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    「改革」と弁護士の「リアル」

     日弁連が「もっと知りたい弁護士の世界」と題した新しいパンフレットを作成しました。日弁連のホームページには、こう書かれています。

     「弁護士と聞いてどんな人をイメージしますか?実は弁護士といってもその働き方や思いは人それぞれ。ドラマや映画で見かける姿は、ほんの一面でしかありません。もし弁護士について、もっとリアルな姿を見てみたい!と思ったら、ぜひこのパンフレットをめくってみてください。実際の弁護士の姿は、思った以上に多彩です」

     確かに弁護士の仕事は昔も今も「多彩」であり、テレビや映画をソースにしたい社会にあるイメージとは異なる面はありますし、そこに日弁連が着眼して事実を伝えるというのであれば、それは何の不思議なことでもありません。しかし、このパンプレットから一見して読み取れるのは、少々そうした単純な趣旨・目的ではありません。

     インターネット、ワークライフバランス、被災者支援・刑事弁護での社会貢献というテーマで、若手弁護士を登場させたこのパンフは、そのデザインが象徴するように、志望者減・弁護士離れを意識し、そこから逆算された、ウケを狙ったイメージ戦略、あえて言えば、ここに書かれていることが事実であったとしても、その目的にプラスに作用することだけが切り取られたものにとれるのです。

     パンフの冒頭には「BECOME 弁護士になる道はひとつじゃない」として、弁護士になるまでのプロセスを表した、太い矢印が描かれています。「社会人」と「大学」が同じ太さで「法科大学院」に合流、その流れとやや細い「予備試験」のルートが司法試験に向います。日弁連がいまだ擁護している法科大学院本道主義のなかで、多様性が担保されているような印象にはなります。

     「どのような勉強をしたか」で登場する若手弁護士が、「効率重視でとにかく過去問を研究」したとして、自分にとっての最適勉強法を見つけて、と語っているあたりは、法科大学院教育の建て前からすると、「語るに落ちる」的な感じもします。

     こうしたパンフレットが作られる背景として、日弁連主導層のなかに、現状がむしろ「アンフェア」にネガティブ情報で満たされているという認識(本音ではなく、建て前である可能性も含めて)があります(「弁護士『貧富』への認識というテーマ」)。弁護士増員政策による激変で経済的魅力が下がり、もはやかつてのような魅力ある資格でなくなった、ということが強調され過ぎである、と。同政策に反対したり、弁護士過剰を強調する同業者に対して、偏った論調と批判する見方にもつながっています。あたかも自分たちがポジティブな情報を流すことで、均衡がとれるという姿勢にもとれなくありません。

     彼らの現状認識を前提にすれば、ある意味、その趣旨は分かります。ただ、一番の問題は、それが結果として「生存バイアス」からくる誤解と犠牲を生まないか、という点にあります。今、語るべきは「可能性」か「覚悟」か、という話になりそうですが、前記したような、弁護士離れを食い止めるという目的から逆算されたイメージ戦略であればこそ、その点を加味して、このパンフを見なければならないように思うのです。日弁連がピックアップした「生存」弁護士の姿から、どこまでの弁護士の「リアル」を読み取るべきなのか――。

     もし、日弁連ホームページがいう弁護士の「リアルな姿」にこだわるのであれば、法曹人口問題全国会議が今年9月から10月にかけて全国の弁護士を対象(回答数2879人)に実施した「弁護士人口と法曹養成に関するアンケート」の結果を、併せ読んで頂くことをお勧めします。武本夕香子弁護士が自身のホームページで、この回答を紹介・論評していますので、それもお読み頂ければと思います。

     このアンケート結果の気になる点をピックアップすると、大略以下のようになります。

     ① ここ数年の法律相談・受任件数の増減傾向⇒「大幅に減少」22.6%、「少し減少」が23.2%に対し、「少し増加」15.4%、「大幅に増加」3.8%。「変化なし」は23.5%。
     ② ここ数年の所得の増減傾向⇒「大幅に減少」23.9%、「少し減少」21.4%に対し、「少し増加」21.5%、「大幅に増加」3.7%。「変化なし」22.0%。
     ③ 所属弁護士会の弁護士人口の過不足⇒「過剰」51.4%、「少し過剰」23.5%に対し、「不足」1.2%、「少し不足」2.9%。「需給均衡」8.3%。
     ④ 法曹の質の確保を考えたときの現在の司法試験合格判定基準⇒「低すぎる」57.3%に対し、「高すぎる」3.4%、「適正」12.7%
     ⑤ 現在の法科大学院(司法試験に特化した受験資格付与)の存廃に対する考え⇒「廃止」55.0%、「存続」26.1%。
     ⑥ 弁護士として経済力⇒「不安を感じる」70.1%、「不安を感じない」21.2%。
     ⑦ 弁護士の職業的環境と魅力⇒「低下した」77.4%、「変化なし」13.7%、「高くなった」2.1%
     ⑧ 弁護士の社会的地位と信頼度⇒「低下した」75.3%、「変化なし」16.9%、
     ⑨ 弁護士増加政策(司法試験年1500人を下回らせない)が変更されない状況での、日弁連による法科大学院志願者増加への取り組み⇒「必要ない」54.0%、「必要」23.9%。

     武本弁護士は、以下のような厳しい言葉で締め括っています。

     「弁護士の大半がこのような実感を持っているのにもかかわらず、また、法科大学院制度が崩壊の危機に瀕しているのにもかかわらず、未だに『法科大学院へ行こう。』だとか、『弁護士の職業的魅力を宣伝しよう』とか『弁護士になれば、あたかもバラ色の未来が待っている』かのごとく詐欺的商法さながらの宣伝を行い、若い人たちの人生を弄ぶのは、不誠実極まりない」

     日弁連も法科大学院関係者も、「改革」の結果が出ていればこそ、「なんとかしよう」という発想で、ポジティブ・キャンペーンを繰り出すことになっているのです。日弁連が伝える「多彩な」弁護士の姿が事実であったとしても、「改革」の結果に目をつぶって、目線をずらさせるかのように、弁護士の「リアル」を語ることは、やはり無理があり、それはもはや不誠実と言われても仕方がないように思います。


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    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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