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    「改革」に被せられた経済界の思惑

     弁護士の経済的価値の下落による志望者減という、法曹養成の根幹を脅かすような負の影響をもたらしてしまったことが、もはや明らかになっている弁護士激増政策にあって、最も利を得たのは経済界ではないか、という指摘が、業界内には根強く存在します。端的にいえば、社会全体として、そのメリットをそれほど実感できないなかで、彼らは「改革」によって確実に弁護士について、より「使い勝手」が良い環境を手にしつつあるのではないか、ということです。

     弁護士増員推進派の論調のなかには、「裾野論」といわれるものがあり、つとに全体を増やさなければ、細部のニーズに応える人材を確保できないということがいわれてきました。10年で10倍に増え、弁護士の活躍する分野として最も目下、最もその将来性が期待されている形の企業内弁護士についても、「効果」としてそれを当てはめる人がいます。

     しかし、これは、かつて増員推進派の人権派弁護士たちが言っていた、まるで含有率をいうような「増えれば志向する人材も増える」式の話ではないとみるべきです。要は、彼らが手にしたもの、したかったものは、むしろ環境といえます。弁護士増員がもたらす経済的環境の変化によって、経済的に彼らを利用できるハードルが下がり、かつ、より主体的に選別・交換可能な環境を手にすること。これまでの顧問弁護士に依存する関係よりも、よりリーズナブルにかつ自社ニーズに沿う形の弁護士を内部に抱えるのに、ふさわしい環境が生まれる可能性を激増政策の先に読みとったのではないか、ということです。

     経済的環境の激変による不安定感は、新たにこの世界に来る人材の志向を、以前の独立自営型のスタイルよりも、企業内のより経済的安定を求める形に変えたことも彼らにとって都合のいいものになったといえます。経済界全体が、増員後に弁護士の有償需要が、ここまで顕在化しないことを読み込んでいたかは分かりませんが、弁護士増員ありきの政策が、その社会的需要を考えたときに、過剰なものになる危険性に気付いていた経済人もいました(「『改革』論議の本末転倒なアプローチ」)。

     しかし、それでも激増政策を後押しした経済界は、その先に前記「果実」をとることを目論んでいたとみれば、言葉は適切ではないかもしれませんが、弁護士全体の有償需要の存否などどちらでもよかったということになります。弁護士余りが顕著となり、増員の「受け皿」ということが取り沙汰され始めたとき、メディアなどに登場した企業法務関係者が、「改革」路線側のある種の期待感に、クギを刺したのは、当然といえば当然の話です。

     つまり激増弁護士の「受け皿」ではなく、われわれのニーズに応える弁護士を必要な分だけほしいだけなのだ、と。そのための環境を作るために、従来の環境を壊したかった、そのために激増政策には賛成した、しかし、そのために増員弁護士が経済的に支え切れないとか、その先、どういう影響が出ようと関係ない、われわれが議論する問題ではない、というのであれば、非常に分かりやすい話というべきです。

     4年前に、経済同友会の司法制度改革検討PTが発表した法曹養成制度に関する提言「社会のニーズに質・量の両面から応える法曹の育成を」のなかでも、そうした彼らの法曹養成に対する本音ともいうべきものが透けてみえていました。

     「バイブル」ともいうべき2001年の司法制度改革審議会最終意見書は基本的に正しかったが、「改革」の現実が法廷偏重の旧来の実務家養成の発想に傾き、本当の社会のニーズに応える法曹を輩出できていない、その旧来の発想を引きずった司法修習制度や司法試験が残った結果、法科大学院制度の足が引っ張られている――と描くこの提言のなかで、「法曹」について彼らは独自に次のように三つに分類をしています。①法廷実務中心の法曹=最狭義の法曹②経済のグローバル化とともに、日本企業の競争力を支える企業法務を専門とする法曹=狭義の法曹、③法律のスペシャリストではなく、企業、行政、政治、福祉や教育を舞台によりジェネラリスト的に活躍する法曹=広義の法曹。彼らは②③の必要性を強調し、それこそ彼らが確保したい人材であることをうかがわせています(「経済同友会、法曹養成『改革』提言の描き方」)。

     提言は、こうした法曹の描き方、認識のうえに、司法試験年間3000人の目標の堅持を主張しています。そして、「社会のニーズ」としながら、実質、自分たちのニーズとのマッチングという欲求をもとに、法曹養成を提言しているのです。そのおかしさ、問題性を森山文昭弁護士は、著書のなかで次のように指摘しています。

     「法律を専門としないジェネラリストとしての法曹が、どうして司法試験に合格しなければならないのかがわからない。現在でも、法学部を卒業した大勢の人が、右提言にいう『広義の法曹』として活躍しているのである。『広義の法曹』の活躍が重要だというのなら、法学部教育の充実を考えるべきではないだろうか」
     「司法試験の問題や合格基準を『広義の法曹』に合わせてやさしくするべきであると言っているようであるが、問題であろう。それでは法廷業務はできない。法廷業務をする能力のない法曹に裁判を依頼した当事者は、大変な損害を被ってしまう。それを避けるためには、法廷業務をすることのできる資格を認定する別の試験を考えないといけないことなる」
    「結局、今の司法試験と同じような試験を別に実施する必要が出てくるのである。そのようなことなら、司法試験は現在のままにしておいて、『広義の法曹』を養成する法学部教育の充実を考えた方が、よほど効率的なはずである」(「変貌する法科大学院と弁護士過剰社会」)

     彼らは、これからも自分たちのニーズも、りっぱな「社会のニーズ」として、この「改革」に当然にその欲求を被せるはずです。しかし、彼らのいうニーズが、「改革」の先の法曹養成や、社会にとって弁護士のあり方について、どこまで深く考慮しているのかは疑ってかかる必要があります。この「改革」を「市民のため」と銘打っていた日弁連・弁護士会が、企業内を含む組織内に弁護士の「活動領域の拡がり」を期待し、経済界こそが「利用しやすい」という「改革」メリットを既に手中に収めつつある現実をみるにつけ、改めてそのことを感じます。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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