弁護士保険と日弁連の関係をめぐる弁護士の疑問

     トラブルに巻き込まれた市民の中にある弁護士費用への不安感解消という観点から、日弁連が進めてきた弁護士保険(権利保護保険)は、損害保険会社が自動車保険に付した弁護士特約として、それなりに一般化したイメージがあります。この特約の運用では、日弁連側の運営主体となっているリーガル・アクセス・センター(LAC)と協定を結んでいる保険会社の保険契約者が、この特約を利用したい場合、保険会社がLACに弁護士の紹介を申し込み、LACから各単位弁護士会に打診され、各弁護士会がLAC登録の弁護士に同案件を配点するといったシステムがとられてきました。

     実はいま、この弁護士保険と弁護士・会の関わり方を、疑問視する声が会内の一部から聞こえてきます。LACは昨年、前記紹介システムついて各弁護士会に規則制定を求め、そのモデル案を提示、それを受け、各会で検討・制定の動きが出ています。その背景には、このシステムでの担当弁護士の不適切処理が問題になっているということがあります。保険会社、弁護士双方に守秘義務の壁があり、会内でも事案に関する情報はほとんど共有されていないという実態もありますが、トラブルの多くは金銭トラブルとみられています。

     日弁連の規則制定の要請のなかには、「弁護士自治」が登場します。前記モデル案とともに、LACが提示した解説のなかに、次のような一文がありました。

     「もし、この状況をこのまま放置し、弁護士会により紹介される弁護士の質の確保がなされなければ、この弁護士紹介システムのみならず、弁護士そのものに対する信頼が損なわれかねず、弁護士は自治の観点からも問題となる恐れがあります」
     「また、弁護士会が紹介弁護士の質を確保できないとなれば、弁護士会に代わって保険会社自らが選別した弁護士(パネル弁護士)を紹介したり、保険会社が紹介弁護士の拒否権を留保するようなことも考えられるところ、そのような事態になれば、弁護士あるいは弁護士会の主体性が失われ、保険会社に従属するようなことにもなりかねません」

     そして、LACのモデル案のなかには、以下のような趣旨の規定が盛り込まれていました。

     ① 登録弁護士の名簿の有効期限を1年とし、自動更新とはせず、1年ごとに登録要件を確認する形にする。
     ② 弁護士登録期間が3年以上(「法曹経験」でなく「弁護士経験」)であることを登録要件とし、推薦の最低基準とする(研修による許可も)。
     ③ 過去3年間に懲戒歴があるものは登録の対象外とする。
     ④ 懲戒委員会の審査、綱紀委員会の調査の各対象になっていてるもの、過去1年以内に市民窓口への苦情申し出、紛議調停申し立てまたは懲戒請求が合計3回(同一事件当事者からの複数回苦情は1回と算定)で、会が名簿登録不適当と判断したものは登録できない。

     「損保のリクエストなのだろうが、ここまで損保におもねる必要があるのか」

     今回のLACの対応に、ある弁護士はこうもらしました。「質の確保」をうたいながら登録期間3年以上というのを弁護士会自身が提示する意味、弁護士歴3年以内ではLAC案件をやらせるべきでない、と会が判断してしまうことの当否です。内容問わず懲戒歴があるものを除外したり、さらには審査・調査対象の段階のものまで除外の検討対象にすることを、会自らに規定させようとしている点も議論になるところです。不適正処理の中身がはっきりしないなか、どこでそれがかみ合っているのかも、多くの会員には分かりません。

     ④については、会に判断をゆだねながら、1年に別人3人から苦情がもたらされる会員は「本人の適格性に問題があると推認される」から「『不適切』と判断いただきたい」とか、「弁護士会(会長)が非行の客観的事実を知りながら当該弁護士を推薦することが、依頼者及び協定保険会社の信頼を損なうことにならないか」を基準に判断をお願いしたい、と付言する念の入れようも、会員の前記したような感情につながっているようです。

     会員の感情には別の現実的な背景もあります。それはLAC案件の経済的な妙味のなさ、という点です。複数の会員の感想として、小さな物損を争う事件(修理費10万円など)、人損であってもせいぜいむちうち症のケースなど事件としてはやや小さいものがほとんど。「損保は大きい案件は従来からの顧問弁護士に回し、小さい案件をLACに回しているのではいか」という、疑念の声が異口同音に聞こえてきます。そもそも交通事故事案自体、近年、専門を看板にする事務所の独占化が進んでいることもあって、一般の事務所では以前のように扱えなくなりつつあるという傾向もあります。現実的な経済的な妙味から、交通事案さらにLAC登録から手を引くという弁護士も少なくないなかで、今回の対応はLACに対する会員の冷ややかな感情をさらに高めるとの見方もできるのです。

     前記LACの解説に出てくる「弁護士自治」という言葉の使い方は、先般の「依頼者見舞金制度」創設を求める日弁連執行部の提案の中のそれとほとんど被って見えます(「『改革』を直視しない弁護士不祥事対策」)。不祥事をこのまま放置すれば、弁護士の信頼が失われ、やがて弁護士自治まで失われる、と危機感に訴える形です。もはやそれが会員の心にストレートに響かなくなっているのは、その弁護士自治を支えるはずの個々の会員側に、日弁連・弁護士会が立っていないのではないか、と会員が疑いたくなる現実があるからのように見えます。

