刑事司法の現状打破の「風穴論」と結び付ける方向も、「法曹一元」現実化への担保と弁護士増をつなげたことが、激増の現実的無理という視点をぼやけさせることにつながったことも、さらに法科大学院制度を中核とする新制度に、最高裁支配の研修所教育から脱却した、弁護士会主導の法曹養成を夢見た弁護士を登場させたことも、活動「成果」への焦り・いらだちとつながっていた、といえるように思います(「『法科大学院』を目指した弁護士たち」) 。

     そして、その焦りに拍車をかけたのが、「改革」論議のなかで味わうことになった孤立への恐れだったようにみえます。「市民に近い法曹」という自信が、弁護士不足という切り口のなかで、「ニーズに応えていない」という方向からの、このままでは孤立するという恐れによって揺らぎ出した。自省的な受けとめ方と、ことさらに「市民のため」を強調する日弁連の「改革」主張は、それを反映し、そして逆に時に筋を専門的職能集団として、筋を通すためには多数派市民とも対峙する、孤立を恐れないという発想を後方に押しやり、さらには「オールジャパン」の名のもとに、対峙してきた権力との位置取りもぼやかす形で、「改革」の旗をふる側に回った――。

     前記小林弁護士が指摘した1990年代半ばの日弁連の迷走劇にも、執行部の焦りと孤立への恐れが読み取れるものでした。

     その結果どうなったか、といえば、「改革」に期待を被せた悲願達成は、いれもむしろ遠ざかり、逆に弁護士は失敗の代償として、経済的に安定した地位と資格の経済的な「価値」を失い、さらに弁護士会は会員離反と自治の内部崩壊の危機まで抱えることになりました(「激増政策の中で消えた『法曹一元』」 「弁護士の『地位』と失われつつあるもの」 「『弁護士自治』会員不満への向き合い方」)

      「改革」の結果について、弁護士会のなかに様々な評価の仕方があること自体が悪いわけではもちろんありません。ただ、焦燥感と孤立への恐れにとりつかれた日弁連は「失敗」しているのです。やはり「失敗」を後進に伝え、そこから学ぼうとするようには見えない「改革」と日弁連の現実は、小林弁護士が言った滅びへの道を進むものに見えてしまうのです。


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    No title

    スタ弁・契約弁護士激減で、法テラスがあたふたしている。やっていることはお笑いぐさで、既存スタ弁の年限撤廃くらい。数ヶ月前までの強気と高飛車はどこへやら。このまま滅びればいい。

    日弁連も数年後に弁護士人数が激減してからあわてるんだろう。ビジネスで一番大事なのは信用だが、信用より薄っぺらな体面ばかりを取り繕ってきたつけが回る日が来るのは、遠くない。

    No title

    >弁護士会が解散して残余財産を会員に分配するまでは、辞めたくはなかった。

    総本山の繰越金にしても、単位会の繰越金にしても、どちらにしても「解散して残余財産を」となるほど逼迫したものではないよ。
    本当にそんなふうになるには何十年もかかるだろう。
    (さすがにそうなる前には手を打つだろうし、皮肉なことに待遇の良さは「弁護士」より「弁護士会」のほう。解散するにしても弁護士会の役員や職員のほうがいろいろ手厚かったりして)

    72条があるからさすがに弁護士登録を止めて弁護士をするという奴はいないだろうし、なんだかんだいって
    >会員離反と自治の内部崩壊の危機
    は、ない。ツイッターやブログではいろいろ言っていても、いざとなれば文句を言いながらでも団結するだろう。

    ……と書いていて、それでも次の会長選挙はほぼ投票する奴はいない、○○行為になるだろうなと思った。

    会長選挙は投票しよう。会長候補者(予定)はマジで会費にメスをいれた政策を考えたほうがいいぞ。

    No title

    出口戦略を大体決めたから、弁護士会がどうなってもかまわない。ただ、弁護士会が解散して残余財産を会員に分配するまでは、辞めたくはなかった。

    「盗人に追い銭」になってしまったことだけが、無念。

    No title

    > もしかすると日弁連に対して堂々とものを申しているのが小林先生だけかもしれない)。

    歴史を知らないということは恐ろしいことです。小林弁護士が主流派に属し、宮崎誠元日弁連会長の陣営の方だということを知った上で読まれないと誤解してしまいます。

    No title

    取り上げる本が毎度おなじみ「こん日」っていうのも芸がない(悪い書籍とはいわない。もしかすると日弁連に対して堂々とものを申しているのが小林先生だけかもしれない)。
    最近出版された「クボリ伝」の先生など、宣伝も兼ねてインタビューなどあったほうがおもしろくないだろうか。
    ツイッターでご活躍の先生など、顔出しNGで結構だから「本音」を聞いてみたい。

    No title

    失敗の責任など誰もとらないし認めないのだから、記事の中で谷間世代に補助金をとかいってくれるほうがどれだけありがたいか……。

    No title

    日弁連という組織自体を解消するいい機会だと思うのですが。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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