懲戒請求に発展した委任状変造問題

     3月3日の日弁連臨時総会で、3人の東京弁護士会会員の委任状の受任者が、委任者の承諾なく、他の会員に書き換えられていた問題(「弁護士自治の足を引っ張った日弁連臨時総会」)について聞いた、弁護士会外の人の反応は、ほとんど一様に「理解不能」というものでした。それは、いうまでもなく、委任者の意思を反映させるというその役割を根本的に否定するという意味では、委任状の扱いとして絶対にあってはならないことであり、なおかつ、それが法律の専門家集団である弁護士会であれば、およそ最も起こり得ないと考えられるところで発生したという二重の意味において、当然の反応ではありました。

     このことを踏まえると、臨総終了直後から、東京弁護士会サイドから出され、同月7日には小林元治会長名で出された談話のなかでも示された「事務的なミス」という説明、さらには会内の一部に出始めている、この説明でこの事態を収拾すべきとするようなムードには、前記反応と隔絶したものを感じてしまいます。

     「弁護士会だってミスはする」という弁護士がいました。まさに東京弁護士会の立場は、そこにすがるものにみえます。しかし、前記エントリーでも書きましたが、受任者名が書かれているにもかかわらず、白紙委任状として疑いもなく分類し、そこに書かれた受任者を疑いもなく訂正した(他の職員が誤って別の名前を書き込んだと判断した)という「ミス」を重ね合わせる不自然さ。それに加えて、そもそもこんなことが起こり得る白紙委任状の扱いが、こともあろうに弁護士会でなぜ行われていたのか、という疑問。ここが二重の意味で「ミス」で片付け難い問題である、という認識が、どこまで同会理事者にあるのか、という疑問に突き当たるのです。

     ここにもう一つ、付け加えなければならないは、「責任」という問題です。「ミスであれば、弁護士会という組織は、一体、誰が責任をとるのですか」。前記反応のなかで、こんな疑問の声を聞きました。前記談話のなかにも、「事務局が」「職員が」という言葉が出てきます。しかし、たとえ「ミス」だとしても、前記事情をみれば、「ミス」に関する監督責任だけでなく、これをやらせていたという根本的な責任が会執行部にある、と考えなければならないはずです。原因究明や再発防止に言及した談話をみても、その点でもなにやら一般の目線とは隔絶した、この問題への甘い認識をみてしまうのです。

     こうしたなか3月22日、この問題は遂に、受任者名を書きかえられた3人の委任者の一人である八坂玄功弁護士が、東京弁護士会に対して、会長である小林元治弁護士の懲戒請求(会の対内関係における秩序を乱し、対外関係における信用を著しく毀損〈弁護士法56条1項〉、同時に、品位を失うべき非行〈同法56条1項〉)を申し立てるという事態に発展しました。

     懲戒請求のなかで、八坂弁護士は前記「ミス」で説明する弁護士会の見解の不自然さとして大略以下の5点を挙げ、変造は意図的であり、それが会長印の押印で行われていることから、同会長の責任は明らか、と主張しています。

     ① 受任者名が明記されている委任状と明記されていない委任状とでは外見上、容易に見分けがつくものであるから、受任者名が明記されている委任状を白紙委任状と誤って分けたという説明は極めて不自然。
     ② 白紙委任状には執行部側が出席予定の執行部案に賛成の会員の名前を受任者として適宜補充するとの運用が仮に許されるとしても、白紙委任状に受任者名を記入する際に、本件においては、受任者名欄に北周士会員の氏名、登録番号が委任者名と同じ筆跡で明記されていたのであるから、他の事務職員が受任者名を誤って書き入れたと誤信したとの説明は極めて不自然。
     ③ 受任者名を(委任者印ではなく)東京弁護士会会長印で書き換えるといった方法は、法律の素人であっても有効性に問題を感じるのが当然のやり方であって、弁護士業務に日ごろから触れている事務職員が勝手にやれるはずはない。東京弁護士会会長から明示または黙示の指示がなければやれない。
     ④ 受任者である北会員が委任を受けていた18通の委任状の内、3通もの多くの委任状が受任者名を書き換えられていた。仮に単純ミスであるとしたら、北会員という特定の受任者にのみこのような高い割合で単純ミスが重なるとは到底考え難く、この点でも、東京弁護士会会長側の説明は極めて不自然。
     ⑤ 本当に「ミス」によるものなのか、委任者ら本人が受任者名の書き換えに同意したのかは、委任者ら本人に確認しなければわからないはずなのに、変造問題発覚後、会長は、委任者ら本人に一切確認おらず、何らの照会もしなかったことは極めて不自然。

