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    止められない「改革」を支えているもの

     「一旦動き出せたならば、止めることは容易ではない」。今回の司法改革が動き出したころ、その成り行きを不安視していた、ある弁護士がこう語っていたのを思い出します。結果は、その通りになっている。しかし、今思えば、それは、正直、その時の想像以上に思い知らされることになった、といえます。

     弁護士の増員政策が、ここまで失敗し、需要が顕在化せず、ひいては弁護士という仕事の経済的価値まで下落させ、挙句の果てには、ここまで人材が目指さない仕事になる、ということは、おそらく「改革」の未来を描いた人はもちろん、不安視していた人の想像も超えていたといえるかもしれません。

     しかし、それもさることながら、ここまではっきりした影響が出ても、しかもこの政策でもっとも打撃を受けた弁護士(界)自身が、この元凶たる増員政策方針を改めることで一致できない。そのことはどの程度想像できたのでしょうか。当初「改革」を支持した弁護士の中にも、明らかに悪い影響が出たならば、その段階で改めればいい、やってみなければ分からないくらいに安易に考えていた人もいたはずです。

     日弁連は、弁護士の就職難など、増員政策の「実害」に直面したのを受け、2008年に初めて増員のペースダウンの必要性を唱え始めます。しかし、その時点で、この政策の根本的な無理に踏み込むこともできなくはなかった。しかし結果として、このペースダウン路線、増員減速の必要性を掲げながら、増員政策そのものは肯定する路線は固定化してしまいます(「『改革』の反省と『市民目線』という描き方」 「巧妙で曖昧な増員『ぺースダウン』論」)。

     ペースダウン論はいうまでもなく、「問題は増員ぺースが早過ぎただけ」というものですから、増員の減速によって、政策は「実害」を生まないだけでなく、「改革」としてプラスの効果を生み出すのを前提にしていることになります。ゆっくりな増員に併せて、需要が生まれる。需要に併せて弁護士の数を追いつかせるという当初の話が、いつのまにか弁護士の増員に、需要が生まれ(あるいは顕在化して)、追いついてくる(はず)という描き方になったことになってしまいっています。

     これは、別の見方をすれば、需要見通しの失敗については、基本的に一顧だにしない、反省も検証もしない、ということを意味しています。そして、この減速論を述べ続け、やがて需要が追い付くということを言い続ける限り、根本的に増員路線の失敗が省みられることはない。それがいつまで続くのか、その間、弁護士自身がどのような影響を被るのか、は問われず、その間、仮に増員政策のメリットが顕在化しなくても、それは延々と言い続けられるかもしれないのです。それが、まさに年合格1500人からの、減員方向で一致して舵を切れない、冒頭の「止めることが容易にできない」でいる弁護士会の現実といわなければなりません。

     もちろん、増員政策だけでありません。この増員政策に乗っかって出来た法科大学院制度も、もはや失敗ははっきりしている。増員政策が失敗し、制度への要請そのものが仕切り直されていい、ということがあります。それに加え、新たなプロセスとともに加えられた経済的時間的負担に対して、制度そのものが志望者に選択される「価値」を示し切れなかった。

     ところが、それを一番に直視するのではなく、単に時間的負担を軽減する、資格取得への時短化政策で、この制度を維持しようとする見直し政策が、今年、打ち出されました(「法曹資格取得『時短化』法成立が意味するもの」 「法科大学院在学中受験『容認』という末期症状」)。制度擁護論者からも疑問が出る弥縫策は、もはや「止めることが容易でない」この「改革」の現状を象徴しています。

     「国の政策を議論する際に客観性の乏しいデータで弁護士不足を声高に叫んだ結果、どのような事態を招いたのかということについて、国の関係省庁(法務省、文部科学省)だけでなく、弁護士会も猛省する必要はあるのではないでしょうか」

     「プレジデントオンライン」が12月26日に、こう語る田村秀・長野県立大学グローバルマネジメント学部教授の原稿「弁護士が人気職業から陥落した元凶は国にある」を掲載したことが話題になっています。法科大学院での司法試験をパスしたことのない教員による指導、15年で法科大学院半数以上廃校、弁護士の収入減と社会的価値低下、志望者学生数の大幅減、弁護士は少な過ぎるという思いこみ、諸外国との比較で弁護士不足を導き出した誤り、弁護士を増やせば需要が増えるという安易な考え――。これらの事実をきっちり踏まえたうえでの前記結論です。

     大手新聞に比べて経済誌は、これまでも「改革」路線について現実を直視した論評も一部にみられてきましたが(「法科大学院制度『元凶』を伝えた経済誌」)、今回もこの掲載論稿が「失敗」の責任に言及している点は目を引きます。逆にこうした当たり前の視点に立てないのが、「改革」の当事者であるということにされてしまわないでしょうか。

     私たちは、本当は何のための「改革」の延命策をみせられているのでしょうか。来年は日弁連会長選挙があります。そろそろこの「止められない『改革』」に対して、新たな流れを作るきっかけを期待したいところです。

     今年も「弁護士観察日記」をお読み頂きありがとうございました。いつもながら皆様から頂戴した貴重なコメントは、大変参考になり、刺激になり、そして助けられました。この場を借りて心から御礼申し上げます。来年も引き続き、よろしくお願い致します。
     皆様、よいお年をお迎え下さい。


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    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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