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    困窮する若手弁護士への同業者目線の印象

     あるいは日弁連主導層の目にはとまらないのかもしれない(「弁護士『貧富』への認識というテーマ」)、若手弁護士の姿が報じられています(「新人弁護士『年収100万でファミレスバイト掛け持ち』貧困の実態」ダイヤモンド・オンライン12月21日付け)。

     30代前半の「即独」で、スマホ一本で仕事をとり、喫茶店やファミレスで打ち合わせをする「スマ弁」。弁護士の年収は100万円を切り、それを上回るアルバイト収入年150万円で、高い弁護士会費や貸与金返済分を払いながら生活している。少年事件に携わりたくて弁護士になったが、食べていくだけで精一杯。弁護士としてのスキルも身につかず、今は、法テラスのスタッフ弁護士、企業内弁護士、「どこでもいいから雇ってほしい」というのが本音――。

     あくまで印象の話になりますが、こうした個々の弁護士の経済的困窮ストーリーに対する、同業者の反応は、以前よりも厳しい、というよりも、冷たくなってきているように感じます。厳しいながらも、ある意味、良心的に弁護士業から撤退を促す先輩の声はあります。以前から、独立開業して、苦しくなった若手に、一旦、勤務弁護士に戻るように促す先輩たちの提案はありましたし、その通りにして、再起した弁護士も沢山知っています。しかし、いうまでもなく、現在の撤退勧告は状況も、意味もそれとは全くことなります。独立開業を諦めても戻るところがないばかりか、そもそも就職もできていない。完全な転業、しかもこれまでの資格取得のための労力と投資を投げ打った、先の見えない戻ることのない撤退を促すものです。

     業界外の人間と話すと、この点について、驚くほど認識は深まってないことに気付かされます。弁護士がかつてのような経済的に余裕がある資格業ではなくなったことは、相当程度、今回のようなメディアの扱いで認識されるところになりつつありますが、弁護士ほどの資格あるいは能力を持っていた人材ならば、そこそこ待遇される働き口が用意されているのではないか、と考えている人がほとんどなのです。

     しかし、この記事も押さえているように現実はそうとはいえません。この「スマ弁」氏が語る「どこかに就職するにしても『弁護士資格』が災い」するという話。彼が言うように弁護士という資格保持者としてのメリットよりも、弁護士として勤まらなかったことが減点される、という、現実は、「改革」の皮肉というべきか、法科大学院修了者の、司法試験に合格しなければ減点されてしまうといわれた「法務博士」号を彷彿させます(もっとも、最近、そうでもないということもニュースにはなっていますが。(「法科大学院修了生「モテモテ」記事の危うさ」)

     ただ、こうした撤退勧告は、もちろん厳しくとも「冷たい」という括りには必ずしもなりません。先の見えないところに、取りあえず出ていけ、という風に聞えれば、そこには無責任という言葉を当てはめる人もいますが、さすがに最終判断は自己責任、自己決定ということもさることながら、完全破綻で依頼者に迷惑をかけるまえに、この仕事を無理に続けるな、というのであれば、むしろ良心的ともいえるかもしれません。

     むしろ、気になるのは別の業界の反応です。全くこういう現実がないかのように、取り合わない。冒頭、日弁連会長経験者の言から「会主導層」の目にとまらないかもしれない、とあえて書きましたが、その意味では、実は、そうした階層に限定されず、こういう反応は広がっているようにもみえます。2016年3月の臨時総会席上、ある若手弁護士からも、状況は改善されており、自分の周りでも就職できなかったものはおらず、経済的に困っている者もおらず人権活動もやっている、と、弁護士増員基調を支持する発言が飛び出しました(「弁護士猪野亨のブログ」)。

     また、弁護士のなかには、「改革残酷物語」のように、最近、しきりと取り上げ出したメディアの扱いそのものが、かつてもいたはずの「失敗組」を一般化し、極端に取り上げている、などと、異口同音に評する人たちもいます。

     見えないのか、見ないのか、と問いたくなるところですが、もはや自分たちには関係ない、彼らが消えようが、消えることになる新人弁護士がこの世界にこようが、自分たちにかかわりはない、勝手にしてくれ、というのであれば、説明がつくといえばつく話です。さらには、記事にもあるような、もはや新人を自分たちが育てるべき後進ではなく、「商売敵」予備軍とするかのような目線までが、実際に聞こえてくる現実があります。

     「もはやみんな、余裕がないから」。こうした界内状況について、こう語る業界関係者がいました。もはや多数派かもしれない無関心派に、やや同情的な、その言には、仕方がない「改革」の結果を受けとめているのだ、という響きがありました。しかし、まるで競争による淘汰という「改革」をいつのまにか丸ごと肯定するかのように、「生存バイアス」ともとれる成功者だけを見るムードが広がりつつあることそのものが、前記「冷たさ」の根底にあるようにも思えるのです。

     このダイヤモンドの記事が、他の弁護士の異変や、若手「残酷物語」を伝えるだけのメディアの扱いに比べて良いと思えるのは、一番大事なことを最後にきちっと押さえている点です。

     「『衣食足りて礼節を知る』とは先人の言葉だが、弁護士とて同じ。法律家としての最低限の矜持を保てるだけのサラリーを整えておかなければ、司法が歪みかねない。ひいては、私たち市民の権利も守られなくなる。弁護士界だけの問題とせず、法治国家である社会で暮らす私たち自身の問題として、向き合うべき問題だ」

     弁護士を経済的に追い詰める「改革」が、私たちにプラスをもたらすどころか、むしろそのツケが回ってくるという話。しかし、さらにそれを避け難い、深刻なものにしているのは、「ベテランも後輩たちを育てる気概を失った弁護士業界」と記事は括っていますが、弁護士同士のなかでかつてなく流れ始めた、この冷たい空気であるように思えるのです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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