     さらに、八坂弁護士は、これが「ミス」としたとしても、なぜ、こんなことが弁護士会で発生したか、という前記疑問に関わる重大な指摘をしています。それは、すばり「従前から、東京弁護士会においては、日弁連総会などにおける弁護士会長印による受任者の書き換えが行われることが常態となっていた」というものです。その問題の運用を大略次のようなものであるとしています。

     ① 執行部が執行部提案に対する白紙委任状をかき集めるとともに、総会当日に出席する執行部派の会員に、一人50通までというルールの範囲内で適当に委任状の受任者を割り振るという運用を行ってきた。
     ② 委任状の中には、執行部提案に賛成であっても受任者名が明記されているがその受任者が総会に本人出席しない場合、いったん受任者を割り振ったもののその受任者が都合により総会に本人出席できなくなった場合、何らかの事情で受任者が明記された委任状が50通を超えてしまった場合等がある。
     ③ それらの場合に、執行部提案に賛成する委任状を死票としないために、会長印によって、受任者名を総会当日本人出席する執行部提案に賛成する会員名に書き換えていた。

     つまり、ここで指摘されているのは、委任状の持つ本来の意味よりも、とにかく執行部提案を通すことに前のめりになっている弁護士会の姿勢です。受任者名が書かれている委任状の受任者が、委任者本人の意思確認もないまま、会長印によって実行されるという事態は、こうした東京弁護士会の慣行の中で発生した、ということになります。

     法律専門家集団のなかで常態化していた委任状をめぐるこの扱いをみてしまうと、冒頭の「理解不能」という反応が、より正常なものに感じられてきます。隔絶感というのであれば、そもそもこの問題が発覚しながら、採決に及んだ日弁連執行部と、それを受け入れた多数の出席会員にも覚えたこととではありました。しかし、今回の事態に対する責任と、委任状をめぐる慣行に弁護士・会が、これからどう向き合うによっては、前記した隔絶は、いよいよ決定的なものになるとみなければなりません。
     

    弁護士自治と弁護士会の強制加入制度の必要性についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4794

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信中!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    No title

    兵庫県弁護士会でもかつて主流派の理事者がすぐにばれる変造をやってたからね。本来このときに反主流派がきっちり決議無効なり懲戒手続きなりを踏んで、物事の筋道というのを主流派にも分かるように教えてあげておくべきだったんだが、下手に甘い顔をして手加減したものだから、その後も変造が止まらない。

    No title

    これで懲戒にならなければ、それこそ日弁連の腐敗体質がよく分かるというものだろう。

    No title

    受任者名が明記されている委任状を会長印で訂正なんて、すぐにばれて証拠の残ることを故意でやるわけがない。
    また、委任状集め自体は執行部反対派もやっていることだ。

    東弁執行部にはみっともない話だが、これで懲戒請求となると???だね。
    故意が立証できる見込みがないのに請求したのなら、濫訴として逆に懲戒請求されてもおかしくないよ。

    No title

    弁護士は事件内容の正当性なんてどうでもいいと思ってるフシがある。
    極端に言えば、善悪関係なく自分の理屈で相手を屈服させることに酔っている輩が一定数いる。
    だからしばしば一般人には理解できない言動を起こすし、場合によっては「私は無能なので真相を見抜けなかった。そんな無能な私を騙した依頼人が悪い、私は悪くない」とか言い出す。

    こんなのが未だに排除、改善されてないんだから、上層部に似たのがいても不思議じゃないし、「ミスと呼ばれてる行為はミスじゃない」で思考が止まるから、その後何言っても無駄なんだよね。
    弁護士特有の病気と言っても良いんじゃないかな。

    No title

    八坂先生、GOOD JOB!!!

    No title

    懲戒請求は基本的に非公開。あまり会員の名前を全部出すのはよろしくないのでは(イニシャルで足る)。

    どのみち委任状の運用のルールが会にある以上、請求は棄却されるかあっても戒告。さすがに反訴を起こされることはないだろうが、外野としてはそういう冷ややかな目で見ている。
    どちらかというと、ツイッターで拡散したほうも悪いという批判もかなりあるようで(ということもツイッターでの情報だが)、なあなあに終わりそうな気もする。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR