弁護士への理解と敵対的世論

     凶悪事件の被疑者・被告人の弁護に対して、社会のなかの一部には、特別な反応が生まれます。

     「なぜ、こんな犯人の弁護をするのか」「本人も犯行を認め、はっきりと犯罪が成立しているのに、弁護は必要なのか」「こんな犯人の減刑を求めることが社会正義か」などなど。

     この手の疑問は、弁護士でも、市民からよく尋ねられるという話も聞きます。もちろん、こうした疑問に対しては、当然「適正手続きの保障」という観点での弁護士の役割や、刑事手続について説明が用意されるわけで、弁護士側からすれば、基本的には弁護士を含む制度への誤解という片づけ方になるとは思います。

     また、弁護士の中には、こうした弁護不要論を、誤解という意味ではレベルの低いものとみたり、あるいは取るに足らない意見ととらえている方もいるようです。知識のレベルという意味でとらえれば、それこそこうした現実を、今、注目され出している「法教育」の射程としてとらえる見方もあるかもしれません。

     さらにいえば、これまでも書いてきたように、弁護士という仕事には、宿命的にこうした誤解をはらむ面があることは否定できず、また、それは既に多くの弁護士のなかに覚悟としてあることでもあります。

     ただ、この問題は、実は軽くみることは決してできない、やっかいな側面を持っています。どんなに誤解だ無理解だといっても、こうした弁護不要論、もしくはそれと同じ方向を向いているととれる、弁護士の活動に対する批判的な見方は、事件を取り巻く世論に影響を与えたり、社会的なムードを形成しかねないからです。

     インターネットネットを媒介にして、こうした批判的な論調が、広く拡散して、社会的ムードを形成する環境があります。もちろん、これは正当な弁護活動への圧力になります。

     大阪府知事の橋下徹弁護士が2007年に、知事就任前に出演したテレビ番組で、山口県光市の母子殺害事件の被告人の弁護団への懲戒請求を呼びかけたことが、問題となりました。業務を妨害されたとして、広島弁護士会所属の弁護士4人が1人当たり300万円の損害賠償を求めた訴訟が最高裁に係属中で6月に口頭弁論が開かれることになっています。(一審1人200万円、控訴審同90万円の賠償を命じる判決)。

     この事件の衝撃は、橋下氏の取った行動よりも、その反響にあったといっていいと思います。実に8000件以上の懲戒請求が同弁護団関連でなされたという事実は、呼びかけ・扇動という行為の影響のみならず、そうしたきっかけで破裂する世論状況が形成されていたことも、うかがうことができます。

     無視できないのは、それが、弁護活動に対する社会への説明責任という視点、裏を返せば、社会が納得しない弁護活動を許さない世論というものの、台頭を予感させるものだということです。

     この状況は、今の裁判員制度時代を抜きには語れません。市民の常識、普通の感覚が司法に反映することの意義をうたう、この制度の思想の延長に、ある意味、「弁護士についても国民の常識が反映してもいいのではないか」という社会的ムードができる環境が整っているといえるからです。

     弁護士に対する誤解に属する認識が、国民の正義感で語られる時、正当な弁護活動への圧力となり得る世論は、見方によっては、もはや前記したものと同様の弁護不要論の圏内に入っているとみてもいいのではないか、と思えます。

     そして、裁判員制度時代の発想やムードが、あたかもそれらにお墨付きを与えているような誤解が、社会に醸成されつつあるともとれるのです。

     弁護士の仕事の、国民に理解されていない、もしくは理解しにくい部分が、国民の常識という視点で、語られることを、これまでより、弁護士は想定しておかなければならないかもしれません。一方で、弁護士のなかには、こうした状況が進むことが、さらに弁護士自身の刑事弁護離れを加速する、という見方もあります。逆風的な世論が想定される事件を引き受けたがらない傾向が強まるということも考えられます。

     弁護士は、ある意味、「国民」「市民」を強調してきた法律家です。ただ、一方で、弁護士は多数派世論にも、時に敵対して活動しなければならない仕事です。そうした実態がありながらも、意外と世論の「常識」を味方につけている、もしくはつけることの方が強く語られてきた面はあります。

     その意味では、敵対的世論とどう向き合うかが、今後、弁護士にとって、最も困難で、かつ、避けられないテーマになってくることもあるようにも思えます。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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