     各会の規則は、前記したような会員の意識離反が手伝って、逆に無関心のなかで一部を除き議論もないまま、制定に向っているという状況もあるようです。冒頭書いた「弁護士保険」の発想のなかには、弁護士費用の不安解消は、弁護士へのアクセス障害の除去であるとする見方もありました。ただ、肝心の弁護士をつなぎとめる、ということは、どこまで織り込まれているのか――。一般化してきた弁護士特約の裏で、そこも疑いたくなってくるのです。


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    No title

    >つーかマトモなボス弁ってどれくらいいるのよ?抜き打ち調査で調べてくれ

    某会会報によると紛議調停でイソ弁がボス弁に雇用契約の支払いを求めた件があったそうだから、抜き打ちしたら怖いことになりそうだぬ。
    https://twitter.com/nakanori930

    No title

    なんでこういう貧乏くさい話になるんだ?
    嫌ならLACなんか辞めればいいだけだろ。
    実際やってない人の方が多いんだし。
    貧乏臭い事件しか引けないからと言って他の弁護士を巻き込むなよ。

    No title

    弁護士保険で、5大が国際事件や企業事件をやればいい。

    顧問料よりも断然保険料のほうが安い(月額数千万円が月額数千円になる)。アワリーフィーは1万円まで。タイムチャージ制をとったときの上限額はあるが仕事は貫徹せよ(数十億円が数十万円になるが、気にするな)。金を理由にした辞任は禁止。金のことで四の五の言うな。クオリティーは当然維持せよ。

    クライアント大喜び。日本企業も日本経済も大復活し、謝罪会見で頭を下げるCEOの隣で国際弁護士が突っ立っているというつまらないニュースもなくなる。経費が減って、配当可能利益が増え、投資ファンドも大喜び。

    今の日弁連会長は弁護士保険を全分野に広げる方針だそうだが、国際事件や企業法務を除外する、というダブルスタンダードは、絶対に許されない。

    No title

    >マトモなボス弁ってどれくらいいるのよ?抜き打ち調査で調べてくれ

    調査項目は?
    イソ弁は労働者ではない(ノキ弁は言うまでもなく)
    イソの勤務状態?→イソ弁は労働者ではない
    イソの指導時間?→弁護士は登録した時点からプロ

    項目がザルすぎてあかんわ。
    一応、弁護士の知識・技能は二回試験までに担保されているともいえるだろうし。

    抜き打ち検査の調査監督を行うのは?

    無理無理。

    No title

    LAC云々はともかく、マトモなボス弁の下にいない新人に信用なんかあるわけ無いだろと。
    つーかマトモなボス弁ってどれくらいいるのよ?抜き打ち調査で調べてくれと言いたいレベル。特に地方

    No title

    下の投稿は、LACは報酬が安くて当然だ、という、前提それ自体を、見直す方がいいと思いますよ。

    LACの報酬基準が低いから、トラブルになっているのです。

    そもそも保険会社が法律相談センターの報酬基準にしたがうならば、そもそもトラブルなど全く発生しませんよ。

    大手事務所の顧問料並みの報酬を、LAC弁護士に払う。
    他方で、大手事務所の顧問料をLAC並に下げる。

    損保会社には、このようにバルクで考えてご対応頂くことで、LACの紛争が減りますし、従前通りに顧問先には仕事をして頂けるので、大変良いお話なのでは。

    No title

    そうか、これまで保険会社の顧問弁護士は、金額が低くても、高い事件のために依頼を受けてマンパワーを割かなければならなかった定額事件を体よく押し付けて自分はより効率よく実益を取ろうとする制度なんだね。

    No title

    >「質の確保」をうたいながら登録期間3年以上
    >弁護士歴3年以内ではLAC案件をやらせるべきでない

    当然ではないか。OJTが機能していた頃ならいざ知らず、現在の弁護士歴1年2年がそんなに信用できる実力があるかどうか。いや、絶対にない。
    ただし、ボス弁が法テラスまたはLACと契約しており、事務所内での書面のチェックができているのなら別ではあるが。

    >内容問わず懲戒歴があるものを除外したり、さらには審査・調査対象の段階のものまで除外の検討対象にすること

    これもどこに問題があるのかわからない。
    弁護士会の懲戒は、苦情レベル程度では決して懲戒にならないと言っても良い。ツイッターでは会務を積極的に受けていればごにょごにょという話もあった。
    しょせん懲戒になるとすれば、会費の滞納であろうが、これは横領の不安があるかどうかの問題にも直結するから懲戒歴がある者を除外してもかまわない。
    当然懲戒には乱訴もあるため、その選別はなされるべきだとは思うが、現在の懲戒制度においてはLACに不信感を持つことは間違っている。

    >その弁護士自治を支えるはずの個々の会員側に、日弁連・弁護士会が立っていないのではないか、と会員が疑いたくなる現実

    弁護士自治のあり方をもう一度考えるべき時にはきていると思うが、弁護士自治=会員を守るということなのかも併せて考えるべきであろう。

    No title

    司法制度改革は、1%の既得権益層に、利益を集中させるためのものですから。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
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    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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