弁護士が「営業」を意識する時代

     これからの弁護士に必要なものは何か――。こうしたテーマについて、語られる時、最近、弁護士からも「人脈」とか「営業力」といったことが挙げられるようになりました。

     これは、市民からみれば、あるいは事業活動の要として極一般的なものとして理解されるかもしれません。独立開業系の資格業についての独立成功の秘訣といえば、ノウハウ本などでは定番のキーワードだと思います。

     ところが、法律関連の士業の中で、弁護士についていえば、これらのキーワードがあまり掲げられてこなかった現実があります。弁護士の中には、こうした士業の間で、最もそれらを意識していなかった資格業という人もいます。

     いうまでもなく、それは弁護士が、これまで恵まれていたということを意味してしまいます。もちろん、弁護士の中にも、人脈づくりや営業活動に熱心な人もいないわけではありませんでしたが、そうした努力を二の次にしても、仕事が舞い込んでくる環境を作れてしまう人が多かったと、いうべきでしょうか。

     事務所に就職し、修業しながら、その顧客をベースに、紹介という形で依頼を獲得し、やがて顧客を持って、独立するといった、これまでの典型的な弁護士開業モデルのなかでは、ある意味、「人脈」は自然と出来上がり、いわゆる「営業」努力に基づくものではない集客がなされてきたとみることはできます。

     それが、にわかに弁護士が「人脈」「営業力」を口にし始めたのは、これまたいうまでもなく、弁護士の中に自らの業務の将来に対する経済不安が高まってきているからにほかなりません。他士業との交流会などを通して、弁護士がいかにその点で努力をしてこなかったかを改めて自覚し、覚悟を新たにされている方もいるようです。「街弁」ならぬ「待ち弁」では、生きていかれないという危機意識ともいえます。

     もちろん、「ソクドク(即独立)」時代の若手弁護士にとっては、これらは当たり前にのしかかっている課題といってもいいと思います。特に、「人脈」についていえば、「親弁」なき彼らは、自らのスキルアップと仕事獲得のために、界内人脈の構築が必要となります。伝えられる「ソクドク」成功例には、そうした先輩弁護士との「人脈」構築の重要性が強調されているものを見ます。

     もっとも、これも一口でいえるほど、簡単なことではないと思います。これだけで「ソクドク」の成功への道が開けるわけではなく、弁護士に限らずどんな開業成功例にもあるような、個々の立場での環境的なメリットや、時には運も味方につけての話ではあります。

     そもそも界内人脈でいえば、その拠るべき先輩弁護士が、決定的に余裕がなくなってきている現実は抜きにできません。あるいは、彼らの中には彼ら自身が、5年後10年後の生き残りをかけて、今、頭を切り替えることにいっぱいというのが、本音ではないかと思える現状もあります。

     さて、弁護士の「営業」で最も問題とされかねないこと、あるいは注意すべきことは何でしょうか。おそらく、社会が最も悪い意味で、反応することになるのは、「紛争の焚きつけ」ということだろうと思います。

     弁護士は本来、紛争を抱え、あるいは抱える可能性がある人とのアクセスを確保する、接触障害を取り除くことが必要になる仕事であり、「営業」もその意味での努力とくくれなくはありません。広告も、その目的で肯定されます。問題は、弁護士のそうした積極的な大衆へのアプローチが、紛争そのものを作り出すことにつながった場合、あるいはそうされてしまう場合です。

     「営業」というのは、まさしく弁護士のサービス業としての競争を多分に意識したものであることは間違いありません。弁護士界の中からは、弁護士増員時代の到来と絡めて「仕事の掘り起こし」的なことがいわれています。仕事がない、ニーズが不足しているという増員慎重論に対し、「まだまだある」というものと結びつけられて、この「掘り起し」論が、もはや精神論としていわれている面もありますが、これは、ある意味、「営業努力論」と置き換えられると思います。

     問題は、「掘り起し」と「焚きつけ」が、大衆にとっても、弁護士にとっても、区別がつきにくいということです。加熱する競争と「営業努力」のなかで、「掘り起し」という名目の「焚きつけ」が行われかねない危険があるのです。

     それでも「日本はアメリカのような訴訟社会にはならない」という人がいます。ただ、そうであったとしても、そうした形で弁護士が乗り出す社会を本当に国民が求めているのか、そこが問題です。すべてを弁護士側が、「泣寝入り社会になる」と位置付けて、こうした方向を進めていくのは無理があります。

     他の士業や仕事が当然のやっている努力を弁護士もやるだけだ、という声も聞こえてそうですが、どんな士業よりも、弁護士の仕事は、より紛争を作ってしまえる仕事、その危険性が高い仕事ということができます。そのことを考えれば、彼らより、そうした方向への歯止めとなる高い職業倫理が求められることも、また、現実を前提にする以上、彼らの「営業」努力の先行きに社会が注視せざるを得ないことも当然のように思います。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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