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    「超人」弁護士たちへの目線

     おカネをとらずに、弁護を引き受ける弁護士がいます。私が尊敬している故・遠藤誠弁護士もそういう人物でした。おカネのない、闘う市民の弁護は、タダで引き受ける。仏教者であり、左翼であり、革命夢想家であった彼は、あくまで本業はそちらの方で、「人権派弁護士」を自認しながらも、「弁護士はあくまで余技、趣味」とまで言い切っていました。

     彼との思い出、というよりも、彼の存在と生きざま自体が、今でも強烈に私のなかに焼き付いていますが、彼は自分のスタンスについてこう語っていました。「革命でも法律でも救済されないものがある。そのために仏教が必要なのだ」と。彼は、自らの思想を、釈迦とマルクスを信奉する「釈迦マル主義」であるとも、真剣に主張していました。

     「奇人」と言われていましたが、彼には幅広い分野の熱狂的なファンが沢山いました。左翼・右翼活動家、仏教をはじめとする宗教関係者、メディア関係者、彼が主宰する仏教の会でつながる市民たち、日弁連会長経験者を含む法曹関係者などが、時々開かれる彼を囲む会に集まり、彼を持ち上げたり、こき下ろしたりするのを、いつも末席で見ていた私はつくづく、彼は多くの人に愛され、幸せな人だなあ、と思ったものです。

     そして、その集まった人々の中には、いつも前記彼の信念に基づき、弁護士としての彼に救われた市民が、まさに手を合わせるように彼に感謝の言葉を述べる姿もあったのでした。

     「『お金のために、というのは僕の生き方じゃない』 北海道の山奥に移住、費用ゼロで公権力に挑む”山小屋弁護士”」

     こんなネットニュースの記事が、最近、ネット界隈の弁護士の間で話題になりました。ここに登場する市川守弘弁護士も、思想的な背景が同じかどうかは分かりませんが、遠藤弁護士同様、自らの信念に基づいて、弁護士費用を受け取らとらずに弁護を引き受けるタイプの弁護士として紹介されています。

     彼はこう語っています。

     「極力経費は落としちゃって。食っていければいいんだから。その代わり、意味のある公益的な事件は率先して弁護士費用なしで取り組めたら、僕の残りの人生、生きがいがあるんじゃないかなあと」
     「昔ながらの戦後の日本の経済成長と同じで、地域社会がしわ寄せを受けながら、儲かるところが大きく儲かっていこうという、その構図が現代においても典型的に現れている。これは正義に反する、アンジャスティスなんですよ。こんなのは許せない」。
     「弁護士である前に一市民であると思っているし、市民として行動するときにたまたま自分が弁護士という職業についているんだから、その職業についていることを市民として生かせればという風に思っている」

     ここでやはり二つのことを、あえて確認しておかなければならないように思います。一つは、弁護士界には、昔から業界内でも話題になるような、時に清貧という言葉をあてがわれるような、彼らのようにおカネ度外視、経済的成果度外視の、信念に基づいて闘う弁護士がいること。そして、もう一つは、それは昔から決して一般化できない、絶対的にレアな存在であったこと、です。

     この記事の中で登場する、同業者をはじめとする関係者の声を見ても分かるように、市川弁護士も遠藤弁護士同様、「奇人」の部類に属するという扱いです。一般的な資格業としての弁護士とは、別の、あるいはそれを上回る「価値」を見出している個人的な信念がなければ、彼らのようなことはできないし、彼らの領域に達することはできない(遠藤弁護士にとっては、本業ですらなかったのですから)。

     だから、逆に彼らのような姿勢を、弁護士業という資格業に求めるというのは、違うというべきなのかもしれません。別の言い方をすれば、資格業たる弁護士から入って、彼らのような人材に辿り付くのは、ある意味、昔も今も無理があるといわなければならないように思うのです。

     以前から時々、メディアで取り上げられる、彼らのように信念に基づき、無償で弁護を引き受ける弁護士について、ひとつかつてと大きく違ってきたと感じることがあります。それは、彼らの取り上げ方に対する同業者の目線です。今回のような取り上げ方がされる度に、こうした弁護士の姿勢が一般化される、そういう形で社会に伝わることの方を危惧する同業者の声が、ネットなどを通じて聞かれるのです。

     「彼らは尊敬できる。でもどの弁護士もが、彼らのような『超人』になれるわけではない」

     同業者のそうした声は、当然、利用者市民の過度な要求につながることを懸念するものといえます。彼らのような「超人」が、弁護士の鏡であり、あるべき姿のようにとらえられれば、即座に「なんであなたはそれをやらないのか。やっている弁護士もいるじゃないか」という依頼者市民の声が返って来るのではないか、そういう声につながるのではないか、というおそれです。

     しかし、もともとそれは現実的に無理といわなければなりません。資格業として成り立たせ、普通に生活をして、家族も養う、そのなかでゆとりや豊かさも求める。そういう前提でない人だけが、弁護士になるなどということは、過去においてもない。いかに人権の擁護と社会正義の実現を使命にする資格であっても、「超人」「奇人」だけが務まる仕事という話はどこにもないのです(「弁護士『薄利多売』化の無理と危険」)。

     もっとも、かつてと違うところもう一つ挙げるとすれば、「超人」も「超人」予備軍の人材も、「改革」によって、かつてよりも生きづらく、生まれづらくなった、ということはいえるかもしれません。おカネをとらない弁護士たちが、何で生活できているのかには、そもそも個々人の一般化できない事情や有利な条件がある可能性もあります。しかし、それを脇においても、増員政策による弁護士の経済的激変は、彼らの信念を貫けるだけの、最低限の経済的余裕も奪っていることは考えられます。

     どこまで耐えられるかは、それこそ彼らの信念と価値観に委ねられることですが、依頼者市民にとっては、それこそ手を合わせたくなるような彼らの信念を、貫き難くする方向、いわば足を引っ張る方に、「改革」が作用していることは十分に想像できることです。

     もう一つ、メディアの取り上げ方に関係して、同業者の不安をかき立てている事情を付け加えておく必要があります。それは、日弁連・弁護士会主導層の姿勢が、自己犠牲を前提にしている弁護士像を、弁護士法1条の使命の先に、理想としているように見えることです。そして、それは個々の普通の弁護士として、決して有り難くないアピールを社会に対してしているのではないか、ということです。

     採算性ではなく、あるべき論を前提に、弁護士のニーズを考える。まさに増員政策の失敗につながった発想は、基本的に変わっていないのではないか、と。強制加入でありながら、会費が個々の弁護士の業務にプラスに跳ね返ってきているという実感できない現実につながっているものです。そして、そうした主導層の弁護士自身は、必ずしも「超人」ではない、という事情も付け加わっています(「問われる弁護士会主導層の現実感」 「日弁連の『改革』の発想と会員の『犠牲』」)。

     市川弁護士の記事のなかに「絶滅危惧種」という表現が出てきます。昔も今も彼らのような弁護士は「絶滅危惧種」だったというべきです。また、彼らのように生きて、信念を貫き、感謝されることは、遠藤弁護士に感じたように、傍目にもそれは幸せな人生のようにも思います。しかし、間違えてはいけないのは、それは彼らの個人的な信念を貫く幸福感のうえに成り立つものです。増やせば「超人」も増えるのではないか、という期待感も介入しがちですが、資格業のあるべき論につなげることは、一般の弁護士たちにとってだけではなく、結局、弁護士という資格が成り立つ基盤を根底から揺るがし、そして私たちにとって有り難いはずの、彼らの「信念」も絶滅に導くということは分かっておく必要がありそうです